最初のお嫁さん
私はバカだから……高校を卒業する事も出来なかったし、仕事も何も……長続きしなかった。唯一長続きしたのはJKの頃からやってた援交で……アイツに拾われるまではそれでどうにか糊口をしのいでいた。
アイツは元々援交の“お客”で……『ボンキュッボンでも無いし取り立てて美人でも無い。エッチの回数は……まあ、こなしはしたけど“ウマヘタ”なんて分かんない』なんてほざく私の事をヘビロテってくらい“リピート”してくれて……とうとうアイツに“囲われる”事になった。
アイツの名前は西崎雄二、ギラっとしたイケメンだけど如才なく、若くしてどこかのお屋敷の執事らしい。
仕事柄、お屋敷に泊まり込む事も多々あるので、私は小ぎれいなマンションに飼い殺し状態で……一人の時はジャンキーな食べ物で適当に過ごしていた。
もっとも、雄二は私に「少しはマトモになれ!」が口癖で……私に家庭教師まで付けて勉強を強要した。
「こんなに勉強するなら援交の方がまだマシ!」と何度も逃げ出そうと思ったけど、身の回りが“積年の埃”で色々とヤバかったので止むを得ず大人しくしていた。
でもまあ、今にして思えば……こうして多少なりとも漢字やことわざが書けるのは、このおかげでもある。
仕事の話はまったくしない雄二だったけど、そのストレスなのか“私を囲んでから”のエッチは酷く暴力的で……私は“見えないところ”がいつもどこかしら痣になっていた。
でも次の日の朝は私のご機嫌を取るレベルで執事オーラーMAXの甲斐甲斐しさを見せるので、私もついついほだされてしまっていた。
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囲われてから半年ほどたったある日、帰って来た雄二はネクタイを緩めながら初めて仕事の話をした。
「奥様が所有している宝石が盗難に遭い、屋敷の従業員は全員解雇された。お前、明日から屋敷へ行って家事をやれ!」
前振りも無くいきなりこんな事を言われて酷く戸惑ったが、この余波で暴力的なエッチをされるよりは全然マシなので二つ返事で指示に従った。
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雄二曰く、ご主人である7代目新田諒市氏はどちらかと言えばぼーっとした感じの温厚なお人柄だが生真面目で仕事熱心。奥方の礼華様はお嬢様育ちの尊大さに気性の激しさを付加させた肉食系で……色んなタイプの“愛人”とのおデートがご多忙とあって、二人共、ほぼ家には居ないらしい。
雄二が留守の時は、屋敷は使用人だけとなり、やりたい放題になっていたという……『確かに執事といえども奥様のドレスルームなどは毎日チェックする事はできないから、盗難にも気付けなかったのか』なんて考えていると雄二は私をドレスルームに押し込めて「試着してみろ」と言う。
これは奥様の指示で気に入った洋服を私に下さると言う意向らしい。
「こんな豪奢なお召し物は来ていく場所が無い」とドレスルームを出て来た私に、雄二は「宝石をコソ泥されるよりマシだと言う事だろう。金持ちの神経はわからん」と肩を竦めた。
それとは別に、無駄に広いお屋敷の掃除は本当に難渋し、雄二と入れ違いでマンションに帰った私はそのまま寝入ってしまった。
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こんな風にして1週間が過ぎ、午後の3時頃には家事を終える事ができる様になった私はエプロンを付けたままで玄関に一番近い部屋のソファーに腰掛けた。
エプロンのポケットからスマホを出し、雄二が何時頃帰って来るのか確かめようとしたらベルが鳴り、そのまま鍵が開けられてセカセカと雄二が入って来た。
「早いのね!?……」
「今日は、ここに泊まって奥様の代わりに旦那様に給仕をしろ!ケータリングは手配済みだから給仕と後片付けだけでいい」
「でも!私、旦那様にご挨拶すらしていないのに……」
「挨拶の必要なんてないわ!」
刺す様な女性の声が聞こえて雄二は最敬礼した。
入って来た女性の顔に私は驚きを隠せなかった。
「なるほどね、ここまで似ていると“お人形遊び”のし甲斐があるわ! あなた!ドレスルームへいらっしゃい!」
ドレスルームで、スマホを持った雄二の前で私は素っ裸にされ、奥様にランジェリーから当てがわれた。
「まったく鏡を見ているみたいで笑っちゃうわ!」
最後にメイクを施され、鏡の前に立った私と奥様は私自身が見間違うほど“奥様”になってた。
「西崎! しっかり録ったわね!」
「はい!奥様!」
「明日からあなた達だけで完璧に仕上げなさい!服はどれを使ってもいいわ!ジュエリーはボックスの中! 結婚指輪のレプリカもこの女のサイズに合わせて作ってあるから。 まったくもうこんな時間!出るわよ!」
奥様は雄二の居る前で平気で“お召替えし、彼を引き連れてさっさと出て行った。
後に取り残された私は半ば呆然としながらも「奥様の愛人の一人は雄二で……私は“この目的”の為に囲われたのだ」と確信した。
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雄二から大急ぎでレクチャーを受けたけれど、初めて顔合わせする“旦那様”と夫婦として食事をする事に、大きく開いた背中に冷や汗が幾筋も流れていたのを後ろに控えていた彼は見ていたはずだ。
それなのに!
