95.鍛錬:迷宮4階(3)
4階まで降りてきた隆一が再び魔力感知を再開したところ、レッサ―トレントは魔力感知だと妙に薄ぼんやりした光点に視えた。
魔石がない植物性の魔物という特徴故なのだろうか。
レッサ―トレントの枝に林蛇がいると、林蛇にはっきりとはしているものの小さな光点が薄ぼんやりしたレッサ―トレントの光点に紛れてしまう感じで、うっかりしていると見逃しそうだ。
これがもっと大きな6階や9階のトレントだったら更に枝の間に隠れた魔物を見逃しやすくなるかも知れないので要注意だろう。
4階に降りてきた3人は今回はフロアを歩き回っている。
ただし、魔物が襲撃しようと現れたら足を止め、迎撃する。
「取り敢えず慣れるまでは立ち止まって相手が寄ってくるのを待つが、慣れたらこちらからも走り寄る。
出来れば相手の歩幅を見て、ジャンプの途中とかで迎撃出来るポジショニングを狙うのが理想だ」
森狼が走り寄ってくるのを睨みながらその速度と接敵時間を計算している隆一にデヴリンが声をかける。
「ライト!」
計算に基づいてこちらから5メートルぐらいの位置で森狼の胴体に当てるつもりで試しにライトの術を放ってみたところ・・・。
隆一から2メートル程度の場所で森狼を切り倒したデヴリンの後頭部が光った。
金髪のデヴリンの頭部に当たったのであまり目立たなかったのだが、ダルディールから聞こえた小さなぶふっという音からするに、残念ながら気付かれたらしい。
「どこでジャンプするかなんて、相手次第じゃないのか?」
ダルディールと、こちらを微妙な目付きで見ているデヴリンを無視して、隆一はデヴリンの指示に関して疑問に思ったことを尋ねた。
・・・取り敢えずフレンドリーファイアが無くなるまでは、ライトで練習し続ける方が無難そうだ。
「大体攻撃パターンっていうのは決まっているから、慣れればそれなりに予測できるぞ」
身を屈めて森狼から魔石を取り出しながらデヴリンが答えた。
まあ、魔物だろうが動物ベースであれば骨格や筋肉の形によって可能・効率的な動きというのはおのずと決まる。
立ち止まった敵に対して効果的な攻撃パターンもそれによって決まるのだろう。
こちらが迎撃に近づくとパターンに変化が生じると思うが、願わくはあまりバラエティが増えないことを期待しておこう。
「ちなみに、ポップしたばかりの魔物だったら比較的同じ行動をとると思うが、長生きして経験を積んだ魔物がずる賢くなったりしないのか?」
地球だって、成熟した熊や猪がずる賢く、より危険になるという話を聞いたことがある。
強力な魔物だったらそれだけ賢くなる可能性もあるのではないだろうか?
魔物の強さと言うのは核と体に保持する魔力の量に比例するという。
スライムの例を見る限り、核というのは脳の代用となっている可能性があるのだから、強力な魔物=ハイパワーな核=賢い魔物という関係が成立しそうだが、どうなのだろうか?
隆一の質問にダルディールが頷いた。
「確かに、『主』と言われるぐらい長生きした魔物はこちらを驚かせるような行動をとることがある。
迷宮の場合は下層深くに潜ると強力な魔物でもポップしたばかりという場合があるので必ずしも強さと賢さが一致するとは限らないが」
「うん?
外では魔物がポップしないというのは聞いたし、動物が魔物に変化する場合は最初は弱いだろうとは思うが、外の魔物は自然繁殖するのだろう?
だとしたら強い魔物同士の子供はあまり賢くなくても強いんじゃないのか?」
猪が魔物化する場合は小型な突撃猪から徐々に大型になっていくのだろうから最初は弱いだろうが、それこそミノタウロス同士の子供なんかだったら体が成熟したら経験の蓄積からくるずる賢さはまだまだでも、物理的な強さはかなりの物になりそうだが。
デヴリンが肩を竦めた。
「魔物っていうのは、親と同じ種族だが産まれて直ぐは弱くて成熟するのにやたらと時間が掛かるか、子供は進化する前の弱い種族になるかのどっちかで、基本的に強い状態で産まれる魔物の子供と言うのは存在しない。
それが神の人間に対する情けなのかもしれないな。
例えば、オークは大したことない魔物だが、それが進化してオークジェネラルやオークキングになるとかなり手ごわくなる。
だが、オークキングの子供はオーククイーンに産ませてもオークとして生まれてくるんだ」
ある意味、随分と人間にとっては都合の良い話であるが、神が設計して運営に口出しをしてくる世界なのだ。
魔物が世界を蹂躙しつくしてしまわないように繁殖する際の強さに制限を課したのかも知れない。
数百年前ならまだしも現代になってからは『科学』と言う宗教によって神が駆逐された(少なくとも創世的な話として)日本から来た隆一としては、神が生物のバランスに介入しているかもしれない世界と言うのは何とも微妙な気分だ。
人間がもたらした温暖化や核戦争で下手したら年金をもらえる前に人類の文明が滅びるのではないかと密かに思っていた隆一からしてみたら、特定の種族が世界を蹂躙できないように調整する存在がいるというのは悪くないという気はするが、誰かに自分の人生も干渉され、利用されると考えるのは業腹にも感じる。
信仰相手ではないとはいえ、明らかに人間を超越した力を有する相手に対して腹を立てるなんて言うのはこの上なく傲慢で危険な考え方ではあるのだが、合理的思考で割り切れないのが人間というものだ。
自分が究極的に合理的だと思っていた隆一としては、この世界に召喚されて初めて自分が意外に感情的であることを知った気分である。
タイミングだけでなく狙いに関しても練習が必要な隆一でしたw
ちなみに、アメリカとかでは一部の物凄く敬虔なキリスト教徒にはマジで創世記(7日で世界が創られたって話)を信じている人もいるらしいですが、日本人は皆、人間が何億年もかけて単細胞から猿経由で進化してきたと言う普通に進化論を信じているという想定でこの話を書いています。




