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運命だと言うけれど  作者: 沙伊


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二十一

 連載再開です。またしばらく毎日更新していくので、よろしくお願いいたします。

 ヴィルへルミネとレオーネは、目の前に広げられた色とりどりの布に目を丸くした。

「お母様、これは?」

「貴女達の衣裳用の布よ」

 貴女達、という言葉に、レオーネの尾と耳が忙しなく動く。表情には出ていないが、戸惑っているのがありありと解った。


 ──獣人の耳と尻尾って、コントロールできないのかしら。


 ヴィルへルミネはふと思った。

 どうでもいいことのように思えるが、腹の中を表に出さない技術は王族皇族共通した標準装備のようなものだ。

 レオーネはその境遇ゆえ、教養面はともかく礼儀作法には若干穴がある。母も元は下級貴族だったと言うし、そこまで手が回らなかったのかもしれない。

 獣人向けのマナー講師も改めて呼ばないと、とヴィルへルミネが考えている間にも、ミカエルシュナは侍女に指示しながら布を広げていく。

「マルダス風の布も用意させたわ。これを使って、年末の大夜会の衣裳を仕立てましょう」

「年末の⋯⋯大夜会?」

「ええ。ギルエルフィネの帰還を祝う夜会には参加できない代わりに、レオーネ殿下には年末の大夜会にヴィルへルミネと共に参加してもらうわ。その時に、婚約を正式発表するの。婚約式は、ギルエルフィネの王太子任命式の後を予定しているけどね」

 ヴィルへルミネはまだデビュタントに至っておらず、レオーネはローディウムの社交に出たことが無い。そのため明日に控えた夜会には参加できない。

 だが、デビュタントに至っていない皇族が参加できる夜会がひとつだけある。それが、年末の大夜会である。

 年末の大夜会は国内貴族が一堂に集まり、年明けを過ごす一大イベントである。普段は社交に顔を出さな貴族も出席するため、この機会に顔を繋ごうとする者も少なくない。

 またデビュタント前の子女は参加しないが、跡継ぎや皇族、皇族と婚約している者は例外的に参加を許されている。

 ヴィルへルミネも去年以前から参加していたし、今年は彼女の婚約者としてレオーネも出ることになるのだ。

「仕立てるの、早くないですか? あと二ヶ月以上ありますよ」

「いいえ、むしろ遅いぐらいよ」

 ミカエルシュナは布を前に首を振った。

「レオーネ殿下、貴方は王族として振る舞う機会が少なかったようなので実感が無いかもしれないけれど、国事というのは遅くとも半年前に準備しなければ間に合わないのよ。少なくともローディウムではそう。今回は衣裳と装飾品だけだけど、それでもかなり急がせないといけなくなるわ」

「え⋯⋯そう、なんですか?」

「ええ。逆に言えばそれほど前に準備するから中止にできないというデメリットもあるのですけれどね」

 ミカエルシュナは遠い目になった。

「そう言えば皇太后様が亡くなられた時期とお父様の誕生日の夜会が近かったから、喪が明ける前に開催せざるを得なかったと聞きましたわ」

「ええ。あの時わたくしはまだ陛下と婚約もしていなかったのだけれど、急きょパートナーとして参加することになって⋯⋯不穏な動きもあったから軍備の見直しも重なって、本当に忙しかったわ。他国の招待客も大勢いたから、絶対中止にはできなかったし」

 その時のことを思い出したのか、ミカエルシュナはこめかみを押さえた。

 当時叔父はまだローディウムにおり、ミカエルシュナは客将という立場だったため、ユリウスと叔父が中心になって政治を回していたらしい。貴族の汚職や反乱の予兆、スタンピードも重なって、かなりの混乱期だったと聞いている。

 すでに二十年以上前の話だが、そのせいでローディウムは国力に反して貴族家門の数が少ない。未だ皇家が預かっている爵位も相当数あった。

 そんなローディウムの混乱期を聞き、レオーネは目を見開いていた。

 他国の王族かつ生まれる前の出来事となれば、彼が知らなかったのも無理は無い。当時の混乱の余波を受けていたのは周辺国だけで、マルダスは幸いにも外れていたからなおさらである。

「その話はいずれ、詳しく学ぶ機会があるでしょう。今はそれより、ふたりの衣裳よ」

「わたくしのものは、デザインまではできていると思うのですが」

「確かにそうだけれど、レオーネ殿下と共に参加するなら話は別よ」

 ミカエルシュナはヴィルへルミネに目を向けた。

「ローディウムでは、夫婦や婚約者同士は規模の大きい夜会では衣裳や装飾品を合わせるのが通例なの。特に今回のような行事ではね。だから貴女とレオーネ殿下の衣裳を合わせるために、こうしてふたりを呼んだのよ」

