冒険
ここ数日、彼は冒険を続けていた。
ある時は、様々な時代を考察し、その時代に生きた人々の想いを伝承した。
またある時は、文書に隠された真意を見抜き、隠された謎を解き明かした。
またまたある時は、自然の摂理に触れ、その記録をまとめ上げた。
正直、彼は満身創痍だった。そもそも冒険が得意ではない彼にとって、既に振り絞る力は残っていない。
「よし…次はここを攻めるか…」
彼が次に冒険の舞台として選んだのは、数字が溢れかえるデータの世界。数ある冒険の舞台の中でも、彼が最も不得意としている分野の世界だ。
おそらくここが彼の今年の冒険の山場といっていいだろう。
幾重にも折り重なるデータ。その処理方法はさまざまで、手を変え品を変え彼を弄んでいる。
冒険を始めてから数時間は経過しただろうか。
「あーーーーもう無理!」
彼は元々冒険を好んではいない。日常的に戦うことなど皆無と言っていいだろう。
そんな彼がここまで冒険を続けてきたこと自体が奇跡そのもの。だが、すっかりやる気がなくなった彼は、手に持ったモノを置き、その場に崩れ落ちる。
「もう無理だよなあ…」
彼は時を指し示す造形物に目を向ける。
「だめだあ…間に合わないかも…」
その時、空を切る一つの爆音が響き渡る。
バン、と響き渡るその音は、他に一切の痕跡を残さず、しかし彼の心にはいつまでも響き渡る。同時に、彼の記憶が揺さぶられる。
「ねえ、せっかくだから、一緒に行こうよ!」
思い出される愛しの女神の囁き。
女神は彼よりもよっぽど冒険好きだ。
彼は女神に釣り合うために冒険を始めたと言っても過言ではない。
「ちょうど休みの真ん中だし、宿題も終わらせて一緒に行こうよ!花火大会!」
女神の一言を思い出すだけで、彼には力が沸き上がってきた。先ほどの轟音は「本日予定通り開催」の合図だ。待ち合わせまで時間はまだある。
「よーし、花火デートのためにもがんばるぞ~!」
この冒険を終え、女神との約束を果たした時、彼の真の冒険が始まるのかもしれない。