89.簡易鑑定のアップグレード?
「あ、今日は護衛の誰かに付いてきて欲しいんだけど、それなりに腕がいい人を頼める?」
朝食から帰ってきた隆一はザファードに声をかけた。
隆一の迷宮探索休み1日目はデヴリンの副官への残業補填品の作成とスケジュール調整のミーティングで潰れたが、今日と明日は新しく出来るようになった技能を更に便利に出来ないか、試すつもりだった。
「貴方の護衛は皆腕利きですよ。でも珍しいですね、自分から護衛を求めるなんて。
何を企んでいるんです?」
ザファードが疑わし気に隆一を睨みつける。
「ちょっと、今日は治安があまり良くない地域に行ってこっちを襲いたいと考えるような人間の注意を引きたいんだよね。
実際に襲われるかどうかは微妙だし、いざとなれば魔道具で足止め出来るから対応は可能だと思うけど、態々危険だと分かっていることをやるつもりなんでそれなりに腕がいい人に付いてきて欲しい」
「はぁぁ??」
ふざけんなこの野郎と言いたげなザファードの顔に、説明なしでは神殿から一歩も出られなくなりそうだと判断した隆一が説明を続けた。
「ここの所、集中的に鍛錬したお蔭で魔力感知が出来るようになったのは言っただろ?
ついでにこの魔力感知で探知した対象の簡易鑑定も出来るようになった。
まあ、出てくる情報は『オーク:雄』という程度なんだけど。
どうせならこれをもう少し精度を上げて人間の害意を読み取れるようにならないか、実験してみたい。
だから良い服を着て適当に屯っていたらゴロツキが襲い掛かろうとしてくるような治安の悪い地域で害意の持った人間相手に練習しようと思って」
殺意や人の注意というのは相変わらず感知できない隆一だが、幸いにも陽と陰から構成されている関係上、この世界では全ての生き物がある程度の魔力を持っている。
だから人間も魔物と同じで魔力感知できるのだ。
そして隆一は魔力感知を元に簡易鑑定が出来る。たとえ現時点では『人間:男』というレベルの情報だとしても。
鑑定と言うのは魔術全般の中でも特に使用者の知識と意図に柔軟に対応する術だと隆一は考えている。
現に、回復師として練習していた頃は、日本での具体的な検査を念頭に置きながら鑑定を掛ける事でほぼ同じような情報が得られるようになった。
害意と言うのは『意図』であり、肉体的な状態の情報ではないので鑑定できない可能性はあるが・・・元々鑑定と言うのはアカシック・レコードから情報を抜き出してくる良く分からない魔術だ。
だとしたら本人のこちらに対する意図だってアカシック・レコードから読み取ってくれてもいいのではないかと隆一は考えたのだ。
『殺気を読む』というのだって無意識化での鑑定に近いのではないかと勝手に想像しているし。
まあ、実際に魔力感知から害意を読み取れる簡易鑑定が可能になったところで、じっとどこかに座って周りに注意を払っているのならまだしも普通に歩き回っていたり空を飛ぶのを楽しんでいたりしていたら、害意を察知する簡易鑑定を周囲に掛けるのは無理だとは思うが。
でも、技能として身に着けておけば役に立つ可能性も高い。
攻撃から身を守る何らかの魔道具を開発するのとは別に、こちらのスキルを習得できないか、試してみることにしたのだ。
ザファードがため息をついて立ち上がった。
「まあ、良い服を着て治安が悪いところに貴方が迷い込んだらどうなるかを護衛付きで実体験しておくのも悪くはないでしょう。
見た目があまり強くなさそうで腕がいいのに同行してもらいましょう」
「よろしく~」
◆◆◆◆
「襲いたがる人間が多いところに態々行きたいなんて、相変わらず変わってますね~」
エイザックがのんびりと街中を歩きながら声をかけてきた。
錬金術ギルドに行くときなどによく護衛に付いてくれたエイザックだが、意外にもそれなりに腕利きらしい。
意外にと言ってはいけないかもしれないが、態々治安が悪い場所に行くときに選ばれるほどの腕だとは隆一は思っていなかったので、ちょっと驚いたのだ。
まあ、見えないところで更に数人付いてきているようだが。
魔力感知を覚えて、自分と同じ方向に動き続けている魔力を見つけられるようになった。
まだ歩きながらだと魔力感知を継続し続けられないのでちょくちょく途切れているのだが、それでも同じ魔力の質と量の存在が毎回魔力感知をする度に周囲に居れば、尾行されているか隠れて護衛されているか、どちらかなのは分かる。
こうやって学んでみると、魔力感知も意外に対人の自衛手段としてもそれなりに役に立ちそうだ。
これで害意まで感知できるようになれば更に良いのだが・・・。
悪人に尾行されていたのに護衛がついてきているだけだと思っていたら却って危険だ。
まあ、神殿の護衛だったら人数が限られているので全員の魔力のパターンを覚えれば警戒対象から除外できるが、相手が買収される可能性だってある。
招かれ人である隆一を襲う計画に加担する人間は神殿には居ないだろうが、普通の被襲撃者にとっては中々頭の痛い問題だろう。
取り敢えず、50人程度ヤバそうな相手が向かってくるのを簡易鑑定してみて、何とかなってくれる事を期待したい・・・。
休暇のはずなのに鍛錬しちゃう、凝り性な隆一。




