とても反省しました
「……」
食堂窓側にあるカウチの上で一人の男が項垂れていた。
それはもう周りに居る使用人達が頭を抱える程に。
意を決して近付いて来た使用人が主人の肩を叩くと、僅かに肩を揺らす。
「……旦那様、料理長から料理をお出しして良いかどうかと」
「……ああ」
「ミヤ様の分はアネッサが部屋へお持ちする様ですが、旦那様はどうされますか?」
「執務室で、食べる」
「かしこまりました、ご用意して参りますので」
苦笑する使用人を見送ってから、痛む心臓に手を置いた。
主体性無さすぎ。責任感無さすぎ。
その言葉に、礼儀やなんだと小さな事なのだと理解した。
あの子の言う言葉に痛い程痛感させられたと言えば甘いだろうか。
しかし、言われて初めて自覚したのだ。
考えが余りにも甘かった。
彼女の気持ちを思うなら、確かに変なプライドや見栄を出す意味は無かった。
あの子に貴族の挨拶を行う必要も無かった。
ただ名前を名乗って謝罪するべきだったのだ。
自らの愚かさに気が狂いそうだ。
あの子の口調から、精一杯の虚勢だと気付いたのは部屋を出たあとの事。
震えていた背中とそれを察して隠そうとしていたアネッサの立ち位置。
取り返しのつかない事をしたと、彼女達が立ち去ってから気付くのは……本当に、僕と言う奴はどうしようもない。
「……オーランド」
「なんだ」
「彼女、泣いてるのかな」
「どうかな、そうだとするのならお前が泣かせたんだろう」
「うっ」
心臓が音を立てて絞られている感覚。
辛い、しんどい…でも彼女はきっと僕以上に辛い思いでこの数日を過ごしていたのだろう。
「どうすれば良いんだろうオーランド……」
「さあ?俺はしがない執事ですので」
「オーランドぉぉ」
「男らしく決断なさって下さい、旦那様。
ミヤ様の言葉を借りるなら、どうしたら彼女の機嫌が直るのか悩み尽くせバァーーカ、ですね」
「酷いよオーランドぉぉ……」
しくしくと涙を流しながら、自分の情けなさと向かい合う。
まずは謝罪を、間を置くときっと彼女をもっと不安にさせてしまうだろう。
そして身元の保証を、この家で暮らす為の身分をと考えた所で彼女の意思の確認が必要なのだと思ったからだ。
幸いにも暮らせる為の家も部屋も余りある上、自分は屋敷に籠りきりの研究職。
地位も名誉も持っていて良かったと昔の自分に進言してくれたオーランドに再度感謝した。
「けれど、もし彼女が拒否したらどうしよう…もう一度あちらの世界へ干渉出来るか試して……いやいや!ダメだ、不安定要素が多過ぎるし、まずは彼女の不安を無くす事を考えなくちゃ!!
それに没頭する余りまた彼女を放置する未来が見えるよ!!」
ブンブン頭を振りながら、先程怒って去って行った彼女の事を考えた。
「……ごめんなさい」
小さく呟いた言葉を、壁に控えた使用人達は聞かないふりをしてくれた。