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109 慰撫

「あなたたちは一体何をしているの?」

 盛大に溜め息をつく陽菜ちゃんに、僕は返す言葉もなかった。

 というか、目を回した僕は横に並べたパイプ椅子に寝かされていたのだが、その間、ヤヤが心配して声を掛け続けてくれたお陰で、幸せいっぱいなので、言い返す必要も無いのである。

 それをバッチリと見抜いたらしい陽菜ちゃんは「コイツ」と呟きながら、嫌そうな顔を浮かべて見せた。

「すまない、陽菜、私が浅はかだったばっかりに……」

 シュンとして、俯いてしまったヤヤに対して、僕は寝たままでその言葉を否定する。

「気にすることはないよ、ヤヤ……ヤヤは驚いただけで、僕の平衡感覚が軟弱だっただけなんだから」

 それを聞いて顔を上げたヤヤが「レンタ……」と熱の籠もった声で僕の名前を呼んだ。

 瞬間、僕とヤヤは見つめ合う……と、思ったんだけど陽菜ちゃんが乱入してくる。

「そうよ、ヤヤ。レンが貧弱なのが悪いんだから、気にすることないわ」

 そう言い切った陽菜ちゃんに、理不尽にも僕は頭をぺしっと叩かれた。

 反射的に文句を言おうとした僕の目の前で、陽菜ちゃんはヤヤの頭に腕を回して抱きしめる。

 思わず声が引っ込んでしまった僕とは対照的に、陽菜ちゃんはゆっくりとした口調で語りかけるようにヤヤに声を掛けた。 

「ヤヤは、いろんな感情が混ざり合って、混乱してると思うの……だから、まずは落ち着いて」

「……陽菜」

 陽菜ちゃんが少し体を離すことで、見つめ合う形になった二人の姿に、僕は何故か身動きが取れなくなってしまう。

「わからないことって戸惑うよね。だから、一つ一つ検証しながら自分の中に収めていけば良いんだよ」

 優しい手つきでヤヤの前髪を書き上げおでこを撫でながら、陽菜ちゃんはそう告げた。

 それから、ニッと笑って「それが科学でしょう?」と付け加える。

「陽菜……そう、だね。その通りだ!」

 なんだか二人で盛り上がっているので、僕は息を潜めることにした。

 経験上、こう言う場面で下手に口を出すと、思わぬ火の粉に晒され炎上する。

 求められまでじっと待つことも、甲斐性なのだ。

 そんなことを考えて現実逃避をしていると、僕よりさらに輪の外側にいたエルが控えめに手を挙げながら声を発する。

「あのぉ~」

 その声に、僕、ヤヤ、陽菜ちゃんの視線が声の主であるエルに向かった。

 エルは全員の目が自分に向いたことを確認すると、遠慮がちに発言を再開する。

「お食事を取りませんと、お昼休みが終わってしまいませんか?」

 直後、僕ら三人の声は綺麗に揃った。

「「「あ……」」」

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