思った以上に楽でした
「……んぐぅ」
朝起きて、アネッサが来るまでの間に窓を開けて外を見上げる。
そんなクセが付いて来たなと自覚した。
今日も窓の外には見事な庭園で大切に育てられている花々が朝露を浴びてこちらを見上げている。
そんな花を見下ろしながらも「今日が来たか」と小さな呟きを風に乗せた。
今日の昼、待たせに待たせた蒼の人とのお昼ご飯。
実は何度かアネッサが話しに来た蒼の人を追い返していると聞いて、少しは気にしてくれて居るのかな?と好感を持った。
けれど本来大人なら、私を召喚したその時点で召喚出来てしまった興奮は飲み込んでまず謝罪するだろと冷静な部分で判断を下した。
その結果あの蒼の人はまだ油断ならないと決めたのだ。
「……ミヤ様?おはようございます」
「おはようアネッサ」
返事を聞いてから扉を開けると「またそのような薄着で…お風邪ぶり返しますよ?」と頬を膨らませた。
「大丈夫、ほら…アネッサに貰ったカーディガン着ているもの」
「あら」
まあまあと近付いて来たアネッサが、丈や袖、肩周りを正しながら「良くお似合いですわ」と喜んだ。
「とても暖かくて肌触りも良いから気に入っちゃった」
「それは…良かったですわ」
「コレ着てたら窓開けてても良いよね?」
「長い時間はいけませんよ、また風邪を引いてしまいますから」
「うん」
返事をしながら、アネッサは部屋の奥にあるドレスルームに向かう。
既に何度か見せて貰ったけど、蒼の人が徐々に増やしている様でドレスやワンピースが増えて来た。
昨日の段階で溢れた中からフリフリのドレス見付けた時の私を見て、アネッサは冷静にドレスルームの中にあったフリフリのレースやリボンだらけの布だけを排除。
シンプルなワンピースや装飾の少ない物だけを残してくれた。
多分新しく買ったのであろうそれらを私が「要らない」とは中々言えなかったので、そう言う意味でもアネッサは頼れる人だった。
「今日はどうしましょうね、せっかく旦那様とお話しになるのですから…ワンピースに致しましょうか」
「……」
「ドレスを選ばないだけ褒めて下さいな」
「うん、アネッサには本当にお世話になってる。
でも私ドレスはちょっとね…私の居た世界でドレスは結婚の時だけ。
しかもその結婚式に参列する時だけに着る苦行だったのよ」
「本来ドレスは女性としての魅力を引き出すとても素敵なものなのですよ。
流行り廃りは有りますが、ここにあるドレスはどれも1級品。
シンプルながらも刺繍や素材が長く愛されている物で作られた物ですし、何より私がミヤ様に似合うと思って残しているものですもの」
むむっと眉を寄せると「こちらのドレスから選ばせて頂いてもよろしいですか?」と言うので、嬉しい気持ちもあったので静かに頷いた。
ドレスは、思った以上に楽なモノだと知った。
好き嫌いと前の世界でのドレスとの違いは明らかで、見知った知識でコルセットガチガチに巻く!!ってよりもゴムでウエストを絞めるくらい。
素材もとても軽くて、普通のワンピース等よりも締め付けが無くてとても楽だ。
「……如何です?キツイところはありますか?」
「全然無い、めちゃくちゃ楽…」
「それは良かった!
ミヤ様の黒髪にはやはり柔らかな色合いも似合うだろうなと思いまして、パステルカラーのイエローの配色や繊細な葉の刺繍もあるそちらを選んだんです。
気に入って頂けたのなら嬉しいです!」
「アネッサのセンス良過ぎる…貰ったカーディガンとも相性バッチリだもんね!」
そう言ってカーディガンを羽織ると、深い笑みで持って「昼食が楽しみですね」と言う。
私としては億劫なその時間を思い出して「そうだったね」とまた溜め息を吐き出すのだった。