052 Sense
『恐らく発信元の問題だと思います』
ヤヤが黙り込んでしまったからか、エルが久しぶりに口を開いた。
だけど、その久しぶりの発言の意味を上手く飲み込めなかった僕は、思わず『発信元?』と胸の内で首を傾げる。
結果、エルから聞かなくて良かった……というよりも、聞いたことで僕までフリーズしてしまうような言葉が飛び出してきた。
『マスターはコレまで、レンタさんが思われるとおり、『可愛い』『綺麗』『美女』『美少女』など、容姿を褒める類いの形容をされ伝えられてきました。ですが、マスターはそれらには興味や反応を示すことはありませんでした。一方で、レンタさんの言葉には強く反応しています。エルの収集した情報を元に分析すれば、コレは『照れ』と分類出来る反応です。つまり、同じ形容の言葉であっても、レンタさんが発信元の場合のみ、強い反応を示していることになります。結論として、マスターにとって、レンタさんだけが『特別』であるということです』
淀みなく発せられたエルの発言は、恐らくヤヤも聞いていたのだろう。
エルの発言の後、しばらく誰も発言しない時間が続いた。
というより、直ぐに切り替えて話題を提供するスキルなど僕には無かったのである。
なんとも言えない羞恥心から来るソワソワした気分を拭えないものの、多少は落ち着いてきた僕は、意を決して声を発することにした。
「あー、えっと、呼び名、そう、呼び名を決めてしまおう!」
少し大袈裟に手足を動かしてそう訴えたが、その過程で、自分の状況を思い出すことになる。
短くなってしまったか細い手足に、ぐっと縮んだ身長、何よりもふわりと膨らんだワンピースのスカートの感触に強い違和感を覚えた。
お陰で、今エルとリンクして、エルの体を動かしていることに気付く。
と、同時に、一つの衝撃的事実に到達した。
「や、ヤヤ……」
『え、あ、な、なにかな?』
僕の、正確にはエルの体が発した声が震えていたからだろうか、少し反応が希薄だったヤヤが、少し声のトーンを落として聞き返してきた。
コチラの不安に対処しようと思ったのかも知れない。
「その、スカートもそうなんだけど、風……いや、空気の流れみたいなのも感じるんだけど……」
そう、エルの体を動かして体感したのは、元の自分の体とそんなに変わらない皮膚感というものだった。
普段の衣服と違って、ワンピースだったから感じたのかも知れないけど、肌に服に触れた感触がある。
さらに、それだけじゃなくて、少し動いた時には、空調か何か、はっきりと原因はわからないけれど、しっかりと風の動きを感じ取っていた。
それらは普通のことであっても、人間としての普通であって、ロボットだという『エル』が感じるのは凄いことでは無いかと思う。
そして、その考えは正しかったと証明するように、開発者の興奮気味な声が響いた。
『そうだよ! エルはね。人間と変わらない五感が備わっているんだよ……まあ、厳密に言うと人間以上の……なんだけど、歌って貰うのには、五感も大事だと思ってね。大分苦労して再現したんだよ!』
鼻息が聞こえてきそうな程熱の籠もった勢いのあるヤヤの言葉に対して、正確にその苦労の度合いを理解することは出来なかったけど、心の底から『凄く頑張ったんだな』と素直に感心する。
すると、直前まで興奮気味だったヤヤが大きな溜め息をついてしまった。
「なに、どうしたのヤヤ?」
『レンタは、これ以降私を褒めるの禁止だね』
不貞腐れたような声でそう言われて、僕の考えが筒抜けだったことを思い出す。
そして、なら覗かなければ良いのではと思考したところで、間を開けずにヤヤが口を開いた。
『気になるから、それも無理。だから、レンタが考えなければ良い』
理不尽だなと思う。
『理不尽じゃない、効率的解決策』
でも、そんなヤヤの態度と行動は、とても可愛いと思った。
『仕返しか、仕返しだな。報復は何も生まないぞ!!!』
修正報告
2021.06.11
前:収拾した情報を元に
後:収集した情報を元に




