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運命だと言うけれど  作者: 沙伊


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百十六

 準備も滞りなく進み、結婚式当日。ヴィルヘルミネは、純白の花嫁衣裳に身を包んでいた。

 ローディウムの結婚衣裳は男女共に白で、花嫁はベールを頭から被る。皇族、あるいはその出身者は、更にティアラを身に着けるのが伝統だった。

 ヴィルヘルミネもその伝統にのっとった衣裳である。

 スカートの裾に金糸で小さな花の刺繍が施されたマーメイドラインのドレスに、総レースのベール、頭を飾るのは、銀とエメラルド、サファイアが輝くティアラだ。そして左腕には、レオーネから贈られた結婚腕輪が煌めいていた。

 余計な装飾品は無い、だが美しい装い。そんな主に、シュネーの口からため息が漏れた。

「殿下ぁ⋯⋯お美しいですぅ⋯⋯うぅっ」

「もう、どうしてシュネーが泣くのよ」

 薄っすら化粧を施した顔に苦笑を浮かべ、ヴィルヘルミネはシュネーの二の腕を軽く叩く。どちらかというと小柄なシュネーは、両親に似て背が高く伸びたヴィルヘルミネにすっかり追い越されていた。

「だって、ずっとお仕えしていた方の結婚式ですよ⁉ 冷静でいられませんよ~」

「⋯⋯確かに、貴女はずっとわたくしの傍にいてくれたわね」

 シュネーがヴィルヘルミネ付きになったのは、シュネーが皇宮に勤めてから一年ほど──彼女が十七歳の時で、その時のヴィルヘルミネは、まだ十歳だった。そんな幼い頃から、シュネーはヴィルヘルミネに仕えていてくれたのである。

「殿下、私も公爵となられる殿下に付いていきますからね。ちゃんと辞表も出したんですから」

「そうね。ちゃんと雇ってあげるわ。だからね、これはお願いなんだけど」

 ヴィルヘルミネは笑顔をいたずらっぽいものに変えた。

「わたくし、今日から皇族じゃなくなるの。だから殿下じゃないくて、ちゃんと名前で呼んでほしいわ」

「⋯⋯!」

 シュネーはぐしぐしと涙をぬぐい、笑顔で頷いた。

「はい。⋯⋯これからもよろしくお願いいたします、ヴィルヘルミネ様!」

「ええ、よろしくね、シュネー」

 ふたりはふふ、と笑い合った。


    ───


 結婚式は神殿の聖堂で行われる。王太子任命式とは違い、式の聖堂はフローディア女神のものだ。

 聖堂の奥では、白い衣裳をまとったレオーネが待機しており、聖堂内の長椅子には参列者が座っている。参列者の中には、当然皇帝一家もいた。

 レオーネの花婿衣裳はローディウム式のものだった。白いジャケットにベスト、シャツにズボンという、彼としては非常に珍しい姿である。焦げ茶色の髪と褐色の肌も相まって、まぶしいぐらいの白さだった。

 長い髪は銀の髪飾りでまとめ、前髪は後ろに撫でつけているため、秀麗な顔立ちがより一層前面に出ている。そして胸元には、紫の魔晶石が控えめに光っていた。

 そんな彼が緊張の面持ちで見つめる先で、聖堂の扉が開かれる。そして、ベールを目深に被ったヴィルヘルミネが現れた。

 ヴィルヘルミネは紅をはいた唇に笑みをたたえながら、しずしずと音も無くレオーネの元に歩いていく。その姿は幻想的で、参列者はほう、と感嘆のため息をついた。

 やがてレオーネの前に立ったヴィルヘルミネは、彼を見上げて笑みを深めた。そんな彼女に、レオーネも笑みを返す。

「綺麗だ、ヴィルヘルミネ」

「ふふ、貴方も素敵よ、レオーネ」

 短いやり取りの後、ふたりは聖堂の奥にあるフローディア女神の像と、その前に立つ神官に向き直った。

 女神像は人間によく似た美しい姿だった。だが耳と手は花の形をしており、やはり人間とは違う存在であることを匂わせる。

 その前に立つ神官は、薄紫色の神官服を着ていた。フローディア女神の神官の正式な服装である。

「ヴィルヘルミネ・スラウシャーン、ここにいるレオーネを伴侶とし、共に助け合うことを誓いますか?」

「誓います」

 神官の問いかけに、ヴィルヘルミネははっきりと答えた。

「レオーネ・フェリドゥ、ここにいるヴィルヘルミネを伴侶とし、共に助け合うことを誓いますか?」

「誓います」

 レオーネもまた、力強く頷いた。

「では、誓いの証としてここにサインを。そして、指輪を交換してください」

 神官は美しい装飾のされた台を指し示した。

 台の上には婚姻証明書と、ふたつの指輪がある。婚姻証明書にふたつの記入欄があり、手渡されたペンで、そこに名前を書いていく。

 それが終われば、互いの指にそれぞれ指輪をはめた。

「今ここに、新たな夫婦が誕生しました。ふたりの未来に、フローディア様の加護があらんことを」

 神官が祈りと共に魔力を操れば、上空から花びらが降り注いだ。マルダスでヴィルヘルミネも使用した、フローディア女神の神聖魔法だ。

 それを見上げるヴィルヘルミネを、レオーネは愛おしげに見つめる。

「ヴィルヘルミネ、改めて誓う。必ず、貴女を幸せにすると」

「⋯⋯わたくしだけが幸せになっても意味が無いわ。ふたり(、、、)で幸せになるのよ」

 ヴィルヘルミネはレオーネの手を取り、そう言った。きょとんとしたレオーネは、嬉しそうに笑う。

「ああ。そうだな。ふたりで幸せになろう」

「ええ」

 ヴィルヘルミネは微笑を返し、再び花びらの雨を見つめた。


 ──レオーネとわたくしは、これで夫婦になった。

 ──でも、幸せになれるかどうかは、これからだわ。


 ヴィルヘルミネは決意する。必ず、レオーネと共に幸せになることを。

 始まりは、リエーフのやらかしをレオーネが償うための来訪だった。それをきっかけにして、ヴィルヘルミネと運命の番であることが発覚した。

 政略と、当てつけのために婚約を結び、レオーネが見返すための手助けをした。

 その後別れて、それぞれの場所でやるべきことをやり続けた。

 マルダスで再会した時は、謀略を退けて正式な婚約を結び、約束を交わして再び別れた。

 そして三年後の今、レオーネを迎えに行き、ローディウムで結婚式を経て、夫婦になった。

 足掛け四年、様々なことを経験して、ようやく互いの手を取ることができたのである。

 だが、これはあくまで始まりだ。夫婦として、男女として、ヴィルヘルミネとレオーネはこれから始まるのである。

「レオーネ、愛してるわ。これからもよろしくね」

 ヴィルヘルミネは晴れやかな笑顔でそう言った。対し、レオーネも唇を緩めて頷く。

「ああ、こちらこそだ。愛している、ヴィルヘルミネ」



 ふたりのことを、人は運命だと言うのかもしれない。だがふたりにとって、そんなものはきっかけに過ぎなかった。

 ふたりにとって互いは、ただひとりの愛する人である。


 ─完─

 これにて「運命だと言うけれど」はお終いです。

 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。皆様の暇潰しになれれば、幸いです。

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