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#記念日にショートショートをNo.40『夏にいる美珠の送りほたる』(Protective Firefly of Beautiful Pearls living in summer)

作者: しおね ゆこ

2020/8/10(月)山の日 公開

【URL】

▶︎(https://ncode.syosetu.com/n9194id/)

▶︎(https://note.com/amioritumugi/n/nd829f067868f)

【関連作品】

なし

 周囲の目を気にしながら、裏道を通り、3つのスーツケースを隠すように引いて家に入る。

このご時世に、スーツケースを持っているところなんか見られたら厄介だ。ひと目で、遠方から来たということがバレてしまう。

祖父母の家であろうと、帰省であろうと、関係ない。〝コロナ〟の蔓延が続いているいま、すれ違う人々の心に、そういう考えがあることがどうしても透けて見えてしまうのだ。

 「にいちゃん、疲れた。」

「もう少しだから、ほら。」

弟の秋哉(あきや)に手を差し出す。母親の腕を握り、大人しく後方を歩いている末っ子の冬莉(ふゆり)とは違い、秋哉は何でも思ったことは口に出す性格だ。わがままは抑えてくれと思う半分、この数年はその方が安心する。反対に、大人しくて助かる分、冬莉の方が心配だ。一人で溜め込んでいないと良いが、どうも男の僕では役に立てない。7歳の冬莉より4つも年上なのだから、秋哉にはもう少し妹を気にかけてほしいと思うが、19歳の長男の僕でさえ、どうして良いのかわからないのだから、弟にそういうことを思うのは、間違っているのかもしれない。やはり夏恵(なつえ)がいてくれないと……。

 夏恵が死んだのは、3年前の夏だった。その日、僕らは兄弟4人で山登りをしていた。

大して高くない山だった。だから、気付かぬうちに油断していたのかもしれない。

雨でぬかるんだ土に足を取られ、夏恵の身体は宙に跳ね上がった。

咄嗟に手を伸ばしたが、間に合わなかった。夏恵は、そのまま崖下に転落した。夏恵は、まだ12歳だった。

 五山の送り火は、亡魂の送り火でもあるという。5つの山に字や形を書いて、点火する、夏の行事だ。

 火が灯り、徐々に浮かび上がってくる形を眺める。

「大」「妙」「法」「⛵️」左の「大」「⛩」

5人で、6つの火を見つめる。

父さん,母さん,弟,僕,妹。

季晴(すえはる)節美(せつみ),秋哉,春太(はるた),冬莉。

「お姉ちゃんに会いたい…。」

隣に立つ冬莉が、僕にしか聴こえないような小さな声で呟く。

冬莉の声を聴くのは、久しぶりだった。

「いつでも、会えるさ。」

小さな手を握る。

たった一人の姉を亡くし、冬莉は孤独を感じている。誰にも代わりの務まらないその位置に、持ち主が帰ってくる日を待っている。

しかし、ほたるが帰ることはない。

御霊のほたるは、僕らの心に宿っているのだから。

【登場人物】

●春太(はるた/Haruta):19歳

○夏恵(なつえ/Natsue):15歳*12歳の時に事故死

●秋哉(あきや/Akiya):11歳

○冬莉(ふゆり/Fuyuri):7歳


●季晴(すえはる/Sueharu):父

○節美(せつみ/Setsumi):母

【バックグラウンドイメージ】

◎京都の五山の送り火

【補足】

◎登場人物の名前について

○子供達4人

春夏秋冬からそれぞれ1文字ずつ使用

○両親

子供達4人の親であることから、「季節」の文字をそれぞれ使用

【原案誕生時期】

公開時

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