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実は召喚したくなかったって言われても困る  作者: 極楽とんぼ


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91.簡易鑑定のアップグレード?(3)

「ちなみに、この世界って伝染病が流行った時はどういう対応要綱に従うことになっているんだ?」


考えてみたら、昔のスペイン風邪や天然痘、ペストといった様な多数の死者が出る伝染病はこの世界に存在するのだろうか?


魔物を倒すことで基礎能力が上がる世界である。

もしかしたら免疫力も上がって病気になりにくい可能性もある。

・・・にしてはそれなりの数の感染症にかかった人間が街を歩いていたが。


探索者ギルドでは確かに感染者の数が少なかったが、免疫力が高いから病気になりにくいのか、それとも病気でフラフラした状態で探索なんかしたら命とりだからギルドに来ていないだけなのか、不明だ。


「伝染病への対応要綱ですか?」

お茶を淹れながらザファードが聞き返してきた。


「簡易鑑定の腕を磨いて害意を感じられるようにしようとしたら、何故か罹患している感染症の情報が代わりに出てくるようになったんだ。

性病にかかるようなうっかりはするつもりは無いが、飛沫感染しそうな感染病の罹患者もそれなりの数がいたから伝染病とかの危険ってどうなのかな、と思ってね」


怪我だったら回復師ヒーラー回復薬ポーションもかなり劇的に効く。

だが、病気に関しては回復ヒーリングしようと思ったらかなり集中する必要があるために一人当たりの治療時間が長いし必要な魔力も多くなるので、回復師ヒーラーが対応できる数は限られてくる。

しょっちゅう流行する風邪やインフルエンザだったら神殿が薬を常備しているし、住民もそれなりに免疫を持っているから一度薬を貰えばそれでかなりの確率でそこそこ回復するだろう。


だが、珍しい病気や変異した病原菌などで今までの免疫が効かないタイプの病気が流行った場合にはどうなるのだろうか?


「王家や高位貴族の国の運営を担うことを期待されるような人間は、学生時代にそれなりに迷宮を探索して基礎体力を上げるとともに、成人後に1年程度スラム街でボランティアとして働くことを強く推奨されます。

彼らはスラム街で働く間は定期的に回復師ヒーラーに診てもらって感染症にかかっていたら悪化しすぎないように適度に治療をされます。

こうする事で全般的に免疫力が上がって今までの薬が効かないタイプの病気が流行ってもあまり重症化しないというのが過去の経験から導き出された結論です」

注いだお茶を隆一に渡しながらザファードが答えた。


「それはまた、随分と実践的スパルタな対応法だな」

腕の良い回復師ヒーラーの確保さえ出来れば、初期状態ならばほぼ全ての病気が治療できるこの世界ならではの慣習だろう。


「まあ、免疫力が得られるほど近づこうと思ったら、真面目にちゃんと割り振られた作業に参加しないと意味がありませんからね。

箱入りで育ったお坊ちゃま・お嬢様が現実を知る良い機会ですし、伝染病が流行した際に国の上層部が不必要に回復師ヒーラーの時間を取らないでくれるのはありがたいので、神殿も協力しています」


「王族や貴族じゃない人間はどうなるんだ?」


「文官や武官を目指す子供が通う高等学校では回復師ヒーラーのケアが在学中は無料です。

ですから先を読む能力がある人間は在学中に迷宮で体力をあげ、スラムでボランティア活動に励みます」


恐るべきスラム活用術。

これだけボランティア活動が活発なのに、スラムが無くならないことの方が不思議かも知れない。

まあ、組織的なセーフティネットが存在しない世界なのだ。どうしても社会の枠組みから零れ落ちてしまう人間がいるのだろう。


「凄いな。

だが、そうは言っても伝染病の流行っていうのは普段スラムですら流行っていない病気がどこかから入ってくるから爆発的に広がるんじゃないのか?

