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【一話完結】 ~社畜・イン・ワンダーランド~

以下のポイントが分かれば、この話からでもお読みいただけます


・名作の部類に入る文学が人の姿になった世界

・擬人化した文学のことを「名作」と呼ぶ

・「名作」は各々の特性に応じた強大な異能力を持つ

・「名作」たちは図書館で共同生活をしている

はあ。

サラリーマンのオキセは夜の公園にいた。1人でベンチに座り、ぼんやりと虚空を見つめていた。こんな姿は、小説かドラマのサラリーマンだけだと思っていた。だが、仕方なかったのだ。


最近、残業続きであった。放任主義の上司。仕事にやる気のない部下。結果としてオキセが1人で抱え込む羽目になっていた。働いて、怒られて、の繰り返しの日々に疲れきっていた。

今日もいつも通り帰宅するはずだったのだ、が、公園の横を通った時、何だか脚が動かなくなってしまった。そこで公園のベンチに座ることにしたのだ。


帰りたいはずなのに身体が動かない。何もしたくない。仕事から逃げ出したい。デスクの上の物を壁に投げつけたい。いっそ、職場が爆発してくれないかな……。そんな黒い思いがぐるぐる回ってきた。

ベンチに座りながら、今日はどうやって帰ろうかオキセは思いを巡らせた。だが、ぼうっとしていても暗くなるばかりだ、一円の得にもならない。そう思い直して鞄から自己啓発本を取り出した。しかし文章が頭の中に入ってこない。目が同じ行を何度も行ったりきたりする。

本を開いてぼんやりしていると、

「おじさん、何やってるの?」

と、声が聞こえてきた。目をあげると、可愛らしい女の子 が本を覗いていた。

「何を読んでいるの、こんな暗いところで。目が悪くなるわよ。」

「……。」

オキセは予期せぬ中断に呆気にとられた。

「あら……おじさんって呼ぶには若いのね…それじゃあ何て呼ぼうかしら……そうだ!私が名前を当ててあげる!あなたの名前は……フルオ!フルオじゃない?」

「違う、私の名前はオキセだ。」

「まあ、1文字当たったわ!」

そう言うと目の前の少女はけらけらと笑った。

「それで、オキセ、こんな暗いところで何読んでるの?」

「これかい?これはね、お仕事をうまくするための本だよ。」

そう言うとオキセは本の表紙を見せた。

少女はふうんと気の無さそうな返事をした。

「あんまり面白そうじゃないわね。こういうところで読んで疲れないの?」

「……そうだね、お仕事帰りだから、結構疲れているよ。」

「お仕事、忙しいの?」

「ああ。なかなか家に帰れなくてね。たいへんだよ。」

「あら。じゃあ、その横に置いてあるお薬は飲まないの?」

少女の指差した方を見ると、栄養ドリンクが置いてあった。

そうか。俺は栄養ドリンクをコンビニで買ったかえりだったんだっけ……。

「そうだね。いただくよ。」

「そうよ。乾杯しましょう。」

気がつくと少女も薬を手にしていて、2人で薬を飲んだ。


すると、みるみるうちに2人の身体は小さくなっていった。どんどん縮んでいき、気がつくと蟻くらいのサイズになってしまった。

「な……何なんだ、これは!?」

「まあ!たいへんね!」

オキセはひどく驚いたが、少女はあまり気にしていない様子だった。

「オキセ、あそこを見て!ベンチの足元に穴が開いているわ!」

「ああ……蟻の巣か何かじゃないのか?っていうか、そんなことより、どういう状況なんだ!?」

「オキセ、あの穴に飛び込みましょう。あそこに行けば分かる気がするわ!」

そう言うと少女はオキセの手を引いて穴の中へ飛び込んだ。

「まあ、思ったより深いわね。」

穴の下は垂直になっていて、底が見えなかった。

「え、ちょ、うわああああああ!」

オキセは思わずぎゅっと目を閉じた。やばい。本当に死ぬのか、俺。でも働かなくてよくなるならそれもありかなあ。



そう考えていると、ぽすっという音を立てて着地した。

地面を見ていると、たくさんの枯れ葉が敷き詰められていた。

「た……助かった。」

オキセが弾んだ呼吸を整えていると、少女は

「まあ、この葉っぱ、おもしろい形をしているわ!」

葉を見てみると、全て同じ長方形をしてあった。

よく見ると、葉っぱではなかった。シュレッダーのゴミであった。

「どういうことなんだ……。」

どうして小さな地面の穴のなかにシュレッダーのゴミが?というか、穴の中は結構広いけど何なんだ?