やっとの思いで食事をこなした私に彼は「今日は子作りの日だから」と耳打ちした。
思わず振り返った私に雄二が投げ掛けたのは「孕むなよ!」とのひと言だけだった。
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「私は慣れっこなんだから! これだって突き詰めればお金が絡んだご奉仕なんだから!」
バカみたいに決意して事に及んだら……
多分、私……生まれて初めて女の子扱いされて……
戸惑い……
そして燃えそうになるカラダと心を必死に抑えて
優しい気持ちでお互い果てた。
でも、次の夜……
私をお屋敷に居残りにさせて、自分も居残った雄二から……
前の日に幸せのひと時を紡いだ同じベッドの上で、皮膚の上には現れない方法で私が悲鳴で声を枯らすまで凌辱された。
「ダンナ様とヤるときにこの恐怖を思い出せ!!」と
多忙な“旦那様”は週に1、2回しか帰ってらっしゃらない。
だからそういう“星回り”の日も滅多には来ない筈なのに……
私は懐妊してしまった。
それが優しさからもたらされたものなのか、凌辱の果てに植え付けられてしまったものなのかは分からない。
それでも私は可能な限りバレない様にしていたのだけど……“二人の悪魔”の知る所となり、私は粗末なベッド一つの小部屋に閉じ込められ、どこでどう連れて来たのか分からない医者に前後不覚にされ、気が付いた時には子供の産めない体になってしまっていた。
私がそれを知ったのはぼんやりと覚醒した時の、ドアの外の悪魔たちの話し声。
「どこかに訴えでもされたら厄介な事になるわよ」
「私が言い含めます。ああいうオンナは子供を産めない様にするのが世の為であり、オンナ自身の為でもある。“街ネコ”みたいなもんですよ」
こんな事を言われても……今は自分の足でトイレにさえ行けない状態の私は、ただ涙で枕を濡らすしかなかった。
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次に旦那様がお帰りになった時は、私はどうにか歩けるようになってはいたが出血が止まってはいなかった。十分気を付けてはいたのだけど同衾していたシーツを汚してしまい、旦那様を驚かせてしまった。
「ごめんなさい。不正出血が止まらなくて……西崎に頼んで医者に診に来てもらったから心配はなさらないで」と詫びた。
旦那様は替えのシーツから何から一切を引き受け、洗濯までしてくれた。
新しいバジャマに着替えさせてくれて、一晩中、私のお腹をそっとそっとさすってくれた。
今までずっと堪えていたけど……私は初めて声を上げて泣いた。
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その計画を雄二から聞いたのは秋が深まる頃だった。
奥様は「八津槍岳中腹にある新田本家所有のロッジで旦那様と替え玉の奥様に強い睡眠薬を飲ませ昏倒させ、納屋に生き埋めにして雪山での遭難に見せかけ、後で自分が助けられて新田本家を我が物にしようとする」恐ろしい計画を雄二に命じたのだった。
「いくらなんでも愛するお前をそんな目には会わせられないからな」
旦那様との“はぐくみ”をずっと避けているせいで……あまり暴力的にはならないで居てくれる雄二が私の胸を弄びながら発したこの言葉に私の背筋は凍った。
アイツの筋書きはこうだ。
「昏倒させるのは旦那様と奥様。ワタシをオレが助け出し、オレとお前で新田本家をよろしくやっていこうぜ!」
旦那様には勿論こんな事を言えやしない!!
