96.鍛錬:迷宮4階(4)
「大分と術の発動のタイミングがあってきたから、今度は水球で練習したらどうだ?
術によって発動した攻撃の軌跡や速度が違うから、光系の攻撃はそれに特化するぐらいの才能があるんじゃない限りいつまでも練習に使わない方が良い」
4層を歩き回って魔物を迎撃してきた3人組だが、デヴリンがランチの後に隆一に次のステップへ移行することを提案してきた。
「あ~。
光系はレーザーだからよっぽど出力を上げない限り傷が細くなる上に焼灼して止血しちゃうから攻撃効果が微妙か。
鎌鼬や火の玉をぶつけられるよりは水の方が良いだろうけど、濡れるよ?
ヘルメットをかぶった上で岩球の方が良くないか?」
デヴリンの提案に隆一が一瞬考えて逆提案した。
デヴリンの防具ならば隆一が練習として放つ岩球ぐらいなら当たってもかすり傷すらつかない可能性が高い。
と言うか、練習では無い本気で放つ渾身の一撃でも効果があるか微妙っぽい。
何と言っても『ドラゴンの爪が掠っても体が真っ二つにならない』だけの強度がある防具らしい。
イマイチ程度がよく分からないが、隆一の攻撃はまだ対象を二分に出来る程の強度は無い。だからうっかり本気の一撃を当ててしまっても問題無いだろう。
ちなみに、デヴリンの一番良い防具は『ドラゴンの本気の一撃でも上手く逸らして飛べば内臓破裂しない』らしい。
レベルが高すぎて隆一には違いが実感出来ないが、取り敢えずどちらもかなり頑丈なのは間違いない。
流石に後頭部に当たったら危ないかも知れないのでヘルメットをかぶってもらった方が良いが、それさえすればびしょぬれになる水球よりも岩球の方がフレンドリーファイアによる被害は少なそうだ。
「う~ん、今の時期だったら濡れても構わないし一応着替えも持ってきているんだが・・・確かに岩球の方が攻撃手段としても現実的か」
水も岩も質量的には大して違いは無いが、岩だったら慣れてくれば尖って硬い形状にするのもそれほど難しくないが、水の場合はウォーターカッターのように細く鋭い攻撃にするにはかなりの集中力か熟練が必要になる。
氷にすれば岩と同じような効果を得られるが、水を凍らせるためにはそれなりに魔力を使うし発動にかかる時間も余分に必要になる。
そう考えると、特に属性的な得意不得意がないのだったら岩球の方が攻撃手段としては手ごろだ。
「残念ながら俺には特に魔力効率のいい属性は無いからなぁ。
熟練してきたら水の方が攻撃手段としては奥が深いとは思うけど」
魔力操作が上手くなったら水球を対象の顔に張り付けて呼吸を阻害するというのも可能な水魔法は攻撃手段としては奥が深い。
初級クラスだと一番攻撃力が低いのに、極めれば他の属性よりも応用が利く上に周りへの被害が少ない、非常に玄人向けな魔法だった。
まあ、そこまで隆一が魔法の練習をするか否かも問題なのだが。
プロの魔術師でもそこまで水魔法を極める人間は国全体を見回しても一握り程度しかいないという話である。
錬金術師である隆一がそこまで極められるかというポイント自体が微妙に疑問もあり、ついそこら辺の練習は他に比べて優先順位が下がってしまうのだった。
色々やりたいことを考えながら優先順位を頭の中で調整していたら、隆一の魔力感知に近づいてくる魔力の点が現れた。
斜め右の方から近づいてくる森狼の速度を確認し、岩球の準備を始める。
どうやら森の中を走り抜けてくるせいかちょっと速度がゆっくりめな感じだ。
「岩球!」
・・・フレンドリーファイアにはならなかったが、森狼にもぶつからなかった。
その後も4階を歩き回り、森狼の迎撃を続けたのだが、結局夕方になっても命中率は改善したものの4割程度。
「なんかこう、ライトだったら外してもどうという事ないのに、岩球で外すと残念感が2割増しな感じがする・・・」
帰る事にして階段で足を止めた隆一は、ため息をつきながらハンドタオルを取り出して顔を拭いた。
使っている魔力はほぼ同じなのだが、物理的に岩が何もない地面にぶつかって砕けるのを見ると『空振り』とか『無駄撃ち』という現実が非常にヒシヒシと実感できてしまう。
ライトで外しても懐中電灯をちょっと振り回して周りを照らした程度な印象なのだが、やはり物理的に攻撃手段の残骸が残るとなんとも微妙だ。
「まあ、残念感が強い方が頑張ろうというインセンティブが強くなって良いんじゃないか?」
笑いながらデヴリンが微妙に慰めにならないようなことを言った。
まだ魔力を練って真剣に倒す攻撃手段として集中している訳ではなく、単に『当てる』という点にだけ集中している段階でこれなのだ。
隆一が魔力で魔物を迎撃できるようになるにはまだ大分とかかりそうだった。
これで護衛がいない状態で、空ぶったら噛み付かれる状況になったら更に命中率が下がりそうですね〜。




