031 遅刻
プルルルプルルル。
布団の横に置いていた電話の着信音で僕は目を覚ますことになった。
寝ぼけているせいか、余り上手く回っていない頭で受話器を耳に当てる。
「ふぁい、夏川……」
『ちょ、レン、大丈夫!?』
受話器の向こうから聞こえてきたのは、幼なじみの木下さんこと、木下陽菜の声だった。
「あるぇ、陽菜ちゃん?」
『っ』
電話の向こうで、何故か陽菜が絶句する。
「どうしらぁ?」
『ど、どうしたじゃないわよ、急に、む、昔みたいに呼ぶからっ』
「あ、しょうか、木下さん、どうした?」
ようやくまともに動き始めた口で言い直したのに、陽菜はまたも絶句した。
「ん?」
よくわからず、未だボーッとした頭で、陽菜からの返事がないことに疑問を感じていると、気を取り直したらしい陽菜からどこかとげとげしい口調でようやく反応が戻ってくる。
『どうしたじゃないわ……今何時だと思ってるの? 調子が悪いなら、お母さんに言って貰うけど?』
陽菜の言葉で、僕はようやく部屋に置かれたデジタル時計の視線を向けて、絶句した。
「ごめん、木下さん、寝坊しただけだから、電話ありがとう!」
既に1時限目が始まろうとする時刻に、僕は慌てて礼を言うと電話を切って飛び起きる。
おじさんの好意で世話になっている上に、一人暮らしも許されて、バイトまでできるのは、しっかりと学校に通うのが前提だ。
ちゃんと通えなければ、自由にする資格なんてない。
それを約束したわけじゃないけど、世界中のいろんなところで懸命に働くおじさんに迷惑を掛けないためには、それを心掛けて行動するのが絶対だ。
なんて、頭の中では冷静に考えているが、僕の体の方はそうはいかない。
普段ならやらない、シャツのボタンの掛け違いに、ズボンは同じ側に両足を入れそうになった。
それでも僕はどうにか着替えを終えると、そのまま、通学用に使っているカバンを手に掴む。
そのまま焦りに突き動かされて、靴をしっかりと履かないままで玄関を飛び出した。
「はぁ……ぜぇ……はぁ……」
ようやく学校にたどり着いたのは1時限目が終わった後だった。
教室の一番最後列にある自分の席に着くなり、僕は思いっきり突っ伏す。
「お、レンタ、今日は休みかと思ったぜ!」
机に顔を伏せたままの僕の頭に振ってきた声の主は、友人の菅野、僕はスガちゃんと呼ぶ男だ。
「いや、なんか、色々あってね……」
ものすごい疲労感で包まれた体を無理に動かして、上半身を起こすと、スガちゃんのにやにやした顔が待ち受けている。
陽菜……木下さんのことを言われるんだろうなと予想すると、スガちゃんは期待を裏切ることなく、話し出した。
「お前の可愛い幼馴染が心配そうに電話してたぞ」
いろんな意味でやっぱりなという思いを込めて、スガちゃんを見る。
「知ってるよ、僕が相手だからね」
「そりゃそうか」
ニカッと笑うスガちゃんに呆れながらも、普段と変わらないやり取りに、僕は思わず苦笑した。
そんな僕に、スガちゃんはより笑みを深める。
「ん? どうしたの、スガちゃん」
「遅刻したお前は知らないだろうから特別に教えてやるよ」
急にエラそうな態度になったスガちゃんに嫌な予感を覚えながら、僕は自分の好奇心に押されて尋ねた。
「なにを?」
「どうも、この後、転校生が来るらしいぜ。んで、皆、ひそかにスマホで情報を朝からやり取りしてるんだ。そのお陰で、レンタは幼馴染とのラブラブっぷりをいじられないってわけ」
言い終えたスガちゃんは、自分の言葉を証明するように、僕の前から身をずらしてクラス中が見える様にしてくれる。
確かに、スマホをいじっている人が多いなとは思ったけど、それよりも何よりも転校生と聞いて思い当たった彼女のことで僕の頭はいっぱいだった。
修正報告
2021.05.23
前:反応がもとってくる
後:反応が戻ってくる
前:おじさんの行為で
後:おじさんの好意で
前:お目の可愛い幼馴染が
後:お前の可愛い幼馴染が
前:ニカッと笑う須賀ちゃんに呆れながらも、
後:ニカッと笑うスガちゃんに呆れながらも、