オキセがぽかんとしていると、少女は、

「あっちに門があるわ!行ってみましょう!元の大きさに戻れるかも!」

と叫んで駆け出した。

もう悩んでいても仕方がない。元に戻るには彼女に付いていくしかないのかもしれない。そう考えてオキセは後を追いかけた。



門の上には栄養ゼリーが置いてあった。銀色のパッケージの、吸うタイプのやつだ。ゼリーを見つめていると、ゼリーはどんどん大きくなっていって、とうとう人間くらいの大きさになった。しかも目や鼻までついていた。

少女はゼリーに話しかけた。

「まあ!あなたはだあれ?」

驚くことに(といってもオキセは先程から驚きすぎてもはやあまり驚いてはいなかった。)ゼリーは言葉で答えた。

「私かい?私は栄養ゼリーさ。」

「栄養ゼリー?門の上にいるべきじゃないわ。」

「いいじゃないか。それは私が決めることだ。生意気を言うとゼリーを食べさせてあげないぞ。」

「いいわ。私、ごろごろしたフルーツが入ったゼリーの方が好きだもの。」

少女がそう言うと栄養ゼリーは落ち込んだようだった。

「……私にもフルーツが入っていればなあ!」

その悲しみが何とも可哀想に思えてきて、

「お、俺は、栄養ゼリーも好きだぞ!」

とオキセは思わず叫んでしまった。

え、という顔で栄養ゼリーはオキセを見た。

「フルーツ味で美味しいし、ほどよく飲み応えのある食感も良い感じだし、何よりお手軽でありがたいし!。特にグレープ味が好きかな、ミネラル配合の。俺にとっては忙しい時の楽しいおやつだぞ!」

「ほ、本当か……?」

これは全くのオキセの本心であった。忙しいときに手軽に栄養と糖分がとれる栄養ゼリーは仕事の良いおともであった。

「ああ、本心だ!」

すると栄養ゼリーは身体を震わせて

「そ、そんなこと言われたのは始めてだ!感激する!」

と言い、どんどん身体を波打たせた。とうとう頭のキャップが外れ、中身のゼリーがどりゅっと溢れた。溢れても溢れてもゼリーは出続けた。

「おい…泣いているのか!?」

「まあ、これではゼリーの洪水になってしまうわ!」

確かに、どんどん水位(ゼリー位?)は上がっていき、オキセ達の膝まで来てしまった。

「お、おい!泣き止んでくれ!」

「おーん、気を遣ってくれているのかー!何て優しいんだー!!」

そう叫ぶと、栄養ゼリーはますますゼリーを出し始めた。

そして気がつくとオキセ達はゼリーの波に巻き込まれてしまった。

「うわああああああ!」

「きゃあああああ!」

少女は相変わらずどこか楽しそうであった。

やばい、おぼれる。オキセは目をぎゅっとつぶった。どこかに流されていく感じがした。



やがて身体の浮遊感が無くなった。どこかに到着したようであった。

おそるおそる目を開けてみると、そこは開けた原っぱであった。色とりどりの花が咲いており、絵本の世界のようであった。少し遠くでは白いものがちらちらしている。

よく見ると、紙が数十枚、竜巻をなして回っていた。何だか見覚えのある紙だった。目を凝らしてみると、最近まで取り組んでいた仕事の紙ばかりであった。年末調整と書かれた紙もあった。

