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運命だと言うけれど  作者: 沙伊


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18/116

十八

 謁見の間にて、ユリウスを筆頭とした皇家の面々がひとりを除き集結していた。更に役職持ちの文官武官も勢揃いしている。

 留学から帰ってきた第一皇女ギルエルフィネ・カルンシュタインを迎えるためだ。

 ヴィルへルミネは母の隣に座りながら、そわそわと扉を見つめる。

 リエーフの時には感じなかった高揚感に悶々としていると、ギルエルフィネの帰還の知らせが伝えられた。そしてほどなくして、扉が開かれる。

 現れたのは、豪奢な黄金の髪をひとつに束ね、ドレスではなく男性用の乗馬服をまとった妙齢の女性。切れ長の目に春の花を思わせる紫の瞳を持つ、中性的な絶世の美女である。ぴんと伸びた背筋や勝ち気な笑みを浮かべる紅い唇から、他者を圧倒するような雰囲気を放つ彼女こそ、ローディウムの第一皇女だった。

 ギルエルフィネは堂々とした足取りでユリウスの前まで来ると、ひざまずいた。

「ユリウス皇帝陛下にご挨拶申し上げます。ギルエルフィネ・カルンシュタイン、帰国いたしました」

「うむ。⋯⋯よくぞ無事に帰国した。フィン王国はどうであった?」

 ユリウスが穏やかに尋ねると、ギルエルフィネも笑みを深めて話をする。

「かの国の魔法技術は想像以上でした。魔法学園も基礎的な授業から専門授業まで幅広く、充実した日々を過ごすことができました。すでに学園長及び運営組織との提携の約束は取り付けておりますので、すぐにでも学園創立の準備を進められます」

「そうか、ご苦労であったな。詳しい話はまた後で聞こう。今は旅の埃を落として、身体を休めるといい」

「ありがとう存じます。では、御前を失礼いたします」

 思いのほか短いやり取りの後、ギルエルフィネは再び頭を下げ、颯爽と謁見の間を後にした。

 それを見送ったユリウスは、隣のミカエルシュナに囁きかける。

「⋯⋯素直に部屋に戻ると思うか?」

「いえ、全く」

 ミカエルシュナは首を振り、ヴィルへルミネの肩をぽん、と叩いた。

「ヴィルへルミネ、今すぐレオーネ殿下の元に行きなさい」

「え?」

 ヴィルへルミネは振り返った。視界の隅で、ダリウスもミカエルシュナを振り仰いでいる。

 ミカエルシュナは、眉尻を下げて言った。

「多分あの娘、彼の元に向かうわ」


    ───


 レオーネは皇宮の騎士達に混じって剣を振るっていた。

 皇宮の騎士、中でも近衛や皇帝直属の騎士達などの中には、魔法と武器両方使える者が多い。魔術師であり獣人であるレオーネにとって、彼らの戦いは非常に参考になった。

 ローディウムにおいて、皇帝、皇妃、皇太子はそれぞれ自身の騎士団を持つ。

 現在正式な皇太子はいないため、皇帝麾下の金獅子騎士団、皇妃麾下の銀豹騎士団のみが存在し、皇太子麾下の鋼狼(こうろう)騎士団はギルエルフィネが皇太子に任じられてから編成されるそうだ。

そんな彼らにギルエルフィネから模擬戦を申し込まれたと聞くと、皆例外無く青ざめた。無表情がデフォルトの(いかめ)しい騎士ですらそんな顔をするものだから、レオーネの胃がきりきりと痛む。

