表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/16

幕間

 寒い、冷たい、痛い……。


 身体は強張り動かない。丸まっていないと今有る熱さえも失ってしまう。だから丸まりきつく身体を絞める。


 霊峰は雪と氷に鎖され、足場は雪と氷の下に亀裂が隠れていて、落ちれば命は助からない。万が一にでも運良く助かったとしても、底から這い上がることは出来ないということは理解出来る。


 魔力量、魔力強化、魔力制御、そして極寒の地で過酷な環境になれること、長き旅に耐えうる身体と精神、体力を育むこと、それら総て七つの大罪と眷属を消滅させる為、世界を救う戦いの為に。


 装備は旅人の服と棍棒に鍋の蓋。は? 何考えてるの? 旅は現地調達が基本? 皇城や皇族からの支援はなし? は? 訳が解らない。 は? 実績がないから? 魔法士なら旅人の服でも凌げる? そんな馬鹿な!


 一年以内に結果を出せ? そんなのは無理。

 だってあいつ等、権力無くなったら顔だけしか残って無いって奴らだもん。


 脳筋の役立たず。非常時には何の役にも立たない歌を唄うしか出来ないヒョロヒョロ。サバイバルなんて出来ない陰キャ。廃嫡された能無し。顔とイケボの浮気野郎。


 はぁ、イケメン、イケボの白馬の皇太子を、あの女から奪って破滅させたって言うのに、皇位継承権剥奪、廃嫡、私と恋愛結婚したければ民間落ちして好きに結ばれるが良いって放逐された。クソがっ! せっかく皇太子妃になれる、優雅で裕福で下々の者たちを扱き使って楽が出来るって思ってたのにアテが外れた。


 金も地位もない、顔と声だけしか取り柄のない浮気野郎なんて要らんが。


 それもこれも悪役令嬢ソーナのせいだ。何であの女、ゲームと違ってんのよ。作り物のナレ死するだけの存在なんだから、潔くシナリオに従って私の踏み台になりなさいよね!! まったく忌々しい。


 あ゛あ゛っ!! 思い出しただけでイライラすんなぁもうっ!!


『真実の愛? その様な不確かなものでこの国の母が務まるとでも?』


『その為の妃教育は甘ったれた貴女には厳しいのではなくて? 耐えられますか?』


 あの女が言った通りだった。あんなもん耐えられるか!!


 もっと何でも自分の思い通りに好きに出来ると夢見ていた。アルフォンスだって古臭い伝統は廃止すると言っていたのに出来なかったし!!


 自国の文化、歴史、名産、有名所、法だけじゃなく、他国のものも覚えなきゃいけないなんて聞いてないって!!


『フォーリア様のご実家はいったい幾ら結納金を持参できるのかしら? 有事の際に国の為に派遣出来る戦力と補給物資、支援物資、復興支援の一団―― 技術者、医師、衣食住、救助、瓦礫撤去の人材派遣は出来て?』


『聖女と言われましても、実績がございませんもの。魔力で魔物を斃す、など駆け出しの冒険者にも出来てよ? 聖女と名乗るのなら、せめて“深淵の闇”と戦い、浄化してから名乗ってくれませんか?』


『アルフォンス殿下とフォーリア様は“真実の愛”とおっしゃいますが、果たしてアルフォンス殿下がそれを何時までも守り、違えない、という保証はありませんのよ? 私との婚約は云わばこの国との約束事。誓いですわ。それすらも守れず宣誓の言葉を違え、裏切る行為。ならば、フォーリア様よりも秀でた女性が現れたら、“真実の愛”とやらで貴女のことが疎ましくなって、あっさりと使い捨てられるかもしれないでしょう?』


『私を排除したところで、貴女が、貴女のご実家が先述のものを全て用意出来なければ、それを用意出来る貴女ではない、他の令嬢が貴女を排除なさろうとしますわよ』


『アルフォンス殿下が王位継承権を捨て、何者でもない民になられるのであれば、その崇高なる“真実の愛”を貫くことが出来ますわよ? アルフォンス殿下にそれ程の覚悟がお有りであるならば、ですが?』


『フォーリア様が御役目で離れている時、アルフォンス殿下は貴女たち夫婦のベッドの上で別の女を抱いているかも知れなくてよ? フォーリア様は耐えられますか? あ、廃嫡され元愚弟を頼ろうとも無駄ですわよ? 彼、また商売に失敗したみたいですから。騎士団は落ち目で安月給。神童も今や凡人の歌い手。偽りの教えを広めた男の息子。聖女フォーリア様のガーディアンと言っても彼らも実績は皆無ですから……』


『これだけの不利を覆す御活躍、期待していますわよ』


『ですから国民の皆様、彼らに期待して下さい。応援してあげてくださいね』


 貴族と言っても端っこに引っ掛かる風が吹けば飛ぶような、あんな家が嫌だったから、ハーレムルートを苦労して目指したっていうのに!!


 そうすればあの女が言っていた金も武力も権力も名声も全部手に入れられていたって言うのに!!


 それがチェンジリングで廃嫡? 無一文? 弱くて役に立たないから削減に降格処分? 所詮はストリートでドヤる歌ってみたとかピアノ引いてみたとかと一緒だったじゃん。聖女って教皇よりも上だって思ってたのに偽の宗教で人々を騙して金を搾取してたってなんなのよ!! 巫山戯んな!!

 

「なにやってんのよ。寒いじゃない!! あんたには火くらいしか取り柄ないんだから、ちゃんと火の番してなさいよ!!」


 ウトウトしているレイフォンを蹴り起こす。


「アヴェル! 何で此処に居るのよ。アンタは体力と剣しか残されてない脳筋なんだから山中走り回ってさっさと食料探して持ってきてよ!!」


 獲物一匹見付けられないなんて本当に使えない。


「落ち着け? はぁ? アンタのしょーもない歌なんて聞きたくないわよ。腹も膨れないし、聞いたからって生活費が湧き出るわけでもないし、歌なんてなんの役にもたたないじゃん。その能天気さに余計にイライラすんのよ!! ばかじゃないの」


 その口に雪を突っ込む。腹でも下せ!!


「あんたもずっとウジウジウジウジ鬱陶しいのよ!! そんなもん読んだって祈ったって意味ないのよ。そんなの読む暇があったらさっさと女神を喚びなさいよ!!」


 教典をレイフォンが火を維持する薪に焚べる。


「ねぇ、アル、貴方、私を必ず幸せにするって言ったじゃない!! 約束守ってよ!! 今すぐ皇城に行って異議を唱えて私を妃にしてよ!!」


 本当に肝心な時に役に立たない男。権力も財布としても価値の無くなった男ってホントだめ。顔だけのヒモ。言い訳バッカリのプライドだけのクズね。


 こうなったら、この左腕に封じられた黒炎のフェニックスの力を開放して私が聖女だって証明して返り咲いてやる!!



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