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カーニバルの後は哀愁が漂うよね

 何をどうやっても、処刑をされて死に転生をして、その先でも死の運命の輪から抜け出せず、繰り返した転生。


 今朝の夢はその内のいつかの記録。


 しかし、この度の転生はその輪からは外れた。


 何がどうあっても断罪は決行される。それは変えられない。だが、その結果は変えられた。


 磔刑に処され、火を付けられたけれど、氷と水属性の精霊術のおかげで熱くも痛くも痒くもなかった。


 火は足台とそこに組まれた木やら藁から燃えて私を磔ている柱にも燃え上がって来た。


 幻影、幻惑、更に追加で幻想の精霊術を使って私の身体に火が移り、燃え上り、藻掻く様、断末魔を見せ、聞かせていった。幻惑では人体が焼ける臭いが周囲に広がっているように感じただろう。


 焼け崩れ落ちる柱と丸焦げ、炭化した私の焼死体が崩れていく様が幻想的に美しく民衆には見えていることだろう。泣き崩れ、私を救えなかったと嘆く、両親と、私を救い出そうと最期まで抗い、目の前で己の主を救えなかった仲間の姿はさぞかし憐れで、感動的な姿であっただろうか。


 さらに追加の術が発動。風が吹き、私の灰は白百合の花びらと成り、風に舞い上がり、骨と灰は一羽の白き焔を纏う鳥と成り蒼穹に翼を広げて飛び立つ。


 白き鳥が羽ばたくと火の粉が舞い落ちる。人々に降りかかり、人々を責める炎となると思われた火の粉は純白の羽根となって民衆の下に舞い落ちる。


 私を嵌めた者たちの下にも。


 人々はなんと愚かなことをしてしまったのだろうかと嘆き、羽根を手にした。


 人々は羽根を胸元に懐き、私がこの国の聖母だったのだと、悔やんだ。


 そして私を嵌めた者たちが純白の羽根を手にすると、たちまち禍々しい澱み濁った黒き羽根へとかわった。


 そう。皇太子の新たな婚約である聖女の触れた羽根も、皇太子が払った羽根も、愉快な仲間たちが踏み躙る羽根も澱みきった穢れた黒に染まった。


 それに焦ったのは聖女擁する皇太子の愉快な仲間たちと、その神輿を担ぐ次代を担う若者貴族とその貴族家(ロマンチスト)たち。皇族――皇帝と皇后。そしてペテン師たち――皇后の派閥と生家の侯爵家と連なる貴族家とその派閥の者たちだ。


 彼らは羽根を振り払う。それでも払い切れずに彼らに触れた羽根は――


「瘴気を妊み、ドス黒く染まり、聖女が『私こそがこの国の聖母にふさわしいのよっ!!』と叫んだ瞬間、あの女から禍々しい鳥が生まれ、嗤っていたそうですよ」


「あら? それは大変じゃない?」


「大変なんてものでは無かったのですよ? 羽根は魔モノとなって顕現しますし、それを見た民衆は阿鼻叫喚。我先にと逃げるものと、逃げる人に押され倒れたところを他人に踏まれ、怒号と暴力で血祭り(カーニバル)は最高潮に達し、盛り上がっていましたよ」


「アハハハ。盛り上がって何よりじゃない。それこそ聖女様と皇太子様の愛の力と仲間たちと育んだ絆の力と努力の結晶である聖なる魔法で解決したのでしょうね」


「カーニバルの後始末が大変だと私には感じました」


「失敗? まさかのイベント不発? なにそれ! なんの冗談なのよ。聖女がイベント不発させてどうするのよ。アハハハ。可笑しい。嗤えるのだけれど?」


「ソーナ様。そのように声に出して嗤ってはしたないですよ」


「これが嗤わずにいられるというの? アリシア。あれだけ大々的に真実の愛と絆と勇気と希望と運命と、その力の発現である大聖女の魔法を匂わせておいて不発は無いでしょう」


「それには同感ではありますが。そんな些末なことより、私が今一番大切なことはソーナ様を今日も、いえ、昨日よりも美しくすることです!!」


「ふふ。そうね」


 鏡台の前に空けられた椅子に座る。


 これが私の新たなる一日の始まりだ。

 

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