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実は召喚したくなかったって言われても困る  作者: 極楽とんぼ


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92.簡易鑑定なんて初めて聞いた:メラク

「メラク!

ちょっと来てくれ」

神殿での回復サービス当番を終わらせ、ゆっくり夕食を食べて風呂にでも入ろうと食堂に向かっていたら突然横から久しぶりに聞く声をかけられた。


「ザファードじゃないか。

リュウイチの補佐になったと聞いたが、まだ神殿に居たんだな。

最近はどうだ?」


「次から次へと色々やってくれるから書類仕事がいつまでたっても終わら無い!!

まあ、それは良いとして。

ちょっと来てくれ」

強引にメラクの腕を引っ張りながらザファードがVIPセクションの方へ歩き始める。


「おいおい。

1日フルに回復ヒーリングをやってきて疲れているんだ。

せめて夕食を食べさせてくれよ」


神殿で働いている人間というのはどうも真面目過ぎる者が多く、夜になってもやることがあるとそのまま働き続けようとする傾向がある。


ザファードはそこまで仕事漬けにならない程度には要領が良い男だったと思ったのだが・・・。


「我々の分と一緒にお前のも運ばせるから、来い」


◆◆◆◆


「簡易鑑定なんて初めて聞いたのに、出来るもんなんだなぁ・・・」


夕食を待つ間にリュウイチに『魔力感知で探知した対象に簡易鑑定をかける際に、自分への危害を意識すると感染症が分かるようになる』という話を説明されたのだが、食べ終わった後に試してみたら本当に出来た。


『レーダーのように』という魔力感知はまだ出来ないが、元々魔力感知は普通に魔力の制御を覚えた際に習得しているし、鑑定は回復(ヒーリング)を掛ける際には必須だ。

魔力感知した対象に鑑定を掛けようとしたら、本当にリュウイチが言ったとおりに『人間:男』と言った簡易的な鑑定結果が出てきた。


病状が危うい為に神殿に泊っている患者がいる病床で寝ている対象を簡易鑑定をしてみたら、本当に病名が出てきたのには更に驚いた。


何度も試す羽目になったし魔力切れを起こして魔力回復薬を3本も飲む羽目になったものの、一晩で一応出来るようになったことにリュウイチは複雑そうな顔をしていたが。


「こちとらずっと使ってきたんだよ?

幾ら才能があると言っても、魔力感知や鑑定を使い始めて1年もたっていないリュウイチに負ける訳にはいかないでしょ」

宥めるためにそう言ったがあまり納得した様子ではなかった。


今まで誰も思い付かなかった新しい方法に気付く事の凄さと言うのはあまりリュウイチ的には認識されていない様だ。


「リュウイチ殿だけしか出来ないのではこれから何かあるたびに神殿や王家から感染症患者の増減確認を頼まれる羽目になったかもしれないのですよ。

普通に神殿の人間でも習得できるなら、リュウイチ殿はアイディアを提供するだけでいいのを喜ばないと」

というザファードの言葉にはコクコクと頷いていた。

相変わらず、国や神殿に深く関与する事には忌避感があるようだ。



取り敢えず、メラクが感染症患者を簡易鑑定で見つけることが出来るようになった時点で3人はリュウイチの居室に戻って軽くワインを飲みながら話し合うことにした。


「しっかし、これで鑑定の使える神官が感染症患者を見つけられるようになったとして、どうするんだ?

いつ起きるか分からない伝染病の流行に備えて何人もの神官の時間を使ってずっと住民の感染者数を確認しまくる訳にもいかないぞ」

メラクを引っ張って来る程大きな発見である事は確かだが、現実における活用は難しそうだ。


「確かに、毎年ちょっとした流感は流行するが都市区域を閉鎖して移動を禁止するような大ごとになる伝染病は10年か20年に一度というところだ。

それに備えるために大規模な予算の継続的確保は難しいでしょうね」

溜め息を吐きながらザファードが合意した。


伝染病が大流行する度に、『あの時最初の感染者を診た時点で問題の重大性に気が付いていれば・・・!』 と真面目な回復師ヒーラーや薬師が悔やみ、国の上層部もどうにかして伝染病をもっと早い段階で発見できないかと色々手段を講じる。


だが、結局5年もしないうちにその予算が他の問題に取られてしまい、早期発見の為の対応策は骨抜きになるのだ。


「まあ、考えてみたら伝染病と言っても、罹患した人間の大部分が寝込まない様なタイプだったらそれ程深刻な問題じゃあない。

そう考えると、宿場区域や住宅街で日中に寝込んでいる感染者の数を毎日昼食の後にでも確認して、日々の推移を記録して統計学的に異常な増加があったら報告するという形にでもすれば良い様な気がするが・・・宿場区域はまだしも、『住宅街』は範囲が広すぎるか」

リュウイチがワインを飲み干しながら言った。


「ふむ。

診療所を兼ねた小神殿で毎日昼食の後にでもやるという事にしたら・・・かなりの範囲はカバーできるはず。

回復師ヒーラーとして働く神官全てにやり方を教えるのと、統計的な情報の整理をする部署を立ち上げる必要があるでしょうが、小さめの部署を一つ立ち上げる程度だったら予算的には可能かも?」

自分のグラスも空けながら、ザファードが呟く。


「小神殿間でカバーする範囲が重複しないように気を付ける必要があるが、上手く感染病の罹患者数の記録を集められたら気象状況とかの関連性も検証できるかもしれないな」

メラクが数年前に薬師ギルドと協力して流感薬の需要予測のプロジェクトを行った際には、仕事の合間に片手間で集めて貰った情報では正確性に欠けていた為、結局のところ薬を購入・貰いに来る人間の数と実際の罹患者数及び気象状況の相関関係を明確化できなかった。


家で寝込んでいる人間の情報を王都のかなりの範囲で直接記録できるとなれば、少なくともどういう気候状況の時に罹患者数が増減するかを明らかにするのはもう少し容易になるはずだ。


「ある程度情報が集まったら数学系の学者に手伝いを頼むんだな。

というか、情報を集める小神殿の分布の最適化にも数学者に関与してもらう方が良いんじゃないか?」

もう風呂に入って寝る。と立ち上がったリュウイチが助言を残して部屋を出て行った。


「数学者ねぇ・・・。

医療の話なのに、変に学者なんぞ巻き込まない方が良くないか?」

リュウイチの背中を見ながらメラクは呟く。


「どちらにせよ、増減が異常かどうかの判断基準を決めるには数字に強い人間に手伝ってもらった方が良いでしょう。

だとしたら最初から巻き込んだ方が、説明の手間が省けますよ。

どうせ手伝いを求めたら資金提供を見返りとして求められるのですから、予算的にはそれほど変わら無い」

肩を竦めながらザファードが答えた。

どうやら招かれ人の補佐役になって、随分と数字にシビアになったようだ。


明日は迷宮に戻ります。

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