002 遭遇
僕にとって身内と呼べるのは、ただ一人、おじさんだけなのだが、そのおじさん本人が絶賛海外で仕事中のために、僕はこのおじさんのマンションで一人暮らしをしている。
小中学生の頃は、おじさんのマンションの近所に住む木下さんのお宅に預けられていたが、高校に進学したことで、今では晴れて一人暮らしとなった。
まあ、木下の家は、僕の幼なじみの家でもあるんだが、相手が女子なので、大して相談もせずに、自然と、高校からは基本一人暮らしということになった経緯がある。
とはいえ、木下のおばちゃんは週に一回は訪ねてくるし、その時に食生活のチェックもされるので、僕の一人暮らしからは『基本』の枕詞が取れることはないのだ。
別に困ってないから良いのだけど、いろいろ心配してくれるおばちゃんには申し訳ない気持ちもある。
幼なじみの方は、まあ、高校に入ってからはあんまり顔を合わせていないし、明るいヤツなので元気にやっているだろう……むしろ、僕のようなヤツが近くにいない方が、アイツのためだ。
兄妹でもないのに一緒に暮らしてると、どういう思考回路でそうなるのか、いちいち弄ってくる馬鹿がいる。
僕自身はそんなことは気にしないが、アイツに迷惑が掛かるのは、僕としては許容出来ないのだ。
特に、好きなヤツと付き合う時に、僕の存在が足を引っ張ったら申し訳なさ過ぎる。
アイツは良いやつだからこそ、特に僕は足を引っ張りたくなかった。
とはいえ、小中学生の間は一人暮らしなんて許されるわけもないので、お世話になる以外の選択肢がなく、結局、アイツに不快な思いをさせてしまっている。
そんな事情もあって『基本』と枕詞が付いたとしても、一人暮らしを許されるようになったので、気持ちの上で大分楽になった。
「と、そろそろ時間か……」
宿題を適当に片付けていると、スマホのアラームが鳴り出した。
適当に身の回りの品を片付けて、愛用のジャージの上着を羽織って家をでる。
家から徒歩で十分程度のスーパーが僕のアルバイト先だ。
ここ午後のタイムセールの品出しの手伝いと、閉店時間までの倉庫の荷運びが僕の仕事である。
おじさんに養って貰ってる身なので、勉強以外のものにかかるお金は自分でなんとかしたいと思っているけど、だからって、バイトに集中しすぎて勉強を疎かにしたら不味いので、店長さんが知り合いの店に入れて貰うことになった。
長い時間働けない僕のことも、使ってくれる店長さんには、本当に頭が上がらない。
社員の人たちも、良いおじさん、おばさんばかりで、どう考えても時間面で優遇されてる僕にも優しくしてくれていた。
おじさんに、木下のおばちゃん、店長さんに、店員さんやパートさん、本当に人に恵まれてるなぁと感謝しながら、僕なりにではあるけど、仕事で返そうと今日も気合いを入れ直す。
そして、僕は時間目一杯、自分の出来る仕事を頑張った。
「レン君、お疲れ、気をつけて帰んなさいよ」
パートのおばちゃんに声を掛けられた僕は「はい、ありがとうございます!」と頭を下げる。
すると、ニコニコ顔でおばちゃんは手を振って応えてくれた。
僕はおばちゃんに手を振り返してから、真っ暗になった道へと歩を進める。
バイト先のスーパーから、おじさんのマンションまで、来る時に使った最短の道は、住宅街を通っているので、街灯の数が少なくとても暗い道だ。
小中学生や、女子ならおすすめしないが、立派な男子高校生の僕には問題は無い。
早く帰宅して明日の準備をしようと歩き出してしばらく、その途中にある大きな木々で囲まれたお屋敷の前で僕は大きな人影と遭遇した。
全身コートに包まれた巨大な人影は、滅茶苦茶デカイ、そして怪しい。
何しろ、もう6月も間近で大分暑いのに冬用の分厚いコートを着ているのだから、怪しむなという方がおかしいのだ。
そう思った僕は直ぐに踵を返そうとして声を掛けられる。
「待ってました、あなた、エルですね?」
修正報告
2021.05.18
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後:勉強を疎かにしたら
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前:全身コート包んだ巨大な人影は
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