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運命だと言うけれど  作者: 沙伊


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101/116

百一

 シャオシンの尋問の翌日、ヴィルヘルミネはローディウムの両親に向けて、手紙をしたためていた。

 走竜の討伐結果、リエーフとアミラ周りのこと、商人ことシャオシンの暗躍──書くべきことはたくさんあった。というか、書くべきことしかないと言うべきか。

「商人のことは相当怒っていたから、対処できないと知ってがっかりするかしらかしらね⋯⋯」

 魔狼の件を報告した時の様子を思い出し、ヴィルヘルミネは身震いした。

 ただ、ローディウムの件も自白している以上、無関係という立場ではない。何かしらの干渉はするだろうが、その辺りを判断するのはユリウスとミカエルシュナだ。ヴィルヘルミネではない。

 あれからシャオシンは、完全に沈黙しているそうだ。ヴィルヘルミネとレオーネが聞き出したことだけで自白としては充分だが、これだけで全ての罪は問えないため、裏取りは必要である。

 それともうひとつ、ヴィルヘルミネを悩ませるものがあった。


    ───


 時は、シャオシン尋問直後にさかのぼる。



「は⋯⋯? お、俺が王太子?」

 正妃宮に呼び出されたレオーネとヴィルヘルミネは、正妃から驚きの提案をされた。

 なんとレオーネを王太子に任命するというのである。

「待ってください、正妃殿下! なぜレーヴを飛ばして、俺が王太子になるんですか⁉」

 飛び上がるレオーネに、正妃は微笑を向けた。

「確かに継承権の上では、レーヴの方が上ですね」

「なら!」

「落ち着きなさい。きちんと説明するから」

 正妃は紅茶を一口飲み、隣に座るレーヴを見た。

「何もレーヴを無視した提案ではないのですよ。それに、本当に次期国王として振る舞えというわけではないのです」

「え?」

 レオーネは一瞬眉をひそめた後、ため息をついた。

「レーヴが大人になるまでの繋ぎ、というわけですか」

「ええ。最低でも三年、長くても五、六年ほど、中継ぎを頼みたいのです」

「⋯⋯確かに、国王陛下の醜聞が知られた今、早期の退位を迫られるでしょうし、そうなった場合、正妃殿下が後ろ盾になっても若過ぎますが⋯⋯」

「僕としては、そのまま兄様が王様になってもいいと思いますけど」

「よしてくれ。争いの種になりかねないし、第一柄じゃない」

 レオーネは首を振った。

「継承争いなら、わたくしの家門が後ろ盾になりますよ?」

「正妃殿下まで⋯⋯やめてください。王となれば、側妃も求められるでしょう。俺はヴィルヘルミネだけがいいんです」

 レオーネはヴィルヘルミネの手を握った。それを嬉しく思いながら、ヴィルヘルミネは口を開く。

「期間限定とはいえ、王太子となるからには⋯⋯正妃殿下としては、レオーネにマルダスにいてほしいと思ってらっしゃるのですか?」

「ええ。できれば末永く、レーヴを支えてほしい。それに⋯⋯第二王子の意思はどうあれ、彼を王にと推す声は多いのです。その求心力を、マルダスに活かしてほしいという気持ちも、勿論あります」

「それは⋯⋯」

 レオーネは黙り込んだ。

 疎まれていた側妃腹の自分が、中継ぎとはいえ王太子に抜擢されるとは思ってもみなかった。

 嬉しくないわけではないが、王太子になりたいかと言われれば勿論否である。

 それにマルダスに永くいてほしいという願いにも、レオーネは頷けない。

 レオーネの最終目標は、ローディウムで爵位を得て永住することだからだ。そのために努力してきたし、マルダスでの活動も、ヴィルヘルミネとの婚約のほかにその足がかりだった。

 だが、今後迎えるだろう祖国の混乱期を無視するほど、レオーネは自分の立場を忘れることができない。

「⋯⋯考えさせてください」

 レオーネは結局、そう答えるしかなかった。


    ───


 ヴィルヘルミネは文字を書く手を止め、ため息をついた。

 ヴィルヘルミネとしては、レオーネの意思を尊重したい。だが、レオーネを軽んじ続けてきたこの国から引き離したい気持ちもあるのだ。

 それに、この国に留まり続ける限り、レオーネは母と再会することはできない。

 離婚は成立したとはいえ、ルゥリは国王の元から逃げた側妃である事実は変わらない。そんな彼女がマルダスに戻れば、周囲は彼女を罰しなければならなくなるだろう。

 マルダスにいる限り、レオーネは様々なものを諦めなければならなくなるのだ。

「そんなの、駄目だわ」

 ヴィルヘルミネは再びペンを取った。

 ヴィルヘルミネにとって、レオーネは初めて異性として好きになった、そしてこの先を共に生きたい、見届けたいと思った相手だ。彼には幸せになってほしい。

 そのために、まずはマルダスから離れられるようになければならない。

「わたくしとレオーネの正式婚約は、問題無いでしょう。問題は、第三王子殿下ね。でも、年齢はどうしようもないし⋯⋯」

 レーヴが成長するまで王太子となるだけなら、実際は問題無い。だがそんなことをすれば、半ば自動的にマルダスに組み込まれることになる。だから、レオーネの王太子就任は絶対阻止しなければならないのだ。

「そうなると⋯⋯まずレオーネの爵位授与を急いでもらって⋯⋯いえ、いっそわたくしに授けてもらう? それに」

「殿下、失礼します」

 ヴィルヘルミネがうんうん考えていると、シュネーが声をかけてきた。

「第二王子殿下がお越しになっています」

「レオーネが? 通してちょうだい」

 ヴィルヘルミネはペンと便箋をしまい、レオーネを迎え入れた。



「突然すみません、ヴィルヘルミネ」

「いいえ。やはり昨日の正妃殿下の提案のことですか?」

 ヴィルヘルミネが尋ねると、レオーネは頷いた。

「レーヴを助けたい気持ちは、あるんです。でも、そうなったら、俺はマルダスに縛られることになる」

「そうですわね」

「正直言って、マルダスに骨を埋めるつもりは毛頭ありません。でも第二王子という立場上、この国の混乱を見過ごすわけにはいかない。⋯⋯答えがまとまらなくて、つい来てしまいました」

「頼ってくれて嬉しいですわ」

 ヴィルヘルミネがそう答えると、レオーネはへにょりと獣耳を垂れさせた。

「⋯⋯格好悪いとは思わないんですか? 優柔不断だって」

「ことがことですもの。悩んでしまうのはしかたがないことですわ。そんなことで、わたくしの愛は揺らぎません」

 ヴィルヘルミネは少しだけ身を乗り出した。

「一緒に考えましょう。勿論、貴方がマルダスのために生きるというのなら隣にいるつもりですが──わたくしにとって、貴方の幸せが最優先です。マルダスにいたくないというのなら、何とかする方法を探しましょう」

「⋯⋯頼もしいですね」

 レオーネはおかしそうに笑った。

「ありがとうございます、ヴィルヘルミネ。貴女が味方だと思うと、とても心強い」

「当然ですわ。わたくしはレオーネの一番の味方ですもの」

 ヴィルヘルミネは愛らしい微笑を返した。

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