「そうなんですか」

 ヴィルへルミネは目を瞬いた。

 そういえばユリウスとミカエルシュナは衣裳を仕立てる際、いつも対になるようなデザインや色にしている。仲のいい夫婦だから以外にも理由はあったようだ。

 ちなみにフィン王国やランス王国では互いの髪や瞳の色に合わせた衣裳をまとうのが通例である。例え近隣国でもその辺りのルールは微妙に違ってくるものだ。

 レオーネは始めて聞くだろう慣習に、表情を曇らせた。

 それを見たヴィルへルミネは、レオーネに問いかける。

「レオーネ様は、わたくしとおそろいにするのはお嫌ですか?」

「えっ」

 レオーネは勢いよく振り返り、固まった。

「あら、そうなの? 確かに、殿方の中には恥ずかしがる方も多いけど」

「あ、いや⋯⋯そういうわけでは」

 ミカエルシュナにまでそう言われ、レオーネはしどろもどろになった。

「ヴィルへルミネ殿下と同じものを身に付けるのは嫌ではないです。むしろ⋯⋯身に付けたいと思います」

「だったら、なぜそのような顔をなさるの?」

「顔⋯⋯?」

「困ったような顔をされていましたわ」

「あー⋯⋯それは」

 レオーネはうろうろと視線をさまよわせた後、ため息をついた。

「衣裳どころか装飾品ひとつ、自分で用意できないことに嫌気が⋯⋯」

「まあ、そんなこと」

 ヴィルへルミネは安心したように笑った。

 レオーネは現在、婚約者候補として皇宮にいる。そこにかかる費用はヴィルへルミネの皇女としての予算から捻出されていた。

 最初は薬師や錬金術の知識を生かして自活しようとしていたようだが、その許可を求める際の話し合いで、ヴィルへルミネがあっさり言い放ったのだ。

「あら、それならわたくしが養いますわ」

 それを聞いた時のレオーネの顔は、非常に苦々しいものだった。

 ヴィルへルミネは皇女としての予算のほかに、皇帝ユリウスから与えられた領地の税収による収入もある。さすがに運営そのものは代官に任せているが、彼女自身の個人資産があるのは事実である。

 レオーネは浪費癖も無いし、むしろ質素を好むので、ヴィルへルミネの懐と予算で充分賄えるのだ。

 今回の衣裳や装飾品も、そうしたところから支出することになるだろう。それが、レオーネには心苦しいらしい。

「心配せずともこの程度で無くなるほど、わたくしの資産は少なくありませんわ。お気になさらず」

「そういうことではなく⋯⋯」

「言ったでしょう? これは先行投資なのです」

 ヴィルへルミネは少女らしからぬ不敵な笑みを浮かべた。

「貴方が立身出世を果たした暁にはしっかり回収できる採算なので、ご心配には及びませんわ」

「⋯⋯そういうことではないんですが」

 レオーネはがっくり肩を落とした。そんな彼に、ミカエルシュナは苦笑する。

「ごめんなさいね。ヴィルへルミネはまだ、男心というものが解らないのよ」

「いえ⋯⋯いずれお返しできるようになる時、倍返しできると前向きに考えます」

 母と婚約者候補のやり取りにヴィルへルミネは首を傾げたが、すぐに衣裳のことに意識が向いた。

 色とりどりの布の中で、マルダスの布は非常に目立っている。目にも鮮やかな柄は新鮮で、異国情緒にあふれていた。

 その中で、ヴィルへルミネは緑の花柄の布に惹かれた。

 白い絹布に淡い緑色の花が描かれたそれは、ほかのマルダス布に比べると派手さは無く控え目だが、大人っぽくも愛らしい雰囲気をしている。

「お母様、わたくしこれがいいわ」

「あら、素敵ね。これならレオーネ殿下の礼服のアクセントにも使えるでしょうし⋯⋯後はデザインね。ローディウム式とマルダス式、どちらがいいかしら。それに合わせて装飾品もそろえなければね」

 きゃっきゃと盛り上がる母娘の傍で、レオーネは遠い目をして立ち尽くしていた。

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大体買い物する時って男は蚊帳の外デスヨネー(目逸らし 諦めろ殿下w
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