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運命だと言うけれど  作者: 沙伊


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二十四

 年末の大夜会当日。ローディウムの皇都は、大きな賑わいを見せていた。

 大夜会に参加するのは貴族と皇族だけ。夜会そのものは平民達には関係の無い話である。

 だが、大夜会に合わせて皇都でも様々な催しが実施されるのだ。

 食べ物から珍しい魔道具まで並べられた屋台の数々に、国内外で人気のサーカスや劇団による舞台。日付が変わる瞬間には花火まで打ち上げられ、皇都民は上も下も大騒ぎなのだ。

 そんな熱は、皇宮にも伝播している。

 皇宮の使用人達はその熱に浮かされながらも、自分達の役割をこなしていた。



「きゃー! ヴィルへルミネ殿下、素敵ですっ」

 シュネーが黄色い悲鳴を上げた。周囲の侍女達も同じ気持ちなのか、頬を赤らめてきゃっきゃしている。

 彼女らの手放しの称賛に、ヴィルへルミネは眉尻を下げて微笑んだ。

 ヴィルへルミネはこの日のために仕立てたドレスを着て、侍女達によって飾り立てられた。

 緑のレースとリボンで控え目に彩られた花柄のドレスは、華美さは無いもののヴィルへルミネの愛らしさを充分に引き立てている。もともとデザインされていたものから、柄を目立たせるためにあえて飾りを少なくしたのだそうだ。髪も緑のリボンで結い上げ、薄緑色の造花の髪飾りでまとめている。

 装飾品は華奢な造りの金細工で統一され、首元を飾る首飾りには金にも翠にも煌めく輝石が据えられていた。

 一見すると金緑石に見えるそれは、実は魔晶石である。レオーネが魔力を込め、魔法で研磨した一品は、彼が騎士団についていって魔物討伐した際に手に入れ、ヴィルへルミネに贈りたい一心で加工したものである。

「今は何もお返しできず、贈れるものも限られているので、せめてこれぐらいはさせてください」

 そう言って渡された魔晶石の美しさがレオーネの気持ちを表しているようで、ヴィルへルミネは何とも言えない気持ちになって、つい彼に抱き着いてしまった。

 はしたない行動だったわ──鏡で魔晶石を確認し、ヴィルへルミネは思わず頬を赤らめる。

 顔にも薄っすら化粧をしているため、幼さが薄れ、いつもよりずっと大人びて見えた。

 それでもレオーネとの年齢差が埋まるわけではないが、彼に本能以外の部分で意識してもらえたらと思う。

 すでにレオーネが来てから五ヶ月ほど経っていた。

 始まりはどうあれ、将来的に結婚するのだと思いながら接していると、ふと彼を意識する場面がある。勿論悪いことではないのだが、そんな時に自分の年齢がもどかしくなってしまうのだ。

 ヴィルへルミネとレオーネは運命の番だ。それを感じ取れる獣人のレオーネは、本能でヴィルへルミネを求めてくれる。

 だがそれ以外の部分では? と言われると、微妙というのがヴィルへルミネの考えだった。

 好意的に思われているのは解る。二ヶ月前の出来事から、より親密になれたように思う。だがそれが恋や愛なのかは解らなかった。


 ──まあ、わたくしも人のことを言えないのだけれど。


 ヴィルへルミネとて、レオーネを意識はすれど恋や愛を抱いているのかと言われると答えに窮する。

 ふたりは運命で結ばれている。来年には婚約式も行って、晴れて正式な婚約者にもなる。だが、それがふたりの幸福に繋がるのか、ふたりの間に恋や愛が生まれるのかは解らない。

 母は、運命だからと言って何でも許されるとは限らないと言っていた。その通りだと思うし、運命で全てを片付けられたくない。

 この想いが恋や愛になったとしても、自分とレオーネの選択と意思の結果だと思いたかった。

「ヴィルへルミネ殿下、王子殿下がいらっしゃいました」

 その時、レオーネの来訪を告げる声が聞こえた。ヴィルへルミネは我に返って顔を上げる。

「お通しして」

 許可を出すと、ほどなくしてレオーネが入ってきた。

 レオーネはマルダス様式にローディウムのそれを取り入れた薄緑の礼服を着ていた。胸元のスカーフはヴィルへルミネのドレスと同じ花柄の絹布を使っており、無地の礼服の裾には金の刺繍が施されている。

 装飾品はこちらも金細工で統一されており、大振りであるという違いはあるものの、デザインはヴィルへルミネのものと似通っている。髪をまとめているのは緑のリボンで、緑の造花が挿していた。

