9.デヴリン・アシュレンの事情2
「よう、最近はどうだ?」
カウンターの奥にある小部屋に連れ込まれたデヴリンにダルディールが尋ねてきた。
「まあ、特に変わりはないな」
「・・・セラちゃんは?」
「セラもだ。
悪化はしていないが良くもなっていない」
デヴリンの妹は幼い頃に弛緩病を発病し、今では殆どの日はベッドから出ることが出来ない。
妹の発病は学生だったデヴリンが騎士でなく探索者になることを決めた理由の一つだった。
迷宮の最下層部ではエリクサーが宝箱から出てくることが有る。
またダンジョンマスターを倒して神と対話できれば、妹の完治を願うことも出来る。
そう思ってひたすら強さを求め、迷宮を探索してきたデヴリンだったが・・・最下部にたどり着ける金ランクのパーティでも、ダンジョンマスターを倒すことは難しい。
あと一歩足りず、撤退することを繰り返し、『世界樹の白杖』があれば今度こそ迷宮の制覇が出来る!!と思っていたところでのレディーナの裏切りは痛かった。
人の目の届かぬ迷宮の最下層で、一生遊んで暮らせるほどの宝を見つけることがある探索を続けるには、信頼できる仲間が必要不可欠だ。
レディーナの裏切りは、最高の組み合わせだったパーティを壊しただけでなく、パーティを組むための信頼する心にも大きく傷をつけたのだ。
デヴリンの父が死んだこともあり、兄が家を継いだとは言え騎士である兄ではもしもの時に妹の面倒を見ることが出来るか分からないという心配もあったことから、デヴリンはパーティの崩壊を機にいつ死ぬか分からない探索者を辞めて騎士になった。
それでも諦めきれずに空いた時間には迷宮を探索し続ける自分の中途半端さは何ともやるせない。
そんなことを思っていたデヴリンに、席に着いたスフィーナが声をかけてきた。
「去年召喚されました招かれ人のリュウイチ様が、基礎能力を上げる為に迷宮にもぐることになりました。
神殿としては騎士団のデヴリン殿と探索者ギルドのダルディールに付き添いをお願いしたいとのことですが、依頼を請けていただけますか?」
招かれ人。
そう言えば召喚が行われたと耳にした。
おとぎ話にあるような聖女が召喚されたらセラの治療を頼めるかも、とも密かに期待したのだが現れた男女の内の女は装飾士とかいうギフト持ちだったらしい。
男の方は錬金術師との話だから、どちらも難病の治療は無理だろう。
「ダルディールはまだしも、騎士は俺みたいな変わり者ではなく、正規の騎士が行った方が良いんじゃないか?
騎士と探索者の両方をつけるのって元々変な癒着が迷宮の中で起きないようにするためなのに、元パーティ仲間じゃあ不味い気がするが」
面倒だし。
スフィーナが肩を竦めた。
「名目上の独立性よりも、当事者たちへの信頼性の方が重要ですから。
そう言えば、リュウイチ殿は錬金術師ですが、医療特化の錬金術ギフト持ちらしいですよ?
元の世界では薬の開発が専門だったそうで」
医療特化の錬金術師???
もしかして、エリクサーを造れるようになるのか??
だとしたら、迷宮で基礎能力を上げることに協力すれば将来的にエリクサーを錬金できる可能性が高まるし、妹の為に協力してくれる・・・かもしれない。
ごく稀に迷宮の最下層の宝箱からエリクサーが発見されることがあるが、5年か10年に1度といった頻度だ。
これでは入手は実質不可能と言っていい。
自分で見つけたのでない限り、デヴリンにとって入手出来る可能性はほぼ皆無だ。
だが、もしも年に1本でも常時エリクサーを創ってもらえるとなったら・・・世界が変わると言って良いだろう。
国も神殿も探索者ギルドも、喉から手が出る程エリクサーが欲しいと言うのが本音だろうが、招かれ人に何かを強制することは禁じられている。
そう考えると、医療特化の錬金術師である招かれ人の基礎能力を上げることで錬金できる回数を上げ、迷宮を見せることで錬金の材料となる物を見せるということは理に適う。
家族に不治の病に侵された者がいる為に魂を売ってでもエリクサーが欲しいと思っているデヴリンのような人間を迷宮探索の付き添いにするのは、それとなくエリクサー作成へ誘導するのにも有効な手だろう。
もっとも、招かれ人が迷宮にもぐる為の助っ人と仲良くなるようなタイプかは不明だが。
とは言え、可能性がある限り、断ると言う選択肢はない。
「分かった。
請けよう。
いつから潜るんだ?」
ちなみに、デヴリンの妹は一応高額な錬金術師の医療ポーションを貰っているので悪化がほぼ抑えられており、寝たきりに近いですが余命宣告を受ける程切羽詰まってはいません。
デヴリンが死んだり怪我をしちゃって収入が途絶えて医療ポーションが途絶えたら2年ぐらいで悪化して死んじゃうでしょうが。
なので余計無理が出来ず、デヴリンも歯がゆい思いをしているところです。




