096 In my heart
正直、疑問はあった。
疑問はあったのだが、しかし、それを拒否することの損害が試算出来なかった僕は、大人しく従うことにする。
教員の教科書に書かれた指導の目的と意図については、児童の集中を切らさないで、効率よく学習させる方法論みたいなことが書かれていた。
当初、この内容だけで判断しようとしていたので、無駄、抵抗感、反感と、マイナスな印象を抱いたのだが、冷静に考えれば、エルの体になれるチャンスかも知れないという考えも湧き出てきたのである。
つまり、きっかけとなる指導の意図とは異なるが、振り付けや、それに合わせて歌うことで、もっと自然に、意識することなくエルの体を扱えるのではないかと思ったのだ。
……まあ、実際は見たいという欲望で、お遊戯をさせられることに何らかの意味を見いだしたいだけなのだが、それを考えると虚しくなるので、ここは僕の胸の中に封印しようと思う。
『……レンタさん』
エルやヤヤ、永田さん達に後々伝わることは今は忘れるつもりなのだ。
『……』
変にエルに気を遣わせてしまったのは申し訳ないが、エルが言葉をなくしてしまったことを感じ取っていることに、気持ちが少しワクワクしている。
若干現実逃避している自覚はあるが、考えを深めずに、面白いなぁでと止めることにした。
こんな思考も全部エルには把握されるし、彼女の沈黙が深くなってしまうので、彼女の精神育成にも良くないなと自分を改めて戒める。
が……残念なことに、お遊戯に抵抗があるので、この思考の連鎖は止まりそうになかった。
『もっっと、えがおっだよっ!! こう!!』
モニターに大写しになっている陽菜ちゃんが、全力で振り付けに輝かんばかりの笑顔を重ねて熱い指導を飛ばしていた。
陽菜ちゃんに無駄に熱が入っているのは、概ねサマエルの顔が無表情だからである。
気持ちの上ではウンザリしているが、それすらも表情に出ていなかった。
お陰で陽菜ちゃんは怒ってはいないんだけど、その陽菜ちゃんからお許しを貰うためには、笑顔を意識しないといけない。
こんなところで、人間の体と機械の体の違いを感じていると、視界の端にサムズアップを決めたヤヤを模したデフォルメキャラのイラストが表示された。
「え?」
思わず訳がわからないという感情が乗った声を放つと、直ぐに得るが答えをくれる。
『マスターが『いいね!』をしている……ということのようです』
エルの言葉に、スマホでおなじみのグループコミニュケーションに使われるアプリのスタンプ機能が思い浮かんだ。
どうやらそれで間違ってなかったらしく、エルが直ぐに肯定してくれる。
『その認識であってると思います』
ヤヤのことだから覚えたことを早速活用、引用したがったんだろうなぁと想像すると妙におかしくなって、僕は気付けば笑っていた。
すると、興奮気味な陽菜ちゃんの声が飛んでくる。
『いいね! 良いよ、その笑顔、サマエルちゃんその笑顔を心掛けてっ!!!』
その言葉に、僕が無意識にエルの体で笑っていた事実に気が付いた。




