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運命だと言うけれど  作者: 沙伊


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四十六

 ティレシス聖王国の王妹夫妻の次に現れたのは、ランス王国の女王夫妻だった。

「ローディウム帝国の方々にご挨拶申し上げます。このたびはギルエルフィネ殿下の皇太子就任、ランス王国の国王としてお祝いさせていただきますわ」

 そう言ったのは、ランス王国の女王、アナベル・ラピュルである。

 赤薔薇のごとく艷やかな赤髪に、切れ長の目にエメラルドを輝かせた、背の高い女性だった。ぴんと伸びた背筋や凛々しい表情から、騎士のような鋭い印象を抱かせる。

 その隣にいるのは、王配であり、ヴィルへルミネ達にとっては叔父に当たるルキウス・ラピュルだった。

 長い銀髪を首の後ろで束ね、がっしりとした体格を礼服で包んだ、精悍な顔立ちの男性である。王族というより軍人といった雰囲気の彼は、ユリウスと似ているところが少ない。ただ、非常に高い背丈とサファイアのように煌めく蒼い瞳が血縁を感じさせた。

「固い挨拶はこれぐらいで──改めて、お久しぶりです、お義兄様、お義姉様」

「久しぶりだな、兄上、義姉上。ギルエルフィネ達も、元気そうでよかった」

「ああ。ルキウスとアナベルも、息災でよかったよ」

 アナベルとルキウスが表情を緩めると、ユリウスもふ、と笑った。

「でも、甥達が来なかったのは残念だわ。相変わらずなの?」

 ミカエルシュナが問いかけると、アナベルは肩をすくめた。

「まだまだ未熟なところが多いもので⋯⋯だいぶ成長してきているのですけれど」

「叔母上は相変わらず、彼らに悩まされてるんですね⋯⋯」

 ダリウスは苦笑した。

 数年前に会ったランスの王子達を思い出し、ヴィルへルミネは眉をひそめた。

 がさつというほどではなかったが、奔放という言葉が当てはまる従兄弟達だった。軍人としては及第点だが、王族としては自覚が足りないように見えたのである。

「ところで」

 子供の話で盛り上がっている女性ふたりを横目に、ルキウスがヴィルへルミネとレオーネを見た。

「祝いが遅れてしまったが、婚約おめでとう。来月には正式に婚約するのだったな」

「ありがとうございます、叔父様。ご紹介いたしますわ。マルダス王国の第二王子レオーネ・フェリドゥ様です。レオーネ様、こちらがランス王国の王配で、お父様の弟君のルキウス・ラピュル様ですわ」

「お初にお目にかかります。レオーネ・フェリドゥです」

「ああ、よろしく、レオーネ殿下。⋯⋯ヴィルへルミネの相手は大変だろうが、頑張ってくれ」

「まあ! それどういう意味ですの、叔父様」

 むっとするヴィルへルミネにほがらかな笑顔を向けてから、ルキウスはぽん、とレオーネの肩を叩いた。

「カルンシュタイン家の女を嫁に迎えるには、それ相応の覚悟が必要だ。特に、兄上と義姉上の娘となると、な」

「承知しております」

 真面目な表情で頷いたレオーネを少し意外そうに見た後、ルキウスは微笑んだ。

「それが建前でないことを祈るよ」


    ───


 そうして順調に挨拶を受けていく中で、細々とした出来事が起きた。

 例えばフィン王国のエレノア・グローリオ侯爵令嬢が王妃と第二王子と共に現れた際に、前のめりになったダリウスをギルエルフィネが無言で首根っこを掴んで引き戻し、半分意識を飛ばした彼をエレノアに紹介するという一幕があったり。

 ニーベル公国の公王が皇太子就任祝いに騎乗用の飛竜を贈る──ニーベル公国では飛竜騎士が有名である──と言い出して、目を輝かせるギルエルフィネとユリウス、ダリウスに対し、ミカエルシュナが頭を抱えるという場面があったり。

 そんなことがありながら、駐在大使達の番になった。

 大夜会や年始の晩餐会とは違い、駐在大使の数はそれほど多くない。王族達が来ている国は、彼らに参加を譲っているからだ。

 とはいえ、様々な要因から王族が来られない国もある。駐在大使というのはその時のために存在するのだ。

 例えば、マルダス大使がそうであるように。



「皇家の方々にご挨拶申し上げます。このたびは、ギルエルフィネ殿下の皇太子就任、おめでとうございます」

 マルダス大使はそう言って頭を下げた。

 紅い布地に金の装飾品で飾り立てられた、相変わらず派手な装いである。マルダスの礼服は華やかな傾向があるとはいえ、単品で見るとただただ目に痛い。

 レオーネは装飾が少ないものを好んでいるため、対比で悪目立ちしている部分もあった。

「ありがとう、マルダス大使殿。何でも、珍しい品を祝いのために持ってきたとか」

「ええ。マルダス王家ひいきの商人から買い取った品です。必ずや、ギルエルフィネ殿下も気に入るでしょう」

 自信満々にそう言い切るマルダス大使だが、皇族の眼差しは冷ややかだった。

 それだけマルダス大使に不信感を抱いているという証左なのだが、彼は気付いていないのか、話を続ける。

「それと、第二王子殿下にも婚約祝いの品を用意しました。なので、後日」

「ああ、皇宮に届けてくれ。貴公自身が届けたいというのなら、事前に日時を伝えてくれれば調整しよう」

 大使の言葉を遮るように言ったのは、ユリウスだった。ユリウスは目を細め、大使を座したまま見下ろす。

「来月の婚約式には、マルダス国王を招待している。その時でも別に構わんがな」

「⋯⋯い、いえ。では、近々お届けに参ります」

 マルダス大使は冷や汗を流しながら、それでも何とか笑顔を保ち続けて謁見室を後にした。

 それを見送ったレオーネは、嘆息してユリウスに向き直る。

「⋯⋯我が国の大使が、申しわけありません」

「レオーネ殿のせいではないよ。しかし⋯⋯君もつくづく苦労性だな。本来背負わなくていい責任を背負わされて」

 ユリウスの声は、同情の色が濃い。

 彼自身、かつてはローディウム帝国を背負うはずではなかったのに、なし崩しで皇帝にならざるを得なかった過去がある。重さは違えど、尻ぬぐいのようなことをやらされるレオーネに、かつての自分を重ねたのかもしれなかった。

「それにしても、やっぱり大使は自分のところに来させようとしてますわね」

 ヴィルへルミネは眉をひそめた。

「何かを企んでいるのか、あるいはレオーネ様をとことん下に見ているのか⋯⋯どちらにせよ、不愉快ですわ」

「まあ、奴の思惑に乗る気はさらさら無いですし、ひとまず様子見するしかないですよ」

 気楽に答えるレオーネだが、ヴィルへルミネはマリーヌの予言が尾を引いて彼ほど軽く考えることはできない。

 マリーヌの言う様々な困難──その一端に、マルダス大使も関わっているのではないかという疑念をぬぐえないのだ。


 ──でも、できることが無いわけじゃないわ。


 マリーヌはこうも言っていたではないか、互いを信じ抜いてほしいと。

 今ヴィルへルミネにできるのは、レオーネを信じること。彼から離れないこと。

 まずはそれを念頭に置いて、今日を乗り越えなければ。

 思わず握り締めたレオーネの手。それが緩やかに握り返されたのが、少し嬉しかった。

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