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運命だと言うけれど  作者: 沙伊


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六十五

 戦闘による多少の残酷描写があります。苦手な方はご注意ください。

 魔狼の群れは我が物顔で村を占拠していた。

 彼らは家畜を貪り、畑を踏み荒らす。もし村人が見れば悲鳴を上げそうな光景だ。

 その中心となるのは、真っ黒でごわごわした毛並みの、巨大な魔狼である。

 通常の狼より大きな魔狼達の、更に上を行く巨体。灰色の瞳は爛々と輝き、時折漏れる唸り声は人間の心胆を凍えさせるような響きがある。

 彼──あるいは彼女かもしれないが、便宜上彼──は、村の中心で伏せて、周囲を睥睨していた。僅かな異変でも感じ取れば、即座に立ち上がり、その爪牙を振るうのだろう。

 間に合えば──の話ではあるが。

「⋯⋯?」

 巨大魔狼は、自分の足元に草が生い茂っていることに気が付いた。先ほどまで、土が剥き出しだったはずなのに──

「がるっ⋯⋯⁉」

 気付いた瞬間、草が生き物のように巨大魔狼の四肢に絡み付いた。それだけに留まらず、ぐんぐん伸びていき、やがて胴にまで達する。

 それでも、力任せとまとった雷で引き千切ることは可能だった。そうして自由になったが、それは彼だけの話である。

 配下の魔狼達──いずれも狼よりはよほど強力な者達が、突如伸びてきた草に四肢を拘束され、動けなくなっていた。何匹か逃れた者もいるが、ほとんどがその場に縛り付けられてしまう。

 そんな魔狼達の頭上に、影が差した。

 ひとつふたつではない。数え切れないほどの影が、魔狼達の上に降り注ぐ(、、、、)──

「ぐぎゃあ!」

「がるぅ⁉」

 村中から魔狼達の悲鳴が響き渡った。

 影の正体は拳大の投石であり、それらが魔狼達を容赦無く打ち据えていく。

 たちまち、魔狼達は大混乱に陥ることになった。


    ───


「投石成功。狙い通り、魔狼達を翻弄しています!」

 偵察係の騎士の言葉に、ヴィルヘルミネは頷いた。

「第二投、用意しなさい」

「はっ」

 投石機に新たな石をセットした騎士達は、それらを発射した。

 彼女達が立てた作戦の第一段階は、遠く離れた場所からの攻撃である。

 まずヴィルヘルミネの妖精魔法を遠隔操作して魔狼達の動きを封じ、そこに投石機による攻撃をしかける。村の家々や畑にも被害が出るような作戦だが、すでに魔狼達によってぼろぼろにされた後だったので、村長や村人達は抵抗無く作戦に同意した。勿論、補償を前提とした同意である。

 まずはこの作戦で魔狼達の数を減らす。とはいえ、ただの石では魔狼達には効かない。

 なので、石自体に強化魔法をかけ、その硬さと重さを底上げしての投石をすることで、魔狼に通じるだけの威力を持たせた。

 更にヴィルへルミネの妖精魔法によって風属性も付与し、飛距離と勢いを上げることで、より強力な投石と化したのである。

 とはいえ、投石だけで魔狼を全滅させることができるとは思っていない。それに拘束から逃れた魔狼が、投石を回避するために村から離れることになるだろう。

 作戦の第二段階は魔狼が村から離れてから始まるのである。

「殿下、魔狼が村を離れ始めました!」

「包囲している騎士達に伝達。ふたり一組になって、確実に討ち取るように伝えなさい。我々も動くわ」

「はっ」

 投石部隊以外の騎士の大半は、すでに村の周囲をぐるりと囲っていた。これで魔狼がどこへ逃げても、騎士達は討ち漏らすことなく魔狼と対峙できる。更に気付かれぬよう、匂い消しの薬品も所持していた。

 魔狼を初めとした鼻の利く魔物は、人間の匂いに敏感だ。だから彼らの討伐の際には匂い消しを使用するのが常である。投石部隊はそれに加えて、風下に身を置いていた。

 その場所を離れ、前に出るのだという。

「殿下、いよいよですね」

 ヴォルフにそう声をかけられ、ヴィルへルミネは固い表情で頷いた。

 これからヴィルへルミネは、前線に向かう。この手で魔狼を──魔物を討伐するために。


 ──レオーネも、こんな緊張を味わったのかしら。


 ヴィルへルミネはそんなことを思いながら、騎士達と共に馬を走らせる。魔狼達はとにかく素早い。その動きに対応するには、少なくとも対峙するまでは馬が必要である。

 そうでなくとも移動には馬が必須だ。皇族は戦闘訓練の一環として、騎乗技術も当然身に着けていた。

 そんな馬を操りながら、ヴィルへルミネの心臓は痛いほど動いていた。

 魔物を討伐して人々を守る。それが皇族であるカルンシュタイン家の者の役目。それを忘れたことはないし、否定もしない。

 それでも、命を刈り取るという行為に対する恐怖心をぬぐうことは難しかった。

「⋯⋯でも、そのための力だわ」

 なぜ今まで魔法を鍛えてきたのか。なぜ戦う技術を磨いてきたのか。

 全ては、この時のためのものだった。


 ──何より、こんなところで逃げては、レオーネに顔向けできないわ。


「敵影、発見! 距離三百っ」

「魔法を使うわ。討ち漏らしは頼むわよ」

 ヴィルへルミネは扇を開き、その先を魔狼達に向けた。

 ヴィルへルミネの背後には、追従するように風と水の妖精が浮かび、彼女に力を貸すために魔力を練っている。

 そんな彼らの力を借りて、ヴィルへルミネは幾つもの水球を作り出した。それらを強化魔法で硬度を上げ、魔狼達にぶつける。

 魔法によって強化された水球は、魔狼達を容赦無く打ち貫いた。

 頭や胴、脚などを貫かれ、魔狼達は聞き苦しい悲鳴を上げて斃れていく。その声と、ほとばしる赤黒い液体を見てせり上がったものを何とか飲み込み、声を張り上げた。

「展開しなさい! 一匹も逃がしてはなりません」

 ヴィルへルミネの声に呼応して、騎士達は生き残った魔狼達に向かっていった。

 ヴィルへルミネは馬を止め、一息ついた。

 これで通常の魔狼はあらたか片付くだろう。投石や水球によってかなりの数を減らしたから、負担もかなり減ったはずだ。

 あとは──


「ぐるおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお‼」


 突如、地の底から響くような咆哮が辺りを支配した。

 その声に騎士達だけでなく、魔狼達さえも動きを止める。

 そんな彼らの前に、悠然と現れたのは巨大魔狼だった。

 漆黒の毛皮から雷が生じ、ぱりぱりと割れるような音が漏れている。周囲の魔狼と比べてひと回りもふた回りも大きな身体、ずらりと並んだ牙と爪は、剣のように鋭い。

 身体のあちこちに血をにじませながらもなお健在の姿──群れの長が、ヴィルへルミネ達の前に現れた。

「お出ましですわね」

 ヴィルへルミネは扇を握り直し、じっとその巨大魔狼を睨み付けた。

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