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143 進展

「はぁ~~~~~」

 長い溜め息の後で、生徒会長は「みとめるわ」と言いつつ、こちらに書類を手渡してきた。

「これは?」

 僕が書類を受け取りながら尋ねると、生徒会長からは、明らかに『読みなさいよ!』と言わんばかりの刺さる視線を向けられる。

 まあ、陽菜ちゃんの視線攻撃を乗り越えてきた僕には、簡単に受け流せた。

「あ、後で、確認しておきます……」

 僕は完璧な返しをしたはずなのに、生徒会長から返ってきたのは、大きな溜め息である。

 とても納得出来る反応ではないのだが、陽菜ちゃんで学んだ経験に乗っ取れば、そこは触れてはいけない。

 変な指摘やツッコミを入れようモノなら、想定外の方向に転がっていくことも珍しくないのだ。

 ここは沈黙こそが最良なのである。

 そして、その判断が正しかったことを示すように、生徒会長は「ここである程度理解しておいて貰わないと困るので、説明します」と言ってくれた。

 説明して貰えば、読み落としもないだろうし、僕も気が楽だなと思って素直に「よろしくお願いします」と頭を下げる。

 生徒会長はそれに頷いて、書類の説明をしてくれた。

 まず、サマエルのステージは、生徒からの要望もあって、生徒会としては認めるどころか、やって貰わないと困るに達しているらしい。

 この点に関しては、最初にあしらっておいて都合のいい話で申し訳ないと謝罪された。

 謝ってもらったけど、別段誰も怒ってはいないので、この点は気にしないでくださいと伝えてある。

 元々、無理を言ったのはこちらだし、あの時、生徒会長としては差し戻しするのが当然だったし、何よりヤヤも陽菜ちゃんもまったく気にしてないからだ。

 ともかく、僕達は目標通りステージの使用権はどうにか貰えることとなったらしい。

 と、ここまで説明して貰い書類の必要事項を教わった僕は、お礼を言って直ぐに帰ろうとのだけど、そうはいかなかった。


「な、何ですか、生徒会長……」

 呼び止められた僕は警戒しながら、生徒会長に引き留めた意図を尋ねた。

 すると、その口から予想外の質問が飛び出てくる。

「グッズ販売はどうするのかしら?」

「へ? グッズ販売?」

 僕が素直にそう返すと、生徒会長にキッと睨まれてしまった。

 そうして僕が黙ってしまうと、また生徒会長には溜め息をつかれてしまう。

「アイドルのステージなんですから、物販を予定しているんでしょう?」

 あやうく『いえ、してませんが』と返しそうになって、慌てて自分を引き留めた。

 そのせいで、僕は沈黙を継続しているので、生徒会長の視線から漏れ出る圧力が強まっている。

 そして、焦れたらしい生徒会長が「どうなの?」と直球の質問をしてきた。

 これに対して、嘘を言っても仕方が無いので、なるべく機嫌を損ねないように気をつけながら事実を伝える。

「えーと、まずはステージ枠を貰うのを目標としていたので……その、物販は、まだ考えていなくてですね」

 僕がそこまで言った瞬間だった。

「ポストカードとかどうかしら……Tシャツも良いけど、着たら洗わないと出し、洗ったら劣化してしまうでしょ。サマエルちゃんをそんな目に遭わせるなんて良くないと思うの!」

 突如、息継ぎどころか、切れ間無い怒濤のマシンガントークが放たれる。

 思わず「へ?」と変な声が出たが、何か危険なスイッチが入ってしまった生徒会長は、そんなことで止まることはなかった。

「ポスターとか、うちわも良いわよね、タオルも捨てがたいわ、大丈夫、今までグッズを作ったクラスや部活動もあるから、その資料を提供するわよ!」

 なんだろう、陽菜ちゃんやジェーン先生の姿が薄らと重なって見える。

「ああ、安心して、利益供与なんて求めないから……で、でもよ、もしも、適うなら、サマエルちゃんのサインが欲しいわ」

 十分利益を求めてます余生と会長と思いつつも、この場で口にしない分別……いや、危機意識が僕の中にも残っていた。

 敢えて突っ込まなかったことで生徒会長はさらに暴走を加速させて、止まらないマシンガントークと共に『サマエル☆ちゃん♪ネル』グッズ企画と題された大量の紙資料を押し付けてくる。

 持ち帰ったそれら資料を丹念に精査した陽菜ちゃんとジェーン先生は、オブザーバー として生徒会長を迎えることを決めるのだった。

 その流れの激しさに呆れつつもきっかけとなっているサマエルを思うと、実に他人事のような感想が浮かぶ。

「……サマエル……凄いなぁ」

 自分でない自分の影響に、現実感の無さを僕は強く感じた。

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