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運命だと言うけれど  作者: 沙伊


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 一部妊婦に対する残酷な描写があります。苦手な方はブラウザバックしてください。

 マルダス王国を出てローディウム帝国にやってきたレオーネは、その発展した様子に呆気に取られた。

 綺麗に整備された道と街並みを行き交う大勢の人々は皆色とりどりの服装で身を飾り、冒険者や商人らしき人間も身なりが清潔な者ばかりだ。道路を走る馬車もみな立派で、辻馬車ですら粗末な物は無い。

 この街に着くまでの道にしても、馬車や馬が負担無く走れるように整えられており、魔物の遭遇はあったものの巡回の騎士隊によってすぐに鎮圧された。

 ここまで最低限の人員で来たレオーネ達だったが、それでもマルダスではそれなりに立派な馬車と、それを守る護衛達のおかげで王子としては充分な格を保っていた。

 だがローディウムに着いてみると、その格も落ち込んでいるように思えてしまう。

 マルダス王国は決して未開の国ではない。王都はかなりの賑わいがあるし、貿易の要として周辺国では一目置かれる国である。

 だが、ローディウム帝国はその更に上を行く。何しろマルダスの王都と同程度の賑わいが、皇都でも何でもない都市にあったからだ。

 確かにレオーネ達が訪れた都市は宿場町として多くの商人や旅行者が利用するところではあるが、皇都からは離れている。そんな都市が王都並に発展していて、かつ王都以上に整備されているとなると、皇都はどれほどのものなのか。

「⋯⋯馬鹿兄はこんな国に喧嘩を売ったのか」

 宿の一室で、レオーネは呻いた。まだ先にある皇帝との謁見を思い、頭と胃がずきずき痛む。

 そんな彼に、ラルクはそっと痛み止めを差し出した。

「喧嘩を売った自覚も無さそうですけどね、王太子殿下は。何しろ運命の番は何よりも優先されるべきだそうですから」

「平民ならそれでもいいかもしれないが、一国の王太子としては下の下だろ。というか、平民でも問題になるぞ」

「そうですね。龍帝国で起きた戦争だって、他人事じゃないでしょうに」

「そうだな」

 レオーネは頷いた。



 二百年前、竜人が治める龍帝国で、運命の番を巡って戦争が起きた。

 発端は、当時の龍皇帝の運命の番が発見されたことだ。問題は、その運命の番が他国の王太子妃だったことである。

 龍皇帝は王太子妃を寄越すよう要求した。だが当然王太子も、何より王太子妃本人も拒否した。彼らは人間だったので、運命の番を認識できなかったのも大きいが、国の長が別の国の後継者の妻を娶りたいなど、醜聞以外の何物でもない。

 だが龍皇帝は諦めなかった。なんと、王太子妃を強引に連れ去ったのである。

 このことが原因で、龍帝国と王国は周辺国を巻き込んで戦争になった。当時のマルダスは龍帝国側として戦ったという。

 だがその戦争は、王太子妃と龍皇帝の死によって終結した。

 当時、王太子妃のお腹には王太子との子供がいたのだが、運命の番が別の人間の子供を妊娠していることを知った龍皇帝が無理矢理堕胎させたのだ。

 それまでに受けた仕打ちと、その一件が引き金となり、王太子妃は自ら命を絶った。それに衝撃を受けた龍皇帝も、衰弱した末に亡くなってしまう。

 他国の王太子妃を死なせたあげく、原因となった龍皇帝も死亡した龍帝国の軍は、戦う意義を喪い一気に瓦解した。

 敗戦国として莫大な賠償を支払い、領地もほとんど失って、それまでの栄華は完全に地に堕ちることとなった。二百年たった今も、龍帝国の住民は帝国というには寂しい領土で引き篭もるように暮らしている。

 マルダス王国も相応に損害を受け、運命の番に端を発した戦争で負けたこともあり、以来運命の番を感知しない、あるいは感知しても衝動的な行動をしないよう抑制する研究がされるようになった。

 もっとも、最近は予算が割り振られていないため、あまり進んでいないのだが。



 レオーネはこの歴史を知った時、もし運命の番に出会ったとしても、幸福になれるとは限らないと知った。

 だから自身も抑制研究に参加するために魔法を勉強する傍ら、薬草学や錬金術にも手を出していた。母がその辺りの知識人の伝手を持っていたのもその一助となり、彼らに教えを請いながら、離宮を出た後は本格的に研究者の道に歩もうとしていたのである。

 それを王太子とマルダス王にぶち壊されたわけだが。

「こんな国の皇帝と皇女に、はたして例の品が響くかねえ」

「一応、王太子殿下の贈り物には感心していたそうですよ。突っ返されたそうですけど」

「そりゃそうだろうよ⋯⋯」

 不快な相手からの贈り物など、もはや呪物である。返すか捨てるかの二択にしかならないだろう。

 ちなみにリエーフはマルダス王の謝罪の書簡に自身の手紙を紛れ込ませて送った件で、レオーネが出発する直前には謹慎処分を受けていた。馬鹿の上塗りしやがった、と思ったのは、さすがに内心で留めている。

 同じく謹慎を受けているはずのアミラは、どこから聞きつけたのかレオーネがローディウムに行くことを知って、自分も付いていくと言い寄ってきた。

「皇女様に謝りたいの」

 などと言いながら身体を寄せようとしたアミラは、明らかに別の目的を持っていた。ラルクによって乱暴に引き離され、更に厳重に監視されることになったのは、自業自得としか言いようがない。

 ラルクは窓の外を眺めながら、レオーネに問いかけた。

「ところで、皇女殿下はお会いしてくださるでしょうか」

「無理だろうな。少なくとも俺がいる間は部屋に引き篭もるんじゃないか?」

 本人ではなくとも、弟の顔も見たくないだろう。少なくともレオーネならそうする。

「だから皇宮じゃなくて、皇都の宿に泊まるぞ。自分の家で自由に動けないなんて、不憫過ぎるからな」

「そうですね」

 ローディウム滞在がどれほどになるか解らないが、少なくとも皇宮に長居はするまい、とレオーネは心に決めた。


    ───


 レオーネ第二王子が入国したと聞き、ヴィルへルミネは引き篭もる準備を始めた。

 教師は部屋に直接来るよう手配し、皇宮の図書館から本を何冊も借りて、食事も部屋で摂れるようにするという徹底振りである。更にレオーネがまかり間違って自分の部屋に近付かないよう近衛に言い含めてもらった。

「これで問題無いわ」

 満足そうに微笑むヴィルへルミネに、シュネーとヴォルフは顔を見合わせた。

 よほどリエーフ夫婦がストレスだったと見えて、絶対に対面しないぞという強い意志を感じられる。

 シュネーは思わずあふれた涙をぬぐった。

「殿下をここまで困らせるなんて⋯⋯マルダスなんて存在しない方がいいのでは?」

「それ絶対外で言うなよ⋯⋯」

 口から漏れ出たのは、過激過ぎる本音だったが。

「第二王子殿下に会わないって宣言したし、向こうから会いたいってごねてもお父様なら突っぱねるから大丈夫ね」

 一方、聞こえていないヴィルへルミネはにこにこである。

 父親としても皇帝としても、リエーフの言動は看過できないし、簡単に許すことはできない、という考えのユリウスはよほどのことがない限り、ヴィルへルミネを引っ張り出すことは無いだろう。ヴィルへルミネは安心して引き篭もりを楽しむことができる。

 こうして準備万端で、レオーネ来訪の日を迎えた。

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