表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/175

167 救援と決意

 僕は心から力を貸して欲しいと祈りながら、マイクに向かっていた。

 協力を求めた陽菜ちゃんが、直ぐにジェーン先生に連絡を取ってくれたことで、状況は一気に進む。

 まず、ジェーン先生は、既に政府機関の人間では無く、ウチの学校の教師になっていた。

 その日で気は文化祭の前日らしく、ヤヤの狙撃事件の後に、それが()()()()()らしい。

 つまり、今のジェーン先生は、教師として僕らに協力してくれるというわけだ。

 こうしなければいけなかった背景には、恐らく永田さん達にも監視の目が付いていると言うことだろう。

 エルはこれを『政府は協力出来ない』というメッセージだと解析し、僕もその通りだと思った。

 それでも、ジェーン先生という助っ人を無理矢理ねじ込むために、()()()()()()()()()のである。

 そして、助っ人のジェーン先生は、政府の協力が得られず、防犯カメラなどの映像ネットワークの参照が難しい現状で、一つの案を示してくれたのだ。


「サマエルちゃん、皆さんに協力を求めましょう」

「皆さん?」

「ファンの皆さんです」

 僕の両手を包み込むように握りながら、ジェーン先生はそう言って微笑んだ。

 でも、僕はジェーン先生の言わんとすることを上手く理解出来ない。

 首を傾げると、優しい口調でジェーン先生は「人間の目は防犯カメラでは追いきれない場所も見ていますよ」と意図を教えてくれた。

「ファンの皆さんに、ヤヤの目撃情報を求めるんですか!?」

「はい」

 コクリと頷くジェーン先生に、エルと共に思い浮かべた疑問点を尋ねる。

「でも、エルの情報によると『サマエル☆ちゃん♪ネル』は停止されているんですよね?」

「そうですね。恐らく、例の国からの工作だと思いますが、動画は削除され、アカウントも止められています」

「じゃあ、SNSですか? でも……」

「はい、そちらも停止されています」

「それじゃあ、力の借りようがないのでは……」

 思いの外暗くなってしまった僕の言葉に、ジェーン先生は「これがあります」と自身のスマホを取り出した。

「サマエルちゃん関連のSNSは監視されている上に、停止されていますが、私、ジェーンが生徒の皆さんと、()()()()()()()()()()()が入ってますから、これで拡散します」

 思わずジェーン先生の手にしたスマホに視線を向けると、先生は「ただ」と切り出す。

「私も現時点では政府関係者じゃありませんが、監視対象でしょうから、妨害を受ける可能性があります。ですので、もう一つ以前から用意していた手段を用います」

「もう一つの手段?」

「はい。『サマエル☆ちゃん♪ネル』専用配信サーバーです!」

「へ?」

 僕が呆気にとられている間も、ジェーン先生の言葉は続いた。

「いずれサマエルちゃんの人気であれば、現在の動画サイトに間借りしているより、独立した方が良いと思って、準備していたんですよ。専用の配信用サーバー、しかも、政府関係ではなく、私の学生時代のコネなので」

 そう言って笑みを浮かべたジェーン先生は「なので、そう簡単に妨害はできませんよ、この動画配信サーバーは!」と自信ありげに断言する。

 僕は今耳にした話の内容を理解するのに手間取り、最優先でどう動くか決められずにいると、頭にエルの言葉が響いた。

『サマエルちゃん!』

「エル!?」

『力をお借りするために、皆にお願いしてみましょう』

 エルの言葉に、僕の中にも道筋が出来る。

「そうだね」

 まずは手がかりがない、今、するべき事は情報収集で、それが出来る可能性があるなら、やるしか無かった。


「皆さん、私の大切な人を、私を造り上げてくれた人を探しています。もし見かけたら、情報をください! お願いします、皆さんの力を貸してください!」

 ジェーン先生のアドバイスもあって、ヤヤの名前は出さずに助けを求めた。

 僕の中の思いの全てを込めた実感もある。

 あとは、どうなるか任せるしか無いと思った瞬間、もの凄いスピードで動画のコメント欄に次々とメッセージが届き始めた。

「イヴ?」

「解析開始します」

 僕の言葉に応えたイヴが、メッセージの解析に入る。

 その間、僕とアダムは直ぐに出られるように、視線を交わして頷き合った。

 そんな僕達に、ジェーン先生から声が届く。

「サマエルちゃん、これを見て」

 そう言われて振り返った僕の視線の先、大きなスクリーンに、今寄せられたと思しきメッセージが表示されていた。

「皆、応援してくれているわよ」

 エルの目で見れば、もの凄い勢いで流れていくメッセージでも読み取ることが出来る。

 目撃情報よりも、応援の言葉が多かった。

 陽菜ちゃんだけじゃ無く、生徒会長さんや宮前さん、望月さん……文化祭を通じて、一致団結したクラスメートや先輩に後輩、皆が応援してくれている。

 それだけで、嬉しくて胸が熱くなった。

「サマエル……ちゃん?」

「え?」

 級に戸惑いの声でジェーン線に話しかけられた僕は、その顔を見たところで違和感に気付く。

 ウィンドウの外側、周囲を捉える視界が揺れていた。

「それ、涙……」

 言われて僕は頬に触れる。

 感触は生身で流す涙よりも冷たいという印象だった。

 でも、これは僕の、そして、エルの……サマエルの感動の涙なんだとわかる。

「ねぇ、エル?」

『何ですか、サマエルちゃん』

「泣けたって知ったら、ヤヤ、戻ってきてくれるかな?」

『そんなの……きまってるじゃないですか』

 その言葉だけで、僕とエルは同じ結論に至れたんだと、とても嬉しくなった。

 そして、この嬉しさをギュッと握りしめて、ヤヤを取り戻しに行く。

 服で粗めに浮かんだ涙を拭って僕はイヴの解析の終わりを待った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