信頼している奥様と執事が結託し、自分を殺そうとしてるなんて!!
あの優しい旦那様はどんなにか心を痛める事だろう!!
だから私は雄二の口車に乗ったフリをし、ひと月掛けてロッジの納屋に人間二人を埋める為の大きな大きな穴を掘った。
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色々調べ尽くした挙句の適量の睡眠薬を旦那様と奥様に盛った。
「うまく運べるかどうか分からないから、まずは軽い奥様の方から」と雄二に頼み込んで、ロッジの脇の納屋に二人して奥様を運び込んだ。穴の中に下ろして雄二が背中を見せたところでヤツの頸動脈に小柄を突き立てた。
この小柄は新田本家の家宝で旦那様の手入れが行き届いていて物凄い切れ味だった。
血を吹き崩れ落ちて来た雄二から身をかわし、奥様を引き摺り上げた私は穴の中で奥様を揺すり起こした。
朦朧としている目の焦点が私に合った途端、奥様は金切声を上げて私の喉を締めにかかった。私は首に掛かろうとする両腕を必死に抑えて涙ながらに「すべての罪は私が背負いますからどうか旦那様とヨリを戻して!!」と懇願したが聞き入れてもらえず、止む無く小柄を奥様に突き立てた。
血糊がべったりと付いた服と二人を埋め、汚れた体を清めてから……
“死に装束”のつもりで持って来た“思い出の”パジャマを着てロッジに戻り旦那様を揺り起こした。
「ああ、今、礼華の夢を見ていたよ……」
礼華と言われるたびに痛んだこの胸に……私は旦那様を抱いた。
「夢で礼華が居なくなったんだ……今は夢じゃなく現実だよな!」
「ええ、西崎も下山して今、この世界は……あなたと私の二人きりだから……どうかしっかりと抱いてください!」
冬の夜は長い……にも関わらずいつまでも明けて欲しくないと私は切に切に願った。
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私にはあまり時間が残されていない事は端から分かっていた。
西崎が居なくなった今、私の馬脚はすぐに露われる。
だから、今までとは打って変わって毎日毎晩、カレの愛を欲した。
カレが出張する時はどんなところへも付いて行き、どんなに遅くなってもカレを待った。
でも、天の采配はお構いなしにやって来る。
梅雨時の線状降水帯が八津槍岳中腹を襲い、ロッジの辺りが崩落し全てが露わとなってしまった。
名家所収の土地だった為、事の詳細は報道されなかったがテレビで報道された範囲で私は全てを察知した。
明らかに顔が曇った私を案じて“夫”はシルバーニードルズと言う紅茶を淹れて私を呼んだ。
「思い出のロッジが残念な事になったね」
私は甘い香りと優しい夫から身を離し窓の外を見やる。
遠くに見えていた赤色灯がこちらに向かって近付いて来る。
私は夫に掛ける最後の言葉を探しあぐねていた。
優しい夫の事だから支えてくれる人はたくさんいるだろう。真実のお嫁さんになってくれる人も……
なら私は、夫の最初のお嫁さんでありたい!!
礼華奥様が私を身代わりにした様に私も礼華奥様を身代わりにして……初めて夫の腕の中で泣き崩れた私のままで夫の胸の中で生き続けよう!
それに一番の幸福は……夫に子供の産めない体の事を言わずに済む事が出来るのだから。
私はオフホワイトの麦わら帽子を目深に被って夫の前に立ち、蓮っ葉に吠えた。
「ああ、パコパコやってりゃ有閑マダムの地位が手に入ると思ったのによぉ!」
驚く夫を尻目に庭に続く掃き出し窓を開け、置いてあったサンダルを突っ掛ける。
それは粗末だけどずっと履き慣れていた“私の物”だった。
おしまい