「し、仕事の書類が何でここに…!?」

「あら?あれは仕事の紙なの?私にはウサギが跳ねているように見えるわ。」

そう言われ、オキセは目をこすってみた。すると、先程まで書類だと思っていたものは確かに白兎であった。大きな円を描いて楽しそうに跳ねている。

「まあ、楽しそう!私も混ぜてほしいわ。」

そして少女は兎の方へ駆け出した。すると兎はわっと逃げ出してしまった。

「待って、兎さん!」

少女は兎を走って追いかけ始めた。オキセも少女を追いかけ始めた。



「おや、何をしているのかね?」

聞き覚えのある声がした。おそるおそる顔を上げると、部長が立っていた。さっきまで原っぱを走っていたはずだったのに、気がつくと、何もない不思議な部屋へ来ていた。

「部長…!どうしてこちらへ?」

「それはこっちのセリフだ!仕事もせずにどうしてここで遊んでいるんだね?」

「し、仕事と言われましても……」

「ほら早く!」

オキセがとまどっていると、後ろから、

「まあ、怖い。あの人が敵の大将なのね。」

と、少女の声がした。

「て、敵って、失礼な!そんなことないぞ!部長失礼いたしました!!この少女は公園で出会った女の子でして……。」

「大丈夫よ。こんなに距離があるんだもの。聞こえてはいないわ。」

もう一度部長の方を見ると、部長は確かに遠くにいた。オキセ達がいる壁の端から見て、ちょうど部屋の反対側の壁にいた。

「さあ、早くあいつのところまで行って倒してきてよ。邪魔が入っちゃうわ。」

邪魔って何なんだよ、と思って見ていると、部長の前に横一列になっただるま達が現れた。会社の受け付けにいるやつだ。ぴょんぴょんと踊っていて楽しそうである。

「あ!近づいてくるわ!」

確かにだるまの何個かはころころと近付いて来ていた。かわいい。

「集まっているのもいるわ!」

残りのやつらは皆で集まって何か話し合っていた。

「近付いてきただるま達、色が変わっていくわ!」

ころころとやって来ただるま達は、オキセ達の近くまで来るとキラキラと金色に光り始めた。

金色になっただるま達は、「やったー!」と、高い声を上げてぴょんこぴょんこジャンプした。かわいい。


「あ……だるまに気を取られていたら、向こうの敵はすごい防御陣を組んでいるわ!」

部長の回りには見慣れた顔ぶれがいた。いつも嫌みを言ってくるお局さん。部長におべっかばかり使う同僚。顔は可愛いが仕事をしない部下……。部長グループの7人に囲まれており、部長は部屋の隅でにやにやとしていた。

「あれじゃあ近付けないよー。何とかしてよ、オキセ!」

そう言われても、あれではどうしようも無さそうだ。


戸惑っていると、部長の防御陣が叫び始めた。

「あんた、さっさと降伏しなさいよ!」

「部長にかなうはずないでしょう。」

「分をわきまえなよ、うけるww」

彼らの罵詈雑言を聞いていると、オキセは頭が痛くなってきた。会社での普段の彼らの言葉が重なって聞こえてきたのだ。

「あんた、そのくらいの仕事、さっさと終わらせなさいよ!」

「部長がそんな指示を出すはずないだろ!」

「ちょっと、やめときましょうよ、みじめになりますよ?w」

やめろ、やめてくれ!公園でのつらい気持ちがよみがえってきて、オキセは頭を押さえた。部長はというと、太った熊へと姿を変えて、皆に囲まれながら眠っていた。


すると、どこからかふわっと香水の甘い香りがしてきた。

「大丈夫ですよ。私も一緒に頑張りますから。」

ふと横を見ると、同じ会社の香月さんがいた。彼女はオキセと同じくらい遅くまで残業をする仲間であった。美人な彼女は社内でも人気で、それなのにオキセにも優しい言葉をかけてくれるのであった。

「オキセさんが頑張っていることは私には分かりますから。」

憧れの香月さんに励まされて、オキセは少し元気が出た。自分でも現金なやつだと思った。

「ありがとうございます!」

そしてオキセは考えた。何だかこの状況に見覚えがあったのだ。踊るだるま。金色。囲まれる部長。熊。香月さん。

「オキセ!煮詰まった時は周りをよーく見て!」

少女の声が聞こえてきた。はっとして部屋を見渡すと、床にはます目が書かれてあった。



そうか。

オキセははっとひらめいた。

将棋だ。色々とおかしいところはあるが、これは将棋なのだ。

踊るだるまは「ダンスの歩」。

金色になるのは成金だ。

部長は王でうちのアリスは玉。

熊になって囲まれているのは穴熊戦法。

香月さんは「香」だろう。

それじゃあ俺は……?


気がつくと、香月さんは分身し、縦一列に並んでいた。

そしてオキセには翼が生えていた。

俺は、飛車なのか。


「オキセ!早くあいつを倒して!」

「オキセさん!私を使ってください!」

2人に励まされ、オキセは頷いた。

そして香月の後ろに回り、

「部長!これが平社員のロケット戦法です!」

そう叫ぶと、オキセは自分の姿をロケットに変えて、部長のもとまで飛んでいったー。






「ちょっと!アリス!ここで何してるの!」

どこからか聞こえてきた女性の叫び声でオキセは目を覚ました。

「あれ、部長は……?」

オキセは公園のベンチで眠ってしまっていたのだった。膝には自己啓発本が開いてある。これを読みながら寝てしまっていたのだろうか。はっとして横を見ると、先程の少女もベンチで寝ていた。

「ほら、アリス!図書館の当番放って何しているの!この前もお客さんに失礼な態度をとるし。」

アリスと呼ばれた少女は目をこすって起きた。

「私、おじさんの夢にいて……。」

「あんたまた勝手に人の夢に入って……すみません、うちのアリスが能力を使ったみたいで。あ、私達、図書館で暮らす『名作』でして……。」

そう言うと女性は名刺をオキセに渡した。そして、

「ほらアリス!帰るよ!」

と、ぐずるアリスの手を引いて歩き出した。

「まあ。もう帰るだなんて……そうだ、オキセ!あなたの夢、なかなか楽しかったわよ!」

アリスはオキセに叫んで消えていった。

オキセはぽかんとして彼らの消えた方を見つめた。何だか家に帰る元気は出てきた気がする。


そして、膝の上の本を閉じた。

彼らは図書館の名作、と言っていたっけ。たまには図書館で小説でも借りてみるかな。

「ふしぎの国のアリス・鏡の国のアリス」

能力:人の夢の中に入ることができる。


今回の夢の内容は結構アリスの原作ともリンクしています。

気がついた方は是非コメントください!



※閲覧ありがとうございます!




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