020 失言
「この子は……」
僕の戸惑いに満ちた言葉に、ヤヤは自信ありげな力強い声で答えを返してきた。
「もちろん、私が造ったのよ!」
既にアダムを見ているので、その点にはそうだろうなぁ程度の感想しか浮かばない。
それよりも、何よりも気になるのは、目の前の『エル』の容姿だった。
「完全に女の子にしか見えないんだけど?」
確かに女装をしていたとはいえ、『エル』は僕なのだから、当然男である。
が、目の前のヤヤが作り上げたという『エル』はどこからどう見ても、幼い女の子だ。
僕の時にはあふれ出てたはずの野性味というか、男らしさというかが……。
「そう言われても、収集したデータに合わせて完全再現しているから、元々女の子っぽかったんじゃない?」
「うぐっ……」
抗議のつもりで口にした言葉が、ブーメランで帰ってくると、こんなに突き刺さるのかと僕は思い知った。
にもかかわらず、状況は僕に少しも優しくしてはくれない。
両手を地面についた僕を見かねたのであろうヤヤに作られたという『エル』が困り顔で創造主を見上げた。
「あの、マスター?」
「なに、エル?」
「レンタさんは、その……女性に似た外見であったことに、トラウマを抱いてらっしゃるのかも知れません」
幼さはあるもののとてもなめらかな口ぶりで、言い放たれた指摘の言葉は、僕の心を綺麗に抉っていく。
今も若干女っぽいとか、線が細いとか、中性的とか言われているだけに、否定も出来ず僕の心の傷だけが深くなる一言だった。
筋トレしても、牛乳飲んでも、思うように体が大きくならないんだから仕方ないだろうと、心の中で涙を流す僕の耳は、ヤヤとエルのやりとりを捉え続ける。
「な、なるほど、文献に依れば、レンタは精神的に不安定なお年頃というヤツだものね」
「はい。いたずらにトラウマを刺激するのは良いとは思えません」
揶揄う素振りのない会話のやりとりは、真面目になされている分、質が悪いものだった。
否定もしづらければ、茶化してうやむやにも出来ない。
そんな状況の下、ゴリゴリと羞恥心で心を削られる僕にヤヤは歩み寄ってきた。
「レンタ」
「な、なに……かな?」
声が上擦らないように必死に気持ちに静まれと念じながら、なるべく表情を殺してヤヤを見上げる。
するともじもじと視線を泳がせながら、指と指を絡ませつつ、言いにくそうに口を開いた。
「え、えーと……だね。その……なんだ……」
何も思い付いていないのだろうというのがありありとわかるヤヤの様子に、それでも気遣ってくれているんだという事実が嬉しい。
気にしないでと言ってこの話を終わらせるのが良さそうだと僕が思ったタイミングで、ヤヤも何事かを思い付いたらしく、わかりやすく表情を明るくした。
「そうだっ!」
思いつきが嬉しくて、それをそのまま言葉にしたのであろうヤヤが、ポンと手を合わせる。
「あれだよ。私が『エル』を設計した時は、女の子だと思っていたからね。体のバランスの見本として、当時の私の体の記録を使っているんだ。だから、そのせいでより女の子っぽくなったんじゃないかな?」
「そ、そうか……」
気遣ってくれているのがとても身にしみるヤヤの言葉に、僕は頷きで応えた。
すると、その反応を気にしたエルがヤヤにまた声を掛ける。
「マスター、どうやら今の内容では上手くごまかせていないようです。マスターが冒頭で、完璧に再現したと言ってしまったのが尾を引いているんじゃないでしょうか?」
「なに!」
エルの言葉にヤヤが驚いた顔を見せた。
そしてどうしたら良いんだと腕組みをして悩み始めるヤヤと、顎に手を当てて実に人間らしく思考を始めるエルに、僕は溜め息交じりにお願いする。
「その件はもう良いので、話を進めてください」
僕の心の傷を抉るだけの不毛と言うよりは、羞恥による拷問に近い会話が終わることを願って、僕は二人にそう告げるのだった。
修正報告
2021.05.18
前:真面目になされている分達が悪いもの
後:真面目になされている分、質が悪いもの




