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運命だと言うけれど  作者: 沙伊


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十三

 翌日、レオーネが図書館に来る時間に合わせて動こうと思っていたヴィルへルミネは、出鼻をくじかれることになる。



「もう皇宮に上がられない?」

 夕食を家族と共にしている途中、現れた従者がユリウスに耳打ちした。

 ユリウスは従者の話に眉根を寄せ、渡された手紙を見て難しい顔をする。そしてヴィルへルミネに、レオーネがもう皇宮に来ないことを伝えたのだ。

 なぜわざわざヴィルへルミネに向かって伝えるのか──その答えは、すぐに出た。

「おまえ、日中にレオーネ殿下に会ったのだろう」

「はい。挨拶させていただきました」

「その際、レオーネ殿下の運命の番がおまえだと判明した──らしい」

 運命の番──その単語に、ヴィルへルミネは固まった。

 自分をさんざ侮辱し、その自覚も無い様子だったマルダスの王太子夫妻。その夫妻を結び付けた、運命の番という概念。

 自分には縁遠いはずのそれが再び目の前に現れたことに、ヴィルへルミネは言葉を無くす。

 だが、驚愕したのはヴィルへルミネだけではなかった。ダリウスもまた、目を見開いて父に確認をする。

「それは本当なんですか? レオーネ殿下の勘違いとかでは」

「いや、どうやらそうではないようだ」

 ユリウスはため息をついてこめかみをもんだ。

 ユリウス曰く、手紙にはレオーネが皇宮に来た当初から運命の番を感じ取っていたこと、衝動的な行動を取らないようにするため抑制薬なるものを飲んでいたこと、服薬してなおヴィルへルミネに強く惹き付けられたので間違いないということが書かれていたそうである。

 その話を聞きながら、ヴィルへルミネはレオーネの眼差しを思い出していた。

 あの強い視線はそういうことだったのか、と思うと同時に、どうして皇宮から離れるような選択を取るのだろう、という疑問が生まれる。

 その答えは、ミカエルシュナが出してくれた。

「王太子殿下の謝罪に来た先で、その原因のひとつである運命の番に出会うなんて、レオーネ殿下としては心穏やかではいられないでしょうね。ましてや謝罪相手のヴィルへルミネだったとなれば、余計な負担を与えかねないもの」

 なるほど、とヴィルへルミネは母の言葉に頷いた。

 思えば最初から、レオーネはこちらに対して細やかな心遣いをしてくれていた。たとえ本能に根差した衝動であろうと、それを無視して対応してくれるのは、彼の誠実さの表れと言えた。

 だが、とヴィルへルミネは思う。

 そんなレオーネが願い出た皇宮図書館通いは、彼にとって必要なことだったのではないだろうか。

 勿論こちらから言い出さなければ成立しなかったことではあるが、それでも自ら要求したそれを手放さざるをえなかったレオーネの心中を思うと、申しわけなく感じる。

「⋯⋯国には、まだいらっしゃるのかしら」

 ヴィルへルミネの呟きに、家族全員が意外そうな顔をした。

 レオーネを避けていたのはヴィルへルミネなのだから、当然の反応だ。ヴィルへルミネ自身、その言葉が自らの口から出たことに驚いている。

 だが、撤回する気は無かった。

「お父様。わたくし、レオーネ殿下とお話したいわ」

「⋯⋯いいのか。おまえは彼の運命の番だという。彼の意思がどうあれ、どんな対応を取るか解らないぞ」

「身を守る(すべ)は心得ております。お父様とお母様の薫陶も、この胸に。何より、護衛を連れていきますわ」

「⋯⋯解った。レオーネ殿下にも伝えてみよう。幸い、すぐに皇都を出るわけではないようだからな」

 ユリウスの言葉にヴィルへルミネは安心して微笑を返した。


    ───


 レオーネは朝に弱い。それに加えて運命の番に出会い、本能に逆らって離れたからか、朝から全身が重く、倦怠感をまとっていた。

 それでも何とかいつも通りの時間に起きて朝食をもそもそと摂っていると、皇宮から使者が訪れた。その手に、手紙を持って。

 それを読んでレオーネは、ぴしり、と音を立てて固まった。主の異変を察知したラルクは、恐る恐る尋ねる。

「どうされました?」

「⋯⋯皇女殿下が、お会いしたいと」

 のろのろと顔を上げたレオーネの言葉に、ラルクは目を見開いた。

「ええ⁉ 運命の番だってこと、お伝えしたんですよね?」

「した。はっきりと書いた! なのに何で⋯⋯彼女にとって、運命の番なんてもう関わりたくないだろうに」

 レオーネは頭を抱えた。

 ラルクにも手紙の中身を見せ、どうすべきか話し合うが、会わないという選択肢は存在しなかった。

 要求しているのがヴィルへルミネ本人であること、レオーネがあくまで謝罪のために来ている客人であること、ローディウムとマルダスとの関係などを踏まえて、この要求を無視するわけにはいかないのだ。

 体調不良を理由に先延ばしすることはできるだろうが、最終的に会わなければならないことに変わりはない。手紙を受け取った以上、無言で皇都を離れるわけにもいかないだろう。何しろ返事を持って帰るため、使者が待っているのである。

「⋯⋯せめて、こちらから出向こう。皇女殿下に無駄な時間を取らせるわけにはいかないから、手短にして⋯⋯ああ、でも一体何を話されるんだ⋯⋯?」

 レオーネは脳内をフル回転させながら、ヴィルへルミネとの会話を想定する。だが、幾ら考えてもどうなるか想像がつかない。

 当然といえば当然で、ヴィルへルミネと会ったのは昨日が初めてで、会話もほんの僅かのことである。彼女の人となりを知るには情報が少な過ぎた。

 とりあえず今すぐ──というわけにはさすがにいかず、明日伺う旨を伝えた。

 かくしてヴィルへルミネとレオーネの正式対面が成ったのである。

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