90.簡易鑑定のアップグレード?(2)
隆一は2日間ひたすら魔力探知と簡易鑑定を行った。時には多く集まりすぎた破落戸を隠れていた護衛が街の衛兵を呼んで散らしていたようだが、取り敢えず本格的な襲撃は無かった。
おかげで魔力探知に関しては、レーダーのPPIスコープ(レーダーの位置を基点として、アンテナビームの回転に同期させて放射状に受信した信号を表示させるモニター)を模倣したような感じに100メートルぐらいの魔力感知の線で円を描くような形で探知させることで、ほぼ継続的に続けることが可能になった。
半径100メートルの円の中の全てを魔力感知していると情報過多になってしまい、どの魔力を簡易鑑定すべきか、どれが新しく現れたか等の判断がし辛いのだが、この形にすると随時感知に引っかかる対象の数が限られるので何かが自分に近づいてきたらそれを簡易鑑定で確認しやすいのだ。
魔力感知の範囲も瞬間的には狭いのを連続しているだけなので、魔力消費量もぐっと節約出来る。
ただし、簡易鑑定に関しては・・・。
残念ながら結局のところ『害意』を検出することには成功しなかった。
『自分への危険』に集中しながら頑張って簡易鑑定の精度を上げようとしていたら、何故か代わりに感染症の有無が分かるようになったが。
『人間:男』だった簡易鑑定の結果が『人間:男(梅毒感染中)』と変化した時、隆一は思わず『はぁぁ??』と声をあげてエイザックを驚かせてしまった。
簡易鑑定で得られる情報が増えたと手ごたえを感じて更に頑張ったのだが、結局感染症以外の情報は出てこず。
まあ、自分の周りの人間が感染症にかかっているかどうかを知るのは悪い事ではない。
性病はまだしも、肺病やインフルエンザ系の病気だったら不必要に近づかない方が良いし、赤痢やコレラ系の病気だったら神殿か水源を管理する機関にでも問題提起をした方が良いだろう。
結局2日目の午後になって害意の感知を諦めた隆一は、街中を歩き回って最終的には探索者ギルドに寄って魔力感知と簡易鑑定を使い続ける練習をした。
その結果。
この世界、意外と感染症にかかっている人間が多い。
まあ、地球の人間のどれだけの数が感染症にかかっていたのかという情報はどこにもなかったので、この世界が地球に比べて感染症の人間が多いのかどうかは不明だが、少なくとも隆一が思っていたよりは多かった。
もっとも性病にかかっている人間の数はスラム街を離れると大分減ったが。
実質自営業となる隆一は健康保険とか病欠といった制度に関して興味が無かったので特に尋ねなかったが、考えてみたら風邪やインフルエンザに罹った人間が無理して働き続けたら周りにもうつしまくるだろう。
うつされる対象として自分も入るとしたら『関係ない』と無関心ではいられない。
感染症にかかってもそのまま働いているらしき人の多さに多少なりとも危機感を感じた隆一は、神殿に帰ってからザファードにそこら辺に関して確認することにした。
「健康保険?
健康でいられるか否かに関して保険を掛けるのですか。
面白い考え方ですね。
ですが貯金すればいい話ではありませんか?」
健康保険の有無について尋ねた隆一に返されたザファードの返答は、微妙に思っていたものと違った。
確かに民間の医療保険などは特定の高額治療を必要とする病気になるか否かに関して自分で保険をかけているようなものだが、日本人であった隆一にとって『健康保険』というのは『すべての国民が負担する事で、金がない弱者でも医療ケアを受けられるようにするシステム』である。
ある意味、そう考えると『健康保険』と言う名称はちょっと語弊があるかもしれない。
社会保険の一部としての制度と考えれば社会全体のセーフティネットとしての『保険』で間違いは無いが、国民皆保険制度はある意味余裕のある人間から取った保険金と税金を使って余裕のない人間の医療費を負担している制度だ。
まあ、現時点で高給取りであっても、将来的に失業するなり病気になるなりして収入が減って保険が無ければ医療費が払えない状態になるかもしれないのだから、『保険』であると言っても間違いでは無いかも知れないが。
そんなことを考えながら隆一は自分が知りたかった点に関してもう少し尋ねることにした。
「医療費を払えないような社会的弱者が治療を必要とするような状態になった場合の救済制度ってあるのか?」
ザファードが肩を竦めた。
「見習い回復師の練習台として、怪我ならばある程度治療してもらえる事が多いです。
探索者ギルドのような荒事関連のギルドのメンバーでないと、神殿に来て順番待ちすることになるのでかなり時間が掛かりますが。
病気の場合は・・・神殿の炊き出し等で手伝いをすると代価チップという小さな石片を貰えます。
これを持って行くと良くある流感の薬だったら1個につき1回分、貰えます。
ですから医療費をためるだけの余裕がない人は神殿の炊き出しの手伝いに来ます」
つまり、炊き出しの手伝いに来るほどの計画性のない人間は、誰か家族か友人からその代価チップを貰えない限り自力で回復する以外手はないという事らしい。
とは言え、適度に自助努力っぽい感じが気に入った隆一だった。
「それって誰が資金負担しているんだ?
炊き出しの手伝いなんて、薬代とは釣り合わないと思うが」
「国からの予算と貴族や大手商会からの寄付がかなりの部分の費用を補填してくれています。
この制度を提案したのが200年ぐらい前の招かれ人だった関係か、異世界人基金からも毎年定額が寄付されているはずですよ」
どうやら国民皆保険は非現実的という結論に達した過去の招かれ人が代替案として提案したらしい。
ちょっと簡易鑑定のアップグレードから話が派生中・・・。




