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運命だと言うけれど  作者: 沙伊


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六十八

 レオーネの手紙を読み終えたヴィルへルミネは、ふー、とため息をついた。

 レオーネの手紙にはマルダス側の検問を考えてか、詳細は書かれていない。だがマルダス王の病が治ったこと、それにレオーネが関与していることは解った。

 さすがに病の詳細までは書かれていないが、王宮の薬師や医者が治せず、素人のはずのレオーネに治せたということは、魔法関連の病だったのだろう。

「魔法が関係しているとなると⋯⋯魔力枯渇や過剰供給? どちらもマルダス王には関係無いはずよね」

 あとは禁術である黒魔法による呪いだが、さすがにそういったものはすぐ解るはずだ。なのにレオーネが診るまで解らなかったということは。

「そういったことを引き起こす毒、もしくは危険性のある薬が使われたか」

 おそらくは、レオーネも同じ見立てをしているだろう。それがリエーフの意思で行われたかどうかは、まだ解らないが。

 手紙の結びには、身体に気を付けて、と貴女のことを思っている、ということがたどたどしく書かれている。その字をなぞり、ヴィルへルミネは何だかほっとする気持ちになった。

「わたくしの手紙は、そろそろ届いたかしら」

 ヴィルへルミネが手紙を送ってから、もうすぐ半月になる。速達で頼んだから、そろそろ手元に行くはずだ。

 次の手紙は、レオーネの返事がきてからにしよう──そう思いながら、ヴィルへルミネは仕事の続きに取りかかった。


    ───


 マルダス王の病を治してから、レオーネはあちこちへ忙しく動き回っていた。

 マルダス王に運命の番研究の予算を組むことを願い出てから、自身がその研究に携わるための根回しを始めたのである。

 それだけでなく、魔物の討伐に自ら向かい、地道に功績を重ねていた。

 もともと王宮の研究者達とは顔見知りで、その仲も悪くなかったのだが、予算を通してからは何だか崇められるようになっている気がしてならない。

 戦士隊の面々とも討伐で交流をしているためか、前のようにレオーネを侮る者は目に見えて少なくなっていた。

 まあ身の丈ほどの斧槍を振り回し、炎や風刃を放つ第二王子に恐れをなしたという者も、中にはいたのだが。

 そんな目まぐるしく忙しい日々を送っていたレオーネに、嬉しい報せがふたつ舞い込んできた。

「殿下ー、皇女殿下から手紙が──」

「よこせ」

「強盗か何かです?」

 ペーパーナイフ片手に手を差し出す主に、ラルクは半目を向けた。

「えー⋯⋯魔晶石での抑制は効いてるんですよね?」

「ああ、ヴィルへルミネに会いたいは会いたいが、我を忘れるほどじゃない」

「ならペーパーナイフ向けないでくださいよ」

「ん──あ、すまん。別の手紙を開封してたから」

「偶然だった⋯⋯」

 ちなみに手紙は王宮薬師からで、レオーネが持ち込んだ薬草への礼だった。

 ヴィルへルミネの手紙を受け取ったレオーネは、頭の中で暦を思い描いた。

「着いたのが早いし、俺の手紙が届く前に出したのか」

「返事書かなきゃですね」

「だな」

 レオーネはさっそく読み進めていくが、最後の段を読んで眉をひそめた。

「どうました?」

「ヴィルへルミネの領で魔狼による大きな被害が出たから、討伐に行くそうだ」

「え⁉ でも皇女殿下は女性──は、ローディウムでは通用しないのか」

「ああ、女性でも討伐に向かう。それに、ヴィルへルミネは強いからな。当然前線に出るだろう。⋯⋯でも、心配だな」

「ですね。まあ、よほどのことが無い限り、騎士達が全力で守るでしょう」

「ああ。ヴォルフがヴィルへルミネを傷付けるものを近付けるわけないしな」

 レオーネはしばし悩んだ後、ラルクに蜂蜜を持ってくるよう指示した。

「蜂蜜? 何でまた」

「傷薬を調合しようと思って。まあ魔法で治せるし、そもそも傷なんてひとつも付けることなく終わる可能性が高いんだが⋯⋯それでも、一応な。それに、唇や手の保湿にも使えるから、持ち腐れになることも無いし」

 レオーネは調合の準備をしながら、ラルクがもうひとつの手紙を持っていることに気が付いた。

「ラルク、それは?」

「ああ、こちらは王宮研究室からです」

「ってことは!」

「おそらくは」

 もうひとつの手紙を受け取ったレオーネは、ヴィルヘルミネの手紙とは別の意味でどきどきしながら封を開けた。

 しばし手紙を読んでいたレオーネだったが、すぐ小さくガッツポーズする。

 主のその姿に、ラルクの表情もぱっと明るくなった。

「殿下、おめでとうございます!」

「ああ。これでようやく、スタートラインだ」

 手紙の内容は、レオーネを研究者として受け入れるという旨のものだった。更に抑制研究の予算を回すよう取り計らってくれたことに対する感謝も書かれている。

「研究室に行った時も物凄く感謝してくれたし、手紙でまで書かなくていいのに」

「それだけ嬉しかったんですよ。ただでさえ年々予算を減らされているのに、更に運命の番研究分を完全カットされたんですから」

 獣人───というよりマルダス特有だが、どうにも武に重きを置くあまり文を疎かにする傾向がある。そのため王宮研究室は、あまり重視されてこなかった。

 在野の研究者に比べればかなり恵まれているのだが、それでも王宮の部署としては地味な扱いを受けている。そこにきてリエーフによる研究費の大幅削減により、かなり窮地に立たされていた。

 そんな時にレオーネの進言があって、予算が回るようになったのだ。更にレオーネの研究結果は彼らにとって相当に有用だったらしく、明日にでも、いや今日にでも来てくれ、と書いてくれていた。

「ありがたい話だ。これなら錬金術も積極的に学んでくれそうだな」

「錬金術は強化魔法と並んで、魔力がそれほど必要無い系統ですもんね。これならレオーネ殿下じゃないとできないものではないですし、今後も発展させてくれるでしょう」

 運命の番の抑制研究で一番恩恵を受けるのは、当然ながら獣人である。マルダスは獣人の国だから、レオーネ以外の獣人達でも可能な方法を模索していかなければならない。

 加えて、明らかに他国から遅れている魔法研究を進めるためにも、まずは無理のない範囲内で広める必要があるのだ。

「全く⋯⋯何でこの国はこうも魔法が軽視されているんだろうな。魔力が少ないってだけで、使えないわけじゃないのに」

 レオーネはため息をついたが、すぐに、にや、と笑った。

「ま、でも好都合でもある。マルダスで魔法を広めたって功績は、相当に大きいはずだ。ヴィルヘルミネを迎えるのに、充分足るものだろう」

 そして兄上とマルダス王を見返すに足るものでもある───言葉にせず、レオーネは心の中でそう呟いた。



 そんな浮かれた気分がよくなかったのか。

 その翌日、レオーネはマルダス王から討伐遠征に参加するように命じられることになる。

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