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008 名前

 女の子は僕の態度がツボに入ったらしく、コロコロと笑い続けていて、ロボは微動だにしない、となると、行動を起こすのは必然と決まってくる。

 自分から動くしかないかなと思って、女の子に声を掛けようとした僕は、言葉に詰まった。

「それで……えっと……」

 何か言おうとして戸惑っている僕の様子に、何かを察したらしい女の子は笑うのを辞めて、パチクリと大きな目を瞬かせた後で、ポンと手をたたき合わせる。

「あ、名乗ってなかったね、そういえば」

 声を掛けようとして、言葉に詰まった理由、彼女の名前を聞いていないという事なんだけど、改めて、女の子側から触れられたことで、僕は変に緊張してしまった。

 緊張で硬くなる体を認識した僕は、名前を聞くなんて普通のことだと言い聞かせるように頭の中で繰り返す。

 けど、ほぐれるはずの体は余計カチカチに固まっていくという完全な逆効果に、想定外で僕は一人パニックに陥りかけた。

 だというのに、女の子が口を開こうとした瞬間、僕の直前までは何だったのかと言うぐらい、その口元に瞬間的に意識は向かう。

 バレたら恥ずかしさで死にそうなくらいにわかりやすい自分の意識の向き方に、呆れの混じった思いを抱きながらも、女の子の名前に対する興味が絶えないせいで、自分の現状を改めることは出来なかった。

 そんな僕の内面をどれほど掴んでいるのかわからないけれど、女の子はフッと息を吐き出してから、自分の胸に手を当てる。

「ヤヤ・ウエ……え-と、そうね、上野ヤヤよ、レンタ」

 女の子のどこか奇妙な言い回しに、僕は気付かずに何か半のをしたみたいだ。

 少なくとも、ヤヤと名乗った女の子から見ると明らかだったんだろう。

 その証拠に、これまで泰然としていたヤヤが少し慌てた様子で、間を置くことなく、説明を付け足した。

「あー、実はこの国の名乗りになれてないのよ。この国ではファミリーネームから名乗るのでしょう?」

「えっと、この国って、ヤヤ……さんはこの国の人じゃないの?」

 ヤヤの言葉に、僕は何も考えず、そう尋ねる。

 対してヤヤは顎に右手の人差し指を当てて少し考えるような素振りを見せつつ答えを返してきた。

「今、この国にで暮らしているけど、正直自分の出身国はよくわからないの。人種としてはレンタに近いと思うけどね」

 内容は答えになっているようでなっていない気がするけど、それよりもさらっと言い放たれた自分の出身国もわからないという言葉に、僕は思いがけずショックを受けていたことに気が付く。

 どうしたら良いのかわからずに、動揺する僕に対して、ヤヤは苦笑染みた表情を浮かべて見せた。

「レンタは生まれとか気にする人?」

 表情はそれほど変わっていないと思う。

 でも、ヤヤの発した質問には、不安とか、もの悲しさとか、コレまでのノリとはまるで違う影のようなものが漂っていた。

 だからだろうか、僕はヤヤの表情をこれ以上曇らせたくなくて、その思いだけで何も考えずに断言してしまう。

「いや、全然気にならない」

 もちろん、そんなことはなかった。

 ヤヤが出身国も知らないことも気になれば、今はこの国に住んでいると言ったけど、その前のことだって気になる。

 けど、そこを深掘りするよりも、ヤヤにノリを取り戻して欲しくて、僕は好奇心をもんだ生むようで切り捨てたのだ。

 そんな僕の行動は見事功を奏する。

 ヤヤは胸に手を当てて、ホッと息を吐き出すと、先ほどまでと変わらない軽やかな笑みを浮かべて見せた。

「良かった。レンタがそういう事を気にする人じゃなくて」

修正報告

2021.05.18

前:パチクリと大木の目を

後:パチクリと大きな目を


前:何か半のをした

後:何か反応をした


前:この国にで暮らしているけど

後:この国で暮らしているけど


前:上野ヤヤよ、レンタ君

後:上野ヤヤよ、レンタ


前:ヤヤは苦笑染みた表情を

後:ヤヤは苦笑じみた表情を


前:その前だった気になる。

後:その前のことだって気になる。


前:僕は好奇心をもんだ生むようで

後:僕は好奇心を問答無用で

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ちょっとさすがに話数あたりの物語の進行が遅すぎる感じがして、物語の続きが気になりつつも読むのがちょっと億劫になってきてしまぅているので、更新頻度多少下がったとしても1話あたりの内容量を…
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