009 急転
「よし、それじゃあ、立ち話もなんだし、行こうか?」
「え?」
ヤヤの唐突な言葉に、僕は知らずに戸惑いの籠もった声を発していた。
声を発しながら、アダムに連れられて、それを作ったと主張するヤヤにあった時点で、案内も目的も終わったと思い込んでいたことに気が付く。
「レンタには、聞きたいこともあるし、お願いもあるんだよね」
ヤヤの聞きたいことが『エル』についてだろうと直ぐに思い当たった僕は、軽く拒否したい気持ちになったけど、一方でスゴイ美少女の言う『お願い』にとても強い興味を抱いていた。
「ダメ……かな?」
心の中でカタンと大きな音を立てて、天秤が一気に傾いた気がする。
同時に、僕の思考を置き去りにした僕の体は、勝手に、猛烈な勢いで左右に首を振って、かなり上擦った声で「ダメじゃないですぅ!」と返事をしていた。
「じゃあ、いいんだね」
僕の言葉に見せたヤヤの笑顔は、思わずドキリとしてしまうような妖しげな雰囲気を纏っていて、小さな後悔を抱かせる。
けれど、そんな小さな後悔を塗りつぶしてあっさり上書きしてしまうほどの強い好奇心も兼ね備えていた。
そんなヤヤの笑顔と確認に対する僕の答えは承諾しかない。
「……うん。いいよ」
直前の首を左右に振りながら発した体の独断専行と違って、今度は頭も気持ちも伴った言葉だ。
だからかも知れないけど、ヤヤも満足そうに笑いながら頷いてくれる。
そして、ヤヤは僕の背後に視線を向けた。
「じゃあ、アダム、帰るわよ」
「はい、マスター。命令を受領しました」
アダムがヤヤの言葉にそう答えた直後、なんの準備もしていなかった僕のお腹にその太い腕が絡みついてくる。
「え? は?」
戸惑いを言葉にしている間に、アダムはゆっくりと動き、あっさりと僕を脇に抱えるような格好で抱き上げた。
「ちょっ、どういう!?」
さっきまでアダムについて案内されていたので、まさか抱え上げられるとは思っていなかった僕は慌てふためく。
そもそも物心ついてからこっち、こんな持ち上げられ方をしたことなんてなかった。
いや、そもそも、この体勢である以上、どうなるかは一目瞭然である。
まず間違いなく、この抱えられた状態で運ばれるということだ。
「なんで、こんな、持ち上げ、られかたっどうする……」
ともかくアダムの腕から逃れようと、嫌な抱かれ方を拒否する子犬や子猫のようにのたうつ僕だけど、アダムの腕の拘束が緩む気配はない。
そんな抵抗してもどうにもならないという実感が、僕の焦りを強め、恐怖心を煽ってきた。
軽くパニックになりかけているのを、自分の中の冷静な部分が感じ取っているものの、対処法なんてあるわけがない。
強いて言えば、アダムが解放してくれることなんだろうけど、そんな気配はなかった。
そんなますますテンパる僕の耳に、ヤヤの声が届く。
「大丈夫、危なくないわ」
その不思議と通る声に反応した僕の体は、その声を発したヤヤへと視線を向けた。
そして、僕と同じように、アダムの反対側で担がれたヤヤの姿を見る。
僕の視線が向いたことのを感じとったヤヤは、得意げにチロリと舌を出して左目でウィンクを放ち、右手の親指を立てた。
とても可愛らしい仕草だけれども、そのどこか勝ち誇った表情は、アダムの両脇に抱えられるという謎体勢がヤヤにとってイレギュラーじゃないことを物語っている。
大容量の嫌な予感を僕が覚えた直後、ヤヤは満面の笑みを浮かべて注意事項を口にした。
「口を開くと舌を噛んだり……ま、顎が外れるかも知れないから、強く結んでてね」
「ちょ……何されるの、僕!」
修正報告
2021.05.18
前:この体制である以上、
後:この体勢である以上、
前:子犬や子猫の用にのたうつ僕だけど
後:子犬や子猫のようにのたうつ僕だけど
前:感じ取って昼ものの
後:感じ取っているものの
前:介抱してくれることなんだろうけど
後:解放してくれることなんだろうけど
前:向いたことのをかんじとったヤヤは
後:向いたことのを感じとったヤヤは
前:そのどこか勝ち誇った表情に
後:そのどこか勝ち誇った表情は
前:ヤヤは満面ね笑みを浮かべて
後:ヤヤは満面の笑みを浮かべて
前:アダムの反対橳で
後:アダムの反対側で




