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運命だと言うけれど  作者: 沙伊


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四十五

 晩餐会には国内の貴族だけでなく、外国の来賓も多数参加するのは先に述べた通りである。加えて、彼らは皇宮内の客用の建物に宿泊し、晩餐会だけでなく、翌日の舞踏会にも参加するのだ。

 ちなみにヴィルへルミネとレオーネが参加するのは晩餐会だけで、舞踏会には参加しない。大夜会が特別なだけで、ふたり、特にヴィルへルミネはまだ夜の社交には長く参加できないのである。

 来賓達は夕方前に来訪し、いったんそれぞれに用意された部屋や建物で準備をした後、晩餐会に出席する。皇族達と挨拶をするのは、晩餐会が始まる直前だった。

「レオーネ様、緊張しておりすか?」

 迎えに来たレオーネの顔を見て、着替えの終わったヴィルへルミネはそう言った。

 肌の色のせいで解りにくいが、レオーネの顔は少し青ざめているようだった。表情もどことなく強張っており、秀麗な顔を歪ませている。

「大夜会と違って、他国の王族もいますから⋯⋯今から胃が痛いです。マナーのこともありますし」

「でも、講師からは問題無いと太鼓判を押されたのでしょう? いつも通りにすれば、問題ありませんわ」

「いつも通り⋯⋯できますかね?」

 レオーネは、他国の王族との付き合いは全く無い。

 マルダスでは他国の賓客がいる際は王宮に入ることを禁止されていたし、ローディウムでも他国の王族が訪れることは無かった。今日が正真正銘、初めての対面なのである。

「大丈夫ですわ。今日の主役はお姉様ですもの。わたくし達へは、ほとんど挨拶程度で終わりです。食事が終われば自室に戻ってもいいですし」

 晩餐会は食事だけがメインではない。終わった後の余興や歓談時間も会の内だ。ユリウス、ミカエルシュナ、ギルエルフィネは最後まで残らねばならないが、ヴィルへルミネ、レオーネ、ダリウスは食事後は下がってもいいと言われていた。

「最悪、わたくしの隣でにこにこしてればよろしいかと」

「にこにこ⋯⋯」

「トゥファ嬢のこともありますから、ずっと一緒にいた方がよろしいでしょう?」

 晩餐会に出席する貴族は、当主夫妻のほかに後継者がいる。当然ミミネアもいるはずだ。

「貴方のことをひとりにはいたしません。絶対に」

「あ、ありがとうございます」

 凛々しい表情で言い切るヴィルへルミネに、レオーネは苦笑した。


    ───


 晩餐会はまず、来賓を迎えるところから始まる。皇族が謁見室で来賓と順番に挨拶を交わし、それが終わると侍従が彼らを席に案内するのだ。

 この挨拶の順番は基本的に地位が高い者から始まり、今回の場合は他国の王族からだった。



「ローディウムの皇族の方々にご挨拶申し上げます。このたびは、ギルエルフィネ殿下の皇太子就任、おめでとうございます」

 まず通されたのは、ティレシス聖王国の王妹マリーヌ・ティレシスと、その夫フェリクス・ティレシスだった。

 ティレシス聖王国の歴史は、ローディウム帝国より長い。聖王国という名の通り信仰と国の結び付きが強く、創世神ダナトゥーを主神としている。

 また王族からは時々、神々から特別な力を与えられた子供が生まれ、そういった子供は神殿で修行を積み、聖人として信徒達から敬われることになる。

 マリーヌは、当代の聖人だった。

 艷やかな亜麻色の髪を白いリボンで結い上げ、華奢な身体を藍色のドレスで包んだ、儚げな印象の女性である。すでに四十代ながら非常に若々しく見えるが、アクアマリンの瞳には老成した輝きがある。聖人という肩書の通り、どこか超然とした雰囲気の女性だった。

 夫フェリクスはマリーヌと同い年か、歳下に見える。青がかった黒髪に深緑色の瞳で、整ってはいるが目立つ容貌ではない。だがまっすぐに伸びた背筋と品のある立ち居振る舞いは、王族の伴侶にふさわしいものだった。

 ユリウスはマリーヌに対して頷きを返し、ギルエルフィネは頭を下げた。

「ありがとうございます、マリーヌ聖下」

「ふふ。そう呼ばれるのは、まだ慣れませんわね」

 マリーヌは微笑んだ。

 つい最近、マリーヌはティレシスにあるダナトゥー神の大神殿の大神官に就任した。ティレシスのダナトゥー大神殿は、信徒達にとって最も重要な宗教施設だ。その大神官ということは、ダナトゥー神信仰の長に等しい。

 つまりそれだけ重要な人物であるということで、真っ先に案内された理由も推して測るべしといったところだろう。

「貴女の治世は、きっとよきものになるでしょう。将来が楽しみですわ」

「貴女にそう言っていただけると自信が持てます。期待に応えられるよう、尽力いたします」

 ギルエルフィネの返事に笑みを深めたマリーヌは、ふと、ヴィルへルミネとレオーネを見た。

 ユリウス、ミカエルシュナ、ギルエルフィネと違い、ふたりとダリウスは後ろで静かに控えている。先ほどの挨拶の時も無言で頭を下げただけだったのに、なぜわざわざ目を向けるのだろうか。

「⋯⋯なるほど、これは」

 マリーヌは小首を傾げ、ヴィルへルミネとレオーネを見比べた。

「ヴィルへルミネ殿下、レオーネ殿下──特にレオーネ殿下ですが、今日は絶対にひとりになってはいけませんよ」

「え?」

「今日以降も様々な困難がありますが、互いを信じ抜いてください。決して、疑心で目を曇らせてはなりません」

 それだけ言うと、マリーヌはフェリクスと共に去っていった。

 去り際、フェリクスもまたふたりに向けて言った。

「妻の助言は意味があります。どうか、心に留めておいてください」

 意味深な発言を置いていった夫婦を、レオーネはぽかんと見送った。そんな彼に、ヴィルへルミネはマリーヌの魔法のことを話す。

「マリーヌ聖下は占星術が使えるのです。その影響で、時折未来を垣間見るそうで」

 占星術は、星の巡りを読み解くことで災害や凶兆を予知する魔法のことである。膨大な知識が必要な上に正確な未来を予知するには才能が重要となるため、魔法としての使用者はごく僅かだ。ただ、星読自体は知識があればできるため、占いとしては一般的だった。

 そしてこの魔法を長年使っていると、星読をしなくても未来が見えることがあるのである。

「占星術を使う人は、初めて見ました。正直、実在も疑っていましたよ」

「名の知られる占星術使いは、近隣では聖下ぐらいですからね。それに聖下の本領は神聖魔法ですから、マルダスでは知られていないのでしょう」

 ヴィルへルミネはそう説明しつつ、マリーヌの言葉を考えていた。


 ──占星術使いは、垣間見た未来を確定させないために曖昧なことしか言えないと聞くけど⋯⋯


 マリーヌが言っていたのは、おそらくミミネアのことだろう。だが、はたしてそれだけなのだろうか。

 マリーヌは疑心で目を曇らせず、互いを信じるようにと言ったが、疑いを持つような事態が発生するのだろうか。

 それは、ミミネアひとりによるものなのか。

 あるいは──全くの慮外の者が出てくるのか。

「⋯⋯頭の痛い問題になりそうだわ」

 ヴィルへルミネはため息をついた。

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