010 到着
結論から行こう。
僕は空を飛んでいた。
「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
息もまともに吸えないほどの風圧と全身に感じる重力なのか遠心力なのかわからない全身を引っ張られる感覚に、僕は悲鳴を上げずにはいられない。
その上、空を飛ぶ僕の命綱は、お腹から腰にかけて回されたロボの腕だ。
車のシートベルトですら3点式なのに、お腹に回された腕で固定されているだけなので、実質肩の一点しかロボ本体に繋がっていない。
正直、不安しかないが、自分の身の安全よりも状況認識の方に思考が向いている理由は単純に逃避だ。
空を飛んでいるといっても、ロボの飛行は安定していないから、きりもみ状態で、目を開くと見えてくる視界はめまぐるしく入れ替わり、目を閉じて余計なことを考える以上に精神を削ってくるのである。
大男然とした二足歩行ロボに抱きかかえられて、ぐるぐると回転しながら飛ぶ夜の空は、控えめに言って最悪だった。
「ちょっと、レンタ、大丈夫?」
僕が墜落することなくたどり着けた地面に四つん這いになって、全身の嫌な汗を感じながらも、生きていることを再確認し安堵していると、ヤヤの声が聞こえてきた。
はぁはぁと乱れたままの息を整えようと思ったが、直ぐにどうにかなりそうになかったので、とりあえずとばかりに、返事の代わりに顔を上げてヤヤを見る。
僕と同じようにアダムに抱えられてここまで飛んできたはずのヤヤは、けろりとした顔で、僕のことを不思議そうに見ていた。
「や……ヤヤは……へいき、なの?」
驚きと、平然としていることへの戸惑いと共に、僕は一つの仮説に思い至って彼女の瞳に焦点を合わせる。
だが、ヤヤも実はロボなんじゃないかという仮説は、その透き通る瞳によって即座に否定された。
「なになに? 私の目?」
大きな目をパチクリと開閉させながら、ヤヤは小首を傾げると、直ぐに僕の考えに当たりを付ける。
「ああ」
一人納得したとばかりに大きく頷くと、左の口角だけを上げてニヤリと笑って見せた。
「大丈夫、大丈夫、私はヒトだよ。割と平均的な顔立ちだから、作り物めいて見えるかも知れないけど、アダムみたいなロボットじゃないよ」
胸に手を当ててニヤニヤとしながら、そう宣言すると、ヤヤは長い髪に右手をかけて、直後に横へ払う。
ふわひらと宙に舞う髪の毛が、月光を浴びて僅かに輝きを放った。
そんなヤヤの姿に見とれていると、その表情が徐々に曇りだしたことに気付く。
僕もその表情に煽られたのか、不安を感じてきたので、素直に質問を口にした。
「どうか……した?」
そんな僕の言葉に少し残念そうな顔で、ヤヤは溜め息交じりに左右に首を振る。
「もう、君は周りが見えてないの?」
明らかな誘導の言葉に、僕はまたも素直に周囲に視線を巡らせた。
すると、月光に照らされた数々の遊具が目に入る。
「なに、ここ……遊園地?」
僕の言葉がお気に召したのか、ヤヤは今度は嬉しそうな表情を浮かべて「そう、遊園地!」と大きく頷いた。
「まあ、既に廃園になってしまった遊園地だけどね」
ほんのわずかに寂しさを感じる響きでそう呟いたヤヤだったけど、直ぐに明るい表情を浮かべ直す。
「でもどうかな、秘密基地にはもってこいじゃないかな?」
「秘密基地?」
ヤヤの言葉を繰り返しながら、僕は口にした言葉を念頭に置いてもう一度あたりを見渡した。
売店に、噴水、メリーゴーラウンドにコーヒーカップ、少し小さめの汽車のアトラクション、派手なものはないけれどそれなりにメジャーな遊具が揃っている。
ただ、それらには真新しさのかけらもなかった。
一部は塗装が剥がれ、塗装の色はあせ、露出している金属は所々がさび付いている。
まさに廃遊園地と物語る数々の物的証拠に、僕は改めて、ここがそういう場所だったのだと認識した。
と、同時に、ここをヤヤの言った秘密基地という単語に加えて、アダムという科学力を考慮した僕は、もてる想像力を駆使して、一つの答えを導き出す。
すなわち……。
「もしかして、地下にヤヤの研究所があるの?」
修正報告
2021.05.18
前:こちら側に意識が向いている
後:自分の身の安全よりも状況認識の方に思考が向いている
前:空を飛んでいると行っても
後:空を飛んでいるといっても
前:大男然としたに即方向ロボに
後:大男然とした二足歩行ロボに
前:活きていることを
後:生きていることを
前:息を整え用と思ったが
後:息を整えようと思ったが
前:少し小さめの記者の
後:少し小さめの汽車の




