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運命だと言うけれど  作者: 沙伊


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109/116

百九

 三日後、シャオシンの処刑は執り行われた。

 衆人環視の中、シャオシンは静かに首を斬られたのである。苦悶の声さえ、上げることはなかった。

 ローディウム側の助言により、首は魔法銀の剣で斬られることになった。通常の剣では、首を斬りきれない可能性があったからである。

 シャオシンの罪は、公には国家転覆を図り、国王を暗殺しようとしたということになった。あながち間違ってはいないため、実情を知る者達は誰も反対することはなかった。

 処刑の場に、レオーネとヴィルヘルミネは出ることはなかった。出席したのは、レーヴと正妃、そしてマルダス王である。

 マルダス王も正妃も、そこはさすがと言うべきか、処刑の瞬間も顔色を変えることはなかった。その心情は、それぞれ正反対だっただろうが。

 一方レーヴは、処刑の瞬間には顔色を青ざめさせた。だが目を逸らすことはなく、シャオシンの死に様を見つめた。

 その姿を見た民衆は、未来の国王が誰なのかを悟ったという。


    ───


「そろそろ、わたくしは帰る支度をしなければならないわね⋯⋯」

 処刑の翌日、ヴィルヘルミネはレオーネとお茶を飲みながら、ぽつりと呟いた。

「俺の安否を確認して、婚約も正式に交わして⋯⋯当初の予定は、済ませてるからな」

 レオーネは頷きながら、寂しそうに笑った。その顔には、若干の苦味もある。解っていたこととはいえ、シャオシンの処刑は彼としても思うところがあったのだろう。

「レオーネは、まだマルダスで暮らすのよね?」

「ああ。貴女と結婚するまでは、レーヴを助けつつ、研究者をするつもりだ。だから三年ぐらいかな」

「お姉様主導の魔法学園が十年構想ですから、まだ充分な時間があるものね」

 レオーネはギルエルフィネが作る魔法学園の講師をする予定である。研究者をしているのは、そのための実績作りも兼ねていた。

「錬金術などの魔力があまり必要無い魔法が使えるなら、マルダスから留学生を募ってもいいかもしれないな」

「そうね。でもその前に、生活魔法を普及させた方がいいかも」

「確かに、まずは王宮から広めるところかな」

 いつもは楽しい会話も、ぽつりぽつりと途切れがちだった。

 処刑に直接関わったのは、ふたりにとって初めてだった。それゆえ、重圧がふたりの上にのしかかっている。

 だが、その重みに慣れねばならない。ふたりは皇族、王族なのだから。

「⋯⋯手紙、書くわね」

 ヴィルヘルミネはそう言って微笑んだ。だがその笑みは寂しげで、レオーネも眉尻を下げる。

「ああ⋯⋯。⋯⋯離れがたいな」

 そう言って、レオーネは胸元のネックレスを握り締めた。ヴィルヘルミネからもらった、魔晶石のネックレスだ。

「わたくしも、できればレオーネと一緒にいたいわ。でも⋯⋯」

「解ってるよ。ヴィルヘルミネとローディウムに行くことはできない。そんな無責任なことはしたくないし、何よりヴィルヘルミネ自身が許せないだろ?」

「ええ。貴方が務めを果たそうとしていること、解っているもの。わたくしも、それを無下にはできないわ」

 ヴィルヘルミネはそう言いつつ、ふと窓の外を見た。

「⋯⋯ローディウムに戻ったら、わたくしは叙爵されることになるわ」

「ああ」

「貴方がわたくしのために努力してくれているように、わたくしも貴方を迎えられるだけの──公爵として恥ずかしくないだけの努力をするわ。だから」

 ヴィルヘルミネはひと呼吸置いて、レオーネを見つめた。

「待っていてくれる?」

「勿論」

 レオーネは力強く断言し、ヴィルヘルミネの隣に移動した。そして、華奢な身体を抱き締める。

「約束する。三年後、必ず貴女の元に戻る。それまでに、自分を磨いているよ」

「ええ。わたくしも⋯⋯」

 ヴィルヘルミネは頷きながら、レオーネの胸に顔をうずめた。

「そうだわ。正式な婚約の記念に、何か贈り物を贈りたいわ。武器はもう贈ったし、何がいいかしら」

「俺も何か贈りたい。何が欲しい?」

「わたくしは⋯⋯そうね。おそろいの物がいいわ。小さなものでいいの。栞とか、リボンとか」

「じゃあ栞と⋯⋯ほかに何か贈りたい物があれば、それを贈るよ。俺もおそろいの物がいいから」

「お願いね。わたくしも、探してみるわ」

 それだけ言うと、ふたりは離れた。

「まだ帰国まで少しあるわ。それまで、マルダスのことを教えてくれる?」

「俺の知識は、そんなに無いけどな」

「いいの。レオーネの知っていることを知りたいの」

 それからしばらく、ふたりは並んで座ったまま、穏やかに話をしていた。


    ───


 ヴィルヘルミネ帰国の日。見送りはレオーネとラルクは勿論のこと、レーヴと正妃まで現れた。

「皇帝陛下、皇妃殿下によろしくお伝えください」

 正妃の言葉に頷き、ヴィルヘルミネはマルダスの王宮を見上げた。見つめた先にあるのは、リエーフの居室である。

「結局、第一王子夫婦はどうなるのでしょうか」

「まだ解りませんが、悪いようにはならないでしょう」

 正妃は答え、顔を伏せた。

「今でも、あのふたりは離れるべきだとわたくしは思いますが⋯⋯前のように、リエーフを支えられないという考えは、早計だったかもしれません」

「というと?」

「貴女に問いかけられた影響か、アミラ妃はリエーフと向き合い、話し合いをしているようです。前までの彼女は、リエーフを愛していると言いながら、その言葉に真実味は無かったのですが──少なくとも、今の彼女はリエーフを思いやる心が芽生えているように見えるのです」

「そう、ですか」

 ヴィルヘルミネはほっとした。自分の言ったことがいい影響を及ぼしたのなら、嬉しい。

「皇女殿下、色々と便宜を図っていただき、感謝いたします。ですが、ここからはマルダスの問題。マルダスの問題は王室たるフェリドゥ家が解決いたします」

「承知しておりますわ。フェリドゥ家、ひいてはマルダスのご多幸をお祈りしております」

 ヴィルヘルミネはそう言った後、レオーネに向き直った。

「レオーネ、元気でね」

「ああ。ヴィルヘルミネも、元気で」

「ええ」

 そう言って、ヴィルヘルミネはレオーネに抱き着いた。

「貴方と再び逢える日を、待っているわ」

「⋯⋯ああ」

 レオーネもヴィルヘルミネを抱き締め返し、すぐに離れた。

 そうして、ふたりは再び別れたのである。

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