風邪引きました
結局、空が白白と明けてくるまでを見て風邪を引いてしまいました。
「……あの、ごめんなさい」
「いいえこちらこそ……もっとお嬢様の心情に寄り添うべきでした、私の方こそ申し訳ございません」
赤い髪のメイドさん、もといアネッサがおでこによく絞ったタオルを乗せてくれた。
朝焼けを見ながらくしゃみしていると部屋をノックされたので扉まで出ると、驚き顔でアネッサが居て、本来は誰か確認してから扉の外の人間が扉を開けるのだと後から聞いた。
そして私の薄着と窓が開いて居る事、そして先程から止まらないくしゃみから大慌てでベッドに戻され、アネッサに連れてこられたロマンスグレーのおじさまから「風邪ですね」と苦笑されて今に至る。
「旦那様にはもっとキツく言っておきますので、どうか先ずはお身体ご自愛下さいませ」
「……ええと、私お嬢様でも無いし、アネッサさんは私の事情知ってるんだよね?
それならもっと砕けた話し方にして欲しいな……って、だめ?」
堅苦しいのは性に合わない、それに彼女が責任を感じる必要は全く無いのだ。
寒いと感じていたクセにブランケットのみを装備していた私がどう考えても悪いし。
申し訳なさそうにしていたアネッサは「…では、お名前を伺っても?」と控えめに申し出るので「ミヤだよ」と返す。
「ではミヤ様、私の事はアネッサとお呼び下さい。
この屋敷に仕えるメイドとして、今後はミヤ様付きとして。
貴女の生活を支える者として、どうぞよろしくお願い致します」
「……うん、よろしくお願いします、アネッサ」
メイドとお客さんの距離感はまだ把握出来ないけれど、彼女は少なくとも私に真剣に寄り添ってくれそうだ。
私は大人しくアネッサにされるがまま、ゆっくり療養する事に決めた。
アネッサ経由で昨日の蒼い人にはまだ会えないと伝えて貰って、私は昼までを寝て過ごした。
馬鹿みたいに広いベッドには暑いくらいにフワフワのお布団が敷いてあって、タオルケットだけで十分だよと言うも「風邪の時は熱が出て汗をかくので、その汗が身体を冷やしてしまうのですよ」とアネッサに言い含められてしまった。
そうなんだよね、風邪って確かにそうだわとボーッとして来た熱に文句を言う。
しかしアネッサは私の様子を逐一観察しながら「身体起こしましょうか」とか「喉が痛いですか?果物を持って来ましたよ」など、完璧過ぎる看病に涙が出そうになる。
身体が弱ってる時って誰かに無性に甘えたくなる事があるけれど、今までずっと1人だったから誰にも頼る事は出来なくて…もしかしたらずっと、私は誰かに頼りたかったのかもしれないと気付かされて少し恥ずかしくて、自分で身体を起こそうとすると「頼って下さいね」と暖かい眼差しでそう言われて、やっぱり辛いので素直にアネッサに身を委ねた。
言い方はおかしいかもしれないけど、風邪を引いて良かったのかもしれない。
変に達観した考え方を持つ私は誰にも頼らずに生きて行けると思っていた。
でもそれは寂しい事かもしれないと気付かされた。
不安もあったし懸念も、置いて来た子供達の心配もあったけれど、今はまず自分の身体を労わろう。
その先の事はその時に考える事にした。