 それでも彼らは余計な怪我をしないようにと、厳しくも解りやすい指導をしてくれた。他国の王子という肩書で忖度されるのでは、という危惧は、幸いにも外れた。

 曰く、戦場では肩書も血筋も関係無い、実力と運がものを言う。ゆえに、戦闘に関して彼らはシビアだった。

 トップである皇帝と皇妃がそういう考えというのもあると、彼らは語っていた。

 おかげで嗜み程度の実力しかなかったレオーネも、何とか形になってきている。

「まあ、ギルエルフィネ殿下と対等以上に渡り合えるのは、皇帝陛下と皇妃殿下だけなんだがな⋯⋯」

「陛下はもはや人外だよ⋯⋯何で魔法を剣で斬れるんだよ⋯⋯」

「妃殿下も妃殿下で相殺した上周りに被害が出ないように障壁張るとか神業っていう領域じゃねえよ」

「それ聞かされて、俺はどういう反応すればいいんだ⋯⋯?」

 戦慄するレオーネだった。

 マルダスでは王族が魔物討伐に出ることは少ない。リエーフの討伐経験だって、王太子の名に箔を付けるための部分が大きかった。

 だがローディウムは(おこ)りが魔物討伐で生存圏を広げた末にできた国であるため、その意味合いも変わってくる。真実か否かは定かではないが、怪物に変じた領主を討伐したのが始まりとも言われており、武力が一種の権威付けになっているのだろう。

 これは隣国のランス王国でも同じことで、あちらの女王に皇弟が婿入りしているとのことである。

 そんな皇家の姫君を迎えるのだから、レオーネへの指導も当然熱が入る。レオーネもそれをどんどん吸収していくのだから、周囲としては教えるのが楽しいらしい。

 だが、それで戦えるかどうかは、また別である。

 だから。


「おまえが、レオーネ・フェリドゥか?」


 その初撃をかわせたのは、運がよかったのだろう。

「⋯⋯!」

 その声を聞いた瞬間、周囲の騎士達が凍り付いた。レオーネはその変化に首を傾げかけ、背筋がぞわりと粟立つのを覚える。

 ほとんど本能的な動きで、レオーネは前方に走り出した。次いで、背後から破壊音が響き渡る。

 転がるようにして音から距離を取り、剣を構えながら振り返ったレオーネが見たのは、背の高い女の人影だった。

 煙のせいで全容は解らないが、細身の剣を構えているように見える。耳が長く尖っていることから、おそらくエルフ。ズボンのような動きやすい服装をしているようだ。

「避けたか。まぐれか否か⋯⋯どちらにせよ、動けるみたいだな」

 女が煙から悠然と姿を現した。

 豪奢な黄金の髪をひとつに束ねた、中性的な絶世の美女である。紅い唇に不敵な笑みを浮かべていることも相まって、優美な肉食獣のような印象を受ける。

 その顔立ちと切れ長の目に収まった紫の瞳に、レオーネは彼女が誰かを悟った。

「ギルエルフィネ、第一皇女殿下⋯⋯?」

「ご明答。お初にお目にかかる、レオーネ第二王子殿下」

 美女──ギルエルフィネは笑みを深めた。それがあまりにも凶暴だったからか、周囲の騎士や走り寄ってきたラルクが小さく悲鳴を上げる。

 レオーネは悲鳴こそ上げなかったものの、嫌な予感がひしひしと迫っているのを感じていた。

「なぜ、こんなことを⋯⋯」

「模擬戦を申し込んだだろう?」

「闇討ちみたいな予告は受けてませんが」

「そうだったか? まあどちらでもいいさ」

 よくないよくない、とその場にいる男達が首を振るのを尻目に、ギルエルフィネが剣を持ち上げた。

「心配しなくても、可愛い妹との婚約は認めない、なんて言うつもりは無い。ただまあ、八つ当たりぐらいは許せ」

「や、八つ当たり?」

「おまえの兄君を襲撃しないだけ、理性的と思ってくれ」


 ──またあの馬鹿兄関連か! まあ当然だが!!


 レオーネの心の絶叫は、誰にも拾い上げられることはない。

 前に出ようとするラルクを押し(とど)め、レオーネは剣を構え直した。それを見て、ギルエルフィネも剣を構え、ぐ、と重心を沈める。

「簡単に倒れてくれるなよ?」

 言葉と共に、ギルエルフィネが力強く地面を蹴った。

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