3、妖精は聖女が嫌い
アルが、エアリーにリリーを紹介したしたいと言ったら、
「街に行くのはいいけど、聖女とは会いたくない」とそっぽを向いてしまったのだった。
「会ったこともないのに? なんでだろう」
エアリーはうんざりしたような表情で首を振って、
「だって、あんたを置き去りにしていくような人なんでしょ」と言った。
「確かにあの勇者パーティの一員ではあるけど。彼女だけは俺をここに置いていくの反対していた」
「そんなの口だけだよ。アルは人の信用しすぎなのよ。だからいつも騙される。もう一年経ってる。どうせ聖女も今ごろあんたのことなんて忘れてるんじゃない?」
「もしそうだったら悲しいな。でも俺にとってリリーは特別なんだ。彼女は小さい頃から、何があっても味方でいてくれた。ずっと心強い存在だった。だから彼女だけは信じたいという気持ちが捨てられない。もしだめでも、少なくとも自分の目と耳で確かめたいんだ」
「まああんたが気の済むようにすれば」とエアリーはため息をついて言った。それから、「聞いて思ったんだけど、アルが今まで弱いままだったのってその聖女のせいじゃないの?」とエアリーは言ったのだった。
「リリーのせい?」
「聖女があんたを守ってくれたっていうけど、逆にそれがあんたの成長の機会を奪ったんじゃない? その聖女がいなかったらあなたはもっと早く強くなれたはず」
「俺がリリーにずっと頼っていたのは確かだけど……」
「やっぱりあんたが聖女と一緒にいるのはよくないよ」
アルはエアリーに言われて少し考え込んだ。アルも聖女と一緒にいることが自分のためにならない、というのはそれなりに説得力のある意見だったのだ。
アルは聖女と一緒にいるせいで自分が弱いままだったのだろうか、と考えた。しかしアルは「そんなことない」と呟いた。そして、
「俺が弱かったのは、リリーのせいとかじゃない。自分自身が努力しなかったせいだ。鍛えようと思えば鍛える機会だってあったはずなんだ。でも俺がリリーに頼って何もしなかっただけ」と言ったのだった。
「まあ、それはそうかもね」
「こんなに強くなるなんて可能性考えもしなかったから」
「それは仕方がないね。実際めちゃくちゃ弱かったし」とエアリーは笑ったのだった。
「でもとにかく私はその聖女のことが気に入らないの。だってあなた時々悲しい表情をしている。どうせそれもその聖女のことでも考えているんでしょ」と言ったのだった。
それはエアリーの言う通りだった。
アルは、リリーのことを信じていると言いながら、心の片隅では、もう一年も会っていないから、もしかしてリリーにも見捨てられたのでは、と考えてしまうこともある。それで悲しい気分になるのだ。
「それに聖女はあんたが弱いからこそ守らなきゃって一緒にいたんでしょ。もし強くなった今のアルを見たら別に一緒にいる理由はなくなるんじゃない?」
「それは確かにそうかもしれない」
「ねえ、別に人間たちのところに行く必要ないんじゃない? わざわざそんなところに嫌な思いしに行くより、聖女のことなんか忘れて、ここで過ごせばいいじゃない。なんたってここには私がいる。それで何の不足もないでしょう」
「エアリーは優しいな」
「別に。ただあなたが無駄なことをしようとしてるのを見るのが嫌なだけ」
「確かにまた街に戻るのは正直、不安。聖女に見捨てられたらショックだし、これからどうしようって途方に暮れるだろうなって怖かった。でも、やっぱり大丈夫だって思えてきたよ」
「なんで?」
「エアリーがいるから」
「何? 私を聖女の代わりにしようとしてない? そんな都合の良い」
エアリーは不満げな表情でそう言ったが、どこか嬉しそうでもあった。
「仕方がないわね。私は、人間みたいな簡単に裏切る存在とは違うんだから。逆にあんたがもういいって言ってもずっとついていくからね」
「ありがとう」
そのとき遺跡近くの森で、がさごそと物音がした。
「誰か人間がやってきたみたい。来たのは一人よ。私、隠れてるから、どうにかして」と妖精はどこかに飛んでいって姿を隠してしまった。