 自分と対になるような姿のレオーネに、自然ヴィルへルミネの唇がほころんだ。

「ご機嫌よう、レオーネ様。よくお似合いですわ」

「──」

 微笑むヴィルへルミネに対し、レオーネはしばし言葉を失っていた。

 同じくぼうっとしていた従者ラルクがいち早く我に返り、レオーネの背中を軽く小突く。

「ヴィ、ヴィルへルミネ様」

「はい」

「──とても、美しいです」

 レオーネの尻尾がゆらゆらと忙しなく揺れている。獣耳もぴこぴこと動いていて、彼の動揺を表していた。

 最近ではある程度コントロールできるようになった獣耳と尻尾だが、ヴィルへルミネの前では全く抑制できていなかった。

 ヴィルへルミネはふわり、と笑った。

「ありがとうございます。貴方にそう言われると、自信が持てますわ」

「それは、よかったです」

 レオーネはぎこちない仕種で手を差し出した。

「ヴィルへルミネ様、エスコートさせていただいてもよろしいでしょうか」

「ええ、勿論」

 ヴィルへルミネはその手に自らの手を乗せた。


    ───


 ヴィルへルミネとレオーネは皇族専用の待機室に足を踏み入れた。

 後ろには付添い人としてシュネーとラルクがいる。

 未婚の皇族や貴族、特に女性は夜会などで間違い(、、、)が起きないように付添い人が付くことが多い。また社交に慣れていない者や得意でない者のフォローするために連れていることもあった。

 ラルクはマルダス人だが、ローディウム式の侍従の心得や技術を学んでいた。特にレオーネが苦手とするだろう部分を重点的に学んだため、ひたすらフォローに回る予定である。

 シュネーはどちらかというと、ヴィルへルミネに不必要に近付く者を遠ざける役割だ。彼女自身は子爵令嬢であり、デビュタントも済んでいるため、いつもの侍女服ではなく目立たない紺色のドレスを着ている。

「皇帝陛下、並びに皇妃殿下にご挨拶申し上げます」

 ヴィルへルミネとレオーネは、部屋の中にいたユリウスとミカエルシュナに頭を下げた。

「ああ、楽にしてくれ」

「ふたり共、こっちに座りなさいな。大夜会にはまだ時間があるから、軽食をいただいておきなさい」

 ユリウスとミカエルシュナは蒼色を基調にした衣裳を身にまとっていた。

 ユリウスは軍服風に仕立てた礼服で、金糸の縁取りと飾緒で装飾された装いだった。片肩には白い外套を羽織り、徽章の代わりに王冠と太陽を模したサファイアと金細工のチェーンブローチが胸元で輝いていた。若々しい見た目も相まってますます貴公子然としている。これで五十近いのだから、年齢詐称にもほどがある。

 一方ミカエルシュナは、マーメイドラインのドレスをまとっている。ふわりと広がった裾には金の刺繍が施され、白いレースのオーバースカートが腰から垂れていた。プラチナブロンドをまとめている金細工とサファイアのティアラには月の意匠が取り入れられており、首元にはレースとサファイアで作られた豪奢な首飾りが飾られていた。着飾った分、幻想的な美貌に拍車がかかっている。

 そんなふたりに並ぶのは少しためらったものの、ヴィルへルミネとレオーネはそれを隠してしずしずと座った。

 談笑しつつ軽食をいただいていると、ほどなくギルエルフィネとダリウスもやってきた。

 ギルエルフィネは深紅のドレスなのだが、その形状はかなり斬新だった。なんと、下がズボンなのである。オーバースカートのせいで一見ズボンに見えないが、スリットの部分から見えるのは明らかにスカートではなくズボンである。短いレースケープを羽織り、金の刺繍を施されたドレスは、新しさと伝統を行き来している。紅いリボンと金で造られた髪飾りは、シンプルな見た目だが華やかさを損なわない。

 ダリウスは黒い礼服だった。テールコートのそれは一見家族の中で地味なものであるものの、裾や襟を金糸の刺繍で装飾し、真珠と金の飾りボタンを付けたその姿は、目立たないだけで最上級の仕立てである。むしろ少年らしさを保ちながら精悍な顔立ちを引き立てる質実剛健さを表しているようだった。

 ふたりもまた挨拶の後に軽食をつまむ。そうして穏やかな時間を経て、年末の大夜会の開催時間を迎えたのである。

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