87.鍛錬:副官へのとばっちり
「ここ数日、こちらの都合で副団長を長時間拘束してしまったせいで貴官の残業時間が増えてしまっただろう?
騎士団の士官に残業手当は無いと聞いたから、代わりにこれを貰ってくれ」
重量軽減の魔道具を入れたバックパックをデヴリンの副官の机の上に置きながら、隆一は内心小さくため息をついていた。
結局、魔力感知を学ぶのに5日程かかった。
7階の魔物は中級魔物でありそれなりに魔物が強くて感知しやすい相手なので、明日は4階の林蛇や、2階の一角兎を相手にもちゃんと感知できるか精度を確かめる予定だが、コツはつかめた感じなのでもうあと数日で感知能力は問題ないレベルまで上がるだろう。
相変わらず、殺気に対しては鈍感なので対人間の攻撃に関しては何らかの手立てを考えたほうがいいが。
魔物は基本的にどんな隠密タイプだろうと魔力そのものを隠すことは出来ないらしいので魔力感知があれば探知できるのだが、人間の場合は魔力を吸収して放出量を最小限に抑える魔道具があるらしいので、人間から狙われる状況になった場合は魔力感知を過信するなとも警告された。
『招かれ人だと分かっていて襲ってくる人間はいないだろうが、ちゃんと下調べせずに襲ってくるバカとかリュウイチが誰かを助けようと首を突っ込んで巻き込まれる場合もあるだろうからな。
人間にとって、一番危険な敵は人間なのさ』
そう話したデヴリンはどこか悲しげだった。
まあ、超一流の探索者だったのだ。
それなりに高額な資材や宝をゲットし、それを狙う人間に襲われたこともあるのだろう。
そんなことを考えながら隆一はデヴリンの副官の部屋で出されたお茶を手に取った。
魔力感知の習得に目途がついたので息抜きとして3日程迷宮探索を休むことにした一行なのだが、隆一はこの際に自分の鍛錬による周りへの迷惑を最小化する為にスケジュール調整をきちんと確認することにしたのだ。
ダルディールの方は、元々職務がかなり流動的な上に王都だけあって探索者ギルドには複数の元高ランク探索者の職員がいるので、隆一関連で拘束時間が増えても特に問題なかった。
ダルディールの言葉もそれなりに信頼できたが、念のためにスフィーナにも確認したところ、
『元々、王都という破棄できない場所柄から近辺で大繁殖が起きても対応できるように多めに人員を配置しているので、一部職員が待機と称して酒場で元仲間と駄弁る時間が減った程度の事ですから全く問題ありません』
と太鼓判を押された。
だが、デヴリンの方は・・・本人は『大丈夫、大丈夫、俺の副官は有能だから!元々有事以外は俺が役立たずなのは騎士団も織り込んで人員配置しているし』と言っていたが、考えてみたら飛行船を見せてもらいに行った時だってそれなりに決済を要する書類があったのだ。
幾ら副官が有能でも上司が1日おきどころか1日おきに半日だけしか来なくなっては皺寄せが行っただろう。
鍛錬の為の追加探索を午前中半日とすることで、当然夕方〜夜に残業して削った分の労働時間分をカバーしているものと隆一は想定していた。だからデヴリンには何か追加で礼をしなければと思っていたのだが・・・休みの前に確認したら、何と残業はほぼしていないという想定外の返事が来た為にあわててデヴリンの副官に会いに来たのだ。
以前、アーシャの話から騎士団の士官には残業手当が出ないという話は既に聞いている。
だからこそデヴリンにはお礼に何か渡さねばと思っていたのに、実はとばっちりは副官の方にいっていたことが判明したのだ。
分かっていたら鍛錬のスケジュールに関してもっと早くデヴリンの副官と調整しに来たのだが。
デヴリンの呑気なマイペースさを過小評価していた。
「使用上の注意事項を記した紙が中に入っているが、底辺部の二重底になっている部分に重量軽減の魔道具が入っている。
どのくらいの時間を使うかで魔石の消費量が変わるから、出来れば本格的に使う前に試用して必要な魔石の量を確認しておく方が無難だ。
俺の我儘から生じた残業時間への支払いのような物だから、あまり使い道が無い様だったら売るなり誰かに贈与するなりして構わないから好きにしてくれ。
ちなみにそのバックパックその物もかなり強い生地で出来ているので、何だったら魔道具だけ売り払うというのも手かもしれない」
デヴリン達のように個人的に迷宮に潜っているのならまだしも、普通に騎士団で働いている士官に重量軽減の鞄が必要かどうかは微妙なところだが、売ればいい収入になるだろうということで実用性に関しては極端に気にせずに渡すことにした。
「え、重量軽減の魔道具を売るなんてあり得ないですが・・・良いんですか、貰っちゃって??」
副官が慌てたように机の上に置かれたバックパックを手に取る。
「俺が造った試作品だから気にしないでくれ。
一応使い勝手は護衛役の元探索者2人に確認してもらったから短期的な使用に関しては大きな問題はないと思うが、軽減した重量に応じて魔石を使うので気を付けた方が良いぞ」
日本だったら自衛隊相当の国家軍事力の団体である騎士団の士官がそれなりに金銭的価値のある物を受け取るのは禁じられただろうが、商業ギルドでザファードが対応する羽目になっていたようにこの世界で心づけは社会的関係の潤滑油の一部という一面もある。
アーシャに慌てて相談してみたところ、隆一が金を払いたいと言っても『貸し』を作りたい騎士団の上層部から『遠慮』されてしまう可能性が高く、本人にとって使い勝手が良い可能性があり、換金価値も高い『試作品』を渡すのが一番無難だろうと言われた。
「デヴリンの時間を取っていた俺の鍛錬が一区切りついたんで今日を含めて3日程は休みなんだが、その後はまたちょっと集中的に時間を取りたいとも思っているんだが・・・本来ならデヴリンの予定はどんな感じだったのか、教えてもらえるか?
俺の手伝いに時間を取られるのが騎士団のスケジュールと衝突しそうだったら調整する」
というか、1日おきにデヴリンが隆一の護衛をすることになって、騎士団的に本当に大丈夫なのだろうか?
ここで残業していれば、今はまだ隆一の技量的に無理でも将来的には妹の治療での助けを頼めたのに、勿体無いことをしたデヴリンでした・・・。




