4、再会
森の中から姿を現したのは、聖女リリーだった。
「リリー!?」とアルは驚きのあまり、そう叫んだ。
聖女は疲労困憊といった様子で、ふらふらで今にも倒れそう。服も森を抜ける間にぼろぼろになっていた。なんとかここに辿り着いたという感じだ。
「ああ、アルの姿が見える。これは夢かしら」とアルの姿を見てリリーは嬉しそうに微笑んだが、そのまま倒れてしまった。
アルがあたりの様子をうかがっても、他に人がいる気配はない。無理して一人で森を抜けてきたのだろう。
アルはリリーの体をその場に寝かせて、魔法で体力を回復させた。回復は妖精が最も得意とする種類の魔法らしい。アルも真っ先に覚えさせられて、今では相当高いレベルのものを使うことができる。
リリーはしばらくすると、意識を取り戻したが、目の前にアルがいるのを見ると、驚きの表情を浮かべたのだった。
「アル。本当に生きているアル? 幽霊とかじゃなくて?」
「本当に生きているよ。ほら」とアルはリリーの頭をぽんぽんと叩いた。リリーはその手を掴んで、指を握ったり、手のひらをつついたりした。
「本物だ。でもどうやってこんな森の奥で? それになんか雰囲気が変わってるような」
「実は妖精に助けられて。エアリーていう名前の妖精なんだけど」
「妖精? ああ、ずっと一人だったから幻覚が見えるようになったのね。名前まで付けて。一年間一人でここにいたんだものね。辛かったでしょう」そうして、「ごめんなさい」と聖女は深々と頭を下げた。
「待って。あやまることないよ。悪いのはあの勇者、えっと」と勇者がすぐに出てこなかった。アルにとって一年前がずっと昔のように思えた。「ヨナスが悪いんだから。あと妖精は幻覚じゃないんだけどな。でもよかった。リリーにまた会えた。ここまで来てくれた。もしかしたら、リリーにも見捨てられたんじゃないかと不安だったんだ」
とアルは心底ほっとした表情で言った。
「そんなわけないじゃない」とリリーは首を振って言った。「でも一年も待たせたんだもんね。無理もないかも。本当はもっと早く来たかったんだけど、一年もかかっちゃった。正直、もうアルがまさか生きているなんて思わなかったから、お墓だけでも作ってあげようと思ってきたんだけど。こうしてまた生きて会えるなんて」
「俺もまさかリリーがここまで来るなんて思わなかったよ。しかも一人でだよね」
「うん」
「この森の中は一人で来られるような場所じゃないと思うけど」
「平気だよ。モンスター除けのアイテムを使ってきたから」
「そうなんだ。そういえば、あいつらはどうしたの?」とアルは気になってたことを聞いて見たのだった。
「勇者パーティのこと? それなら抜けたよ」
「抜けた?」
「うん。アルを置き去りにするようなパーティになんていられないもん。抜けるまでに一悶着あったけど、数カ月前にやっと抜けられた」
「そうか、それは大変だったな。でもリリーがいなくなったらあのパーティだめだろうな」
勇者パーティの中で聖女の役割はとても大きかった。だからヨナスも彼女を必死に引き止めたのだろう。
「私はあのパーティがどうなろうと知ったこっちゃないよ。アルにあんなことをするなんて、あいつらがどんな目にあっても自業自得。私のことよりも、アルだよ。こんな恐ろしい場所に一年間ずっと一人でいたなんて、可哀想。さあ、もうこんなところにいる必要もない。帰りましょう」
リリーはそう言うと、立ち上がって森の方に向かって歩きだしたのだった。
その言葉を聞いて待ちきれなくなったのか、
「ちょっと待ちなさい」とエアリーが飛び出してきたのだった。
「え? 一体何?」
「ほら、彼女はさっき言ったエアリー。妖精の」
「妖精? それってあなたの妄想じゃなかったの?」
「だから本当なんだって」
「そうよ。私がアルの命の恩人なんだから。リリー、あなたも私に感謝しなさい」とエアリーは、腕を組んで胸を張ったのだった。
その偉そうな格好で自慢気な表情をしている小さな妖精を、リリーは訝しげな目で見つめた。
「この子、本当に妖精? 偽物じゃない? 見た目は確かに本に書いて会った通りだけど、妖精がこんな生意気なこと言うわけないよ。妖精はもっと神聖な存在だよ」
「あなた失礼ね。あんたこそ本当に聖女なの? 聖女は妖精を敬って大切にする存在のはずよ。こんな無礼なやつが聖女なわけない」
「何ですって?」
と聖女と妖精は喧嘩を始めてしまった。
アルは困った表情をして二人を眺めた。