勝てるものなら、戦ってみな
「…………」
アスラン王子扮する商人――イグリーラスは、とある玩具の前で固まっていた。
「イグリーラス様、これは……」
「アズライト教の教会と総本山と教都を一瞬の内に爆炎で地獄に変えた鋼鉄の飛竜……」
子供たちとレースをして游んでいた、いや遊んでもらっていたイグリーラスと部下のハサンは飛竜機――戦闘機の模型を目の前にして戦慄している。
「此方は私たちの国を護って下さる空軍と航空自衛隊の主力戦闘機の模型なんですよ。飛竜機のパイロット―― 操縦士は子供たちの憧れの職業でもあるんです」
「いや、レーナさん、軍事機密なのではありませんか?」
「模型ですから、外側だけではどういった理屈で鋼鉄の飛竜が飛んでいるのか私たち市民には解りませんから……。それを学べるのは訓練校だけで、その中でも整備士になる者だけが、その構造を知ることが出来るそうです。その訓練生も資格を獲るまでは訓練校の寄宿舎暮らしで、正式に軍や自衛隊に所属しても厳しい誓約と罰則が課されます。確か外部に漏洩させようものなら誓約の精霊術で記憶が白紙化されて、自分が何者かも判らなくなるとか……」
――そういえば何人か居たなぁ……。
彼等は良い殿兵か先駆逐隊に成ってくれていることだろう。
「魔法や弓、槍、剣では届かない遥か上空からの爆撃……」
「それを知っていても、気合と根性で墜とそうと国民に訓練を課している国もあると冒険者の方や旅行者、商人が語っていました」
「そう……ですね……」
「桶に水を汲んで火にかける防火訓練もしているが……、総本山の教会を土台だけ遺して、都をも呑み込み壊滅させた終焉を齎す矢の炎だけは、無理だ」
まぁ一瞬で人も残さないからね。私に喧嘩を売るのが悪い。
反抗、反攻など考えつかない様に徹底的に心を折るのは当たり前だ。
あれで万年雪の霊峰の雪が雪崩を起こして、あの都は雪の下だ。
土台だけが教会総本山の都があった証だ。
「……」
何やら思考の海に潜り始めたアスランにかわり、付き人であり護衛のサハンに別れを告げて、私たち姉妹はウインドウショッピングを再開させた。