だとしたらそう言う病気には誰も免疫を持っていないと思うが」


ザファードが肩を竦めた。

「スラムと言うのは色々な人が集まる場所なのですよ。

だから意外と街中では知られていないような病原菌を持っている人間もいます。

栄養不足で生活環境も悪いから伝染病が流行った時の死亡率は高いですが、スラムで育った子供がもっと栄養状況の良い商家や貴族の家に引き取られた場合、どんな伝染病が流行っても生存率がずば抜けて高い事が今までの研究で分かっていますので、スラムで免疫が得られない病気は少ないみたいですよ?」


確かに隆一がスラムの傍で簡易鑑定の練習をしていた際、やたらと感染症にかかっている人間が多かったし複数の感染症にかかっている人間も多数いた。

あれだったら確かに生活環境が良くなれば病気に対してずば抜けて高い免疫力を発揮しそうだ。


「こちらの世界式の予防策は分かったが、実際に伝染病が起きた際はどうするんだ?」


「伝染病が起きた場合は発病が確認できた区域からの移動を禁止して、なんとか病気が広がるのを食い止めるよう努めて時間を稼ぎます。

その間に治療薬が分かっている場合は薬師や錬金術師がひたすら薬を大量生産し、分からない場合は薬師が必死に効果のある薬を探す間は回復師(ヒーラー)が魔力に任せて強引に治した患者から血清を取り出して錬金術師が治療薬を作ります」


もっとも、伝染病が広まって都市の機能が麻痺する前の段階で自分が『ただの風邪』でなく『厄介な伝染病』に感染したと気がつく人間は少ないので、伝染病の発生が確認できた時点で既に都市の大部分に広まっている場合が多いのですがね、とザファードはため息をつきながら付け加えた。


「だが、健康な人間は仕事に行きたがるだろうし、どちらにせよ食料を購入する必要があるだろう?」

病気で体が動かないならまだしも、罹患していない場合は近所の人間が風邪を引いたからといって自分が家にこもって収入を絶たれるいわれはないと主張する人間は多いだろう。


「すべての隔離区域の中には住民10日分の保存食が保管されています。

これは定期的に古くなったのが神殿での炊き出しに使われてその際に在庫確認しつつ補給されているので、伝染病が流行って区域を隔離してみたら食べ物が無かったという事は基本的に起きません。

また、伝染病の発生が確認された場合は家賃の徴収が禁止されるので、意外とその状態だったら自分が罹患する危険を冒してまで働きに行きたがる人間は少ないですよ」

ザファードが肩を竦めた。


家賃が徴収されず、食料も不味いとは言え(エナジーバーっぽい見た目の迷宮探索用の保存食を隆一も食べてみたことがあるが、栄養価が高くてもあまりにも不味く、味に比較的無関心な隆一ですら必要に迫られなければ食べたくないと思った物体だった)一応無料で提供されるのだったら、確かにそれで何とかなるのかも知れない。


まあ、住民が不法占拠していて人数が不明なスラムは微妙だろうが。


「家賃収入が無くなったら家主が干上がらないか?」


「都市の殆どの区画は王家か貴族が所有しています。

偶に大手の商家が土地を長期賃借して家を建てて従業員や一般へ貸し出す事業をする場合もありますが、その場合も伝染病の際の家賃徴収中止は契約の一部として組み込まれているので干上がるにしても自業自得です」


ヴァサール王国では地震が無いらしいので手抜き工事でもしない限りある日突然建物が倒壊するというリスクは無いようだが、代わりに伝染病が不動産業を営む業者にとってはそこそこなリスクらしい。


「まあ、伝染病が起きた場合に、大抵は病気が広範囲に広まりすぎてその都市の経済が滅茶苦茶になるので家賃収入がどうこうの前に破綻してしまう商家が多いのですけどね。

ところで。

簡易鑑定で感染病が分かるというのは、聞いたことがありませんがどうやるのです?」


異世界における投資リスクに考えを飛ばしていた隆一に、ザファードがぐいっと顔を近づけて聞いてきた。






伝染病を発生してすぐにキャッチできれば対応もずっと楽でしょうが、その為にどの位の人材を割けるかは微妙ですよね。

現実に起きている大問題の解決にかかる金は『必要不可欠』という事で削ろうとする人間もあまり居ないでしょうが、問題が大きくなるのを防ぐ為の予防策用予算というのは効果が必ずしも目に見えないからゲットするのもキープするのも難しそう。

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