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幕間

 熱、咳、身体の痛み、倦怠感、食欲も無く、私はベッドで天蓋を見つめる。


 我が唯一の息子アルフォンスの王位継承権剥奪、王籍からの廃籍。臣民降下。もしくは継承権剥奪後、離宮にて永久謹慎と言う名の島流が言い渡された。


 しかし離宮にて永久に謹慎などという温情は与えられない。あれほど諌め、改心するようにと注意を諭したにも関わらず、息子はフォーリアを寵愛し、冤罪でハーティリア公国の姫を火刑に処してしまった。


 ソーナ・ラピスラズリ・ハーティリア。インペルーニア侯爵とは政敵の関係であり、憎き女セシリアの娘。


 それらを知っているはずのソーナは私を義母ははとして敬い慕ってくれたのだ。そのうちに私の頑なで醜き心も絆された。


 后教育も良く励み、時には伝統の歪みを正していた。伝統を盲目的に信じる教師が小言を言ってきたが、私にはソーナを我が義娘を咎める気はなかった。

 義娘は聡明で思慮深く、時に大胆に華やかに動いて利を齎す。そのような義娘だった。


 アルフォンスに足りないものを補い、支えになってくれると期待した。


 しかし、裏切られた。


 アルフォンスに。


 アルフォンスは衝動的に動き、自らを否定しない者たちの甘言に乗り、愚行を繰り返し、義娘に諌められては逆上し暴言を浴びせていた。


 それに嫌気をさし、学習も疎かになり、帝王学だけではなく、学園の成績も下がり、クラスも落ちていく一方だった。


 それでもアルフォンスを立てようと義娘は一歩下がり良く支える努力をしてくれた。


 ――インペルーニアの終焉の始まりは……そう――


 日輪国からの遣いを歓迎する宴では、相手を心からもてなし、遠い日輪国を思わせる料理を出し、サクヤ妃には日輪国風のドレスを献上し、お誉めの言葉を賜っていた。


 そして、セシリアの纏っていたドレス。流行の流れだけに追従するだけではなく、個人に似合うドレス作り。


 女騎士や女の軍人は流行のドレスが似合っておらず、何時も嘲笑と憐憫の対象であった。

 しかし、セシリアのドレスが広まり、個人に似合うドレスが作られだしてからは違った。


 それらを纏った女騎士や軍人は生命力に溢れ、輝かんばかりの健康美は見る殿方を魅了した。


 己が優位性を見せ付けるだけに腐心したインペルーニアは完全に時代に置き去りにされた。


 それを決定付けたのがあの魅惑的な氷菓。他国の王侯貴族はもちろん、ローゼンクォーツ皇国の王侯貴族さえも口にしたことが無い氷菓。それを手に入れようとハーティリア公爵と交渉する者があとを絶たなかったが、その誰もが『一国を支払うと言うのならば考えましょう。アレはそういった価値があるものなのです。私どもは贔屓にしている商人が偶然手に入れ、娘に贈り、娘が香油を精製することに成功させたもの。漸く栽培も上手くいったものをなのです』


 ――一国の主が独占をするほどのもの……。あぁ、あの氷菓を今一度味わってみたい……。


 アルフォンスたちが事業の邪魔をする為に店を出せないと言っていた。


『皇族がアレを使った氷菓を売り出せば、他国へと力を見せつけることが出来るのですが……』


 あの娘をトップにすればなどと馬鹿なことを。ソーナにしてみれば敵対派閥の者が経営を乗っ取ると言われているようなもの。利益だけを得て美味しい所だけ持っていく。許せないことだ。


 計画しては立ち消え、いくつもの我が国の為になることが潰えた。


 ハーティリア公爵領はローゼンクォーツを大きく上回るほどに栄えた。ローゼンクォーツには目新しいものはなく、代わり映えのしない見るべきものが何も無い、と廃れ始め、ハーティリアの支えなくば国として立てない有様だった。


 ――盟約の破棄によってその支援も打切られ、敵対国と認定された。許可無くハーティリア公国の国境を越えたものは老若男女問わず捕まっている。


 不法入国と言うらしい。パスポートという入国許可証が無いと入れないという。以前は入領審査と検査、紹介状で通れたけれど、どの国の王侯貴族であれ、商人、旅行者、旅人、冒険者でもパスポートが無ければ入国出来ない。


 普通ならばそのような面倒事、と忌避するようになるのだが、その様子もない。


 面倒事を受け入れて手続きをしてでも訪れたい、貿易がしたい国なのだ。


 そしてそれを受け入れさせるだけの説得力があった。


 姉に嫉妬し、愚行を続け廃嫡された愚か者が騎士団を差し向け、捕らえさせ、見世物にした、という出来事が。それが寃罪なのだから余計に説得力を持たせた。


 誰もがハーティリア公爵の心を汲んだのだ。


 ――私も国母から滅亡の皇子を産んだ皇后と歴史に名を刻むのですね……。


 終わりは悲しくは無い。義娘は寃罪で生きたまま身体を炎に焼かれたのだ。私は私の終わりを嘆くことは許されない。


 

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