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005 反射

「誰、君?」

 僕が直ぐにそう尋ねることが出来たのは、今の自分の置かれた状況が異常だったからだと思う。

 そうじゃなかったら、目の前の女の子に質問を投げるなんて、出来なかった。

 だって、何しろ、今まで出会ってきたどんな女の子よりも綺麗で、普通にあったなら声も掛けられないと僕は断言出来る。

 それほどまでに凄かった。

 手足は白くて細長いし、髪は長くて黒くてキラキラしてて、その髪に包まれるようにして存在する女の子の顔はとてつもなく整っている。

 しかも、かなりの小顔だ。

 クラスの女子の会話に、モデルさんや芸能人の小顔に対する憧れを聞いた記憶があるけど、素直に、憧れるのがわかる。

 普通に目の前の女の子が雑誌のグラビアに出てても、テレビで歌ってても違和感はない……というよりも、腑に落ちるんだろうなと……。

 そんな風に僕が思考を巡らせていると、いつの間にか息の掛かりそうな距離に接近していた彼女の顔があった。

「ねぇ、ちょっと? もしもーーし」

 彼女の顔に気が付いた直後、僅かしかないお互いの顔と顔の間で、彼女の小さな手が振られる。

「ひょわぁっ!」

 これまで発したこともない声を上げた僕は、思わず大きく仰け反っていた。

 だけど、それは僕が頭で考えて起こした行動じゃない。

 反射のように、勝手に体が取った行為……つまり、どういうことかと言えば、飛び退いたけど、その後に対する配慮が全くされていなかった。

 当然の如くバランスを崩した僕の体は、地面に向かって倒れ込んでいく。

 せめて、頭を守ろうと体を丸めると、思っていた衝撃はなく、代わりに柔らかでそれでいて力強い感触が、僕の肩甲骨のあたりを支えてくれた。

「ふぅ……たすかりまぁっ!!」

 倒れて痛い思いをしなかったことに安堵した僕だったけど、その支えが誰のものかに気が付いて、またも体が超反応をする。

 支えてくれたと頭ではわかっているのに、つい拒絶するように、僕の体は大男の腕から緊急脱出を試みた。

 いや、だって、失礼だとは思うけど、近づいた目の奥で、カメラがキュインキュイン動いてたら、仕方ないと思う。

 誰に対する言い訳なのかわからない言葉を頭の中で懸命に紡いでいると、大男に対して身構えた僕の後ろから笑い声が聞こえてきた。

「あははははは、エル、君愉快だね!」

 そう言われて振り返れば、お腹を抱えて笑う女の子の姿が目に入る。

 直後、頬を起点とした熱が一気に耳まで到達した。

 女の子の目の前で、一人でドタバタした自分がもの凄く恥ずかしい。

 頭が恥ずかしさを認識すると、直後、顔で留まっていた羞恥の熱が、瞬く間に全身へと広がっていった。

 まるで何重にも服を着重ねたかのように、感覚がぐっと体から遠ざかる気がして、僕はただ呆然とするしか出来なくなってしまう。

 おかしそうに笑っていた女の子は、そんな固まってしまった僕に気が付いたのか、ピタリと笑いを止めた。

「ゴメン、エル。別に君を馬鹿にしたわけじゃないの。ただ、動きが面白かったから……ついね」

 女の子はそう言うと、深々と頭を下げる。

 そんな女の子に対して、僕はほぼ反射的に謝る必要は無いと、気が付けば必死に訴えていた。

「だ、だいじょ、じょぶ、き、きにすることない、というか、あ、あやまられるりゆう、ない!」

 必死……そう、必死だったから、言葉がぐちゃぐちゃだったのは、気持ちの空回りであって、断じて、断じて、目の前の女の子、超絶美少女に緊張したわけじゃない。

 またも、僕の中で誰に訴えてるのかもわからない言い訳が炸裂したところで、またも女の子は笑い出した。

「あははは。まるで初期のアダムみたいだよ。いいね、懐かしくて楽しい気分になるね」

 ああ、そういう事だなと僕は思う。

 目の前の女の子の素敵な笑顔を引き出したくて、僕は道化を演じていたのだなと、そう理解した。

 すると、妙に誇らしげな気分になったのだが、それを邪魔するように、大男の声が割り込んでくる。

「お言葉ですが、これほど無様に言葉を詰まらせた記録(ログ)はありません」

 その言葉を聞いた僕は、状況もすっかり忘れて噛み付いていた。

「待て! 無様って何だ、訂正しろ!」

 こんな可愛い女の子の前で侮辱されてたまるかという思いが、彼女を楽しませるための道化だったという認識が、発せさせた僕の言葉だったけど、発した後で冷静を取り戻し始めた脳が、文句を言った相手が誰だったのかに辿り着く。

 あ、こいつ、機械仕掛けの大男だった……そう脳が認識し終えた瞬間、服が湿るほどの嫌な汗が全身から噴き出した。

修正報告

2021.05.18

前:芸能人の小顔荷対する憧れを

後:芸能人の小顔に対する憧れを


前:倒れていたい思いをしなかったことに安堵した僕だったけど、その支えが誰のものかに気が付いて、またも体が超反応を締める。

後:倒れて痛い思いをしなかったことに安堵した僕だったけど、その支えが誰のものかに気が付いて、またも体が超反応をする。


前:感覚がぐっと体カッラ遠ざかる気がして、

後:感覚がぐっと体から遠ざかる気がして、


前:女の子の前で侮辱されて溜まるかという思いが、

後:女の子の前で侮辱されてたまるかという思いが、

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