84.鍛錬する?
「こちらを使ってくれ。
取り敢えず、成人男性が背負う場合ならしゃがんでも術式の効果が変わらない位置にバックパックの底を調整した。
色々付き合ってくれていることのお礼もかねて試作品としてプレゼントするから何か気が付いたことがあったら言ってくれ」
飛行船を見て回った後、隆一は部屋で色々と試行錯誤したのだが・・・結局効果と複雑さを考えると一番現実的な解決策はバックパックの容量をあまり縦長にしなければ良いという結論に達した。
反重力の範囲を指定する場合、最低でもその効果が及ぶ範囲の外辺の角に指標を設置しなければならない。
この設置範囲が術式の効果が変わる地表膜にかかると、大部分の反重力の範囲が地表膜から出ていても何故かバックパックが地表膜の範囲に出入りする際に変な反動を感じることになる。
バックパックのサイズは変えずに反重力の及ぶ範囲として指定する部分を高めに設定してはどうかとも思ったのだが、そうするとそれより下に入っている荷物の重量は軽減されず、バックパックが重くなるだけでなくかなりの負荷が生地にかかってしまうことで底(というか範囲指定から外れた部分)が破け落ちるのがほぼ確実な状況となってしまう。
しかも範囲指定する形だとバックパックの上に飛び出した荷物は重量軽減されない。
色々と試行錯誤したのだが、『荷物が多いんだったら運搬用魔道具を使え!』という結論に達し、バックパックの縦の長さをしゃがんでも30センチ程度は地表から浮くサイズに抑えることにしたのだ。
「おう、ありがとうよ。
昨日は半日で視察が終わったとアーシャは言っていたが、何か役に立つ情報は手に入ったか?」
バックパックを受け取りながらデヴリンが尋ねた。
「色々と面白い発見があったよ。
まずは機能を制限した個人用のちょっとした飛行魔道具を作れないか試すことで反重力の魔法陣に慣れてみようと思っている」
読めば何が書いてあるか分かるとはいえ、飛行船の反重力の魔法陣は1メートル平方の板にぎっしり書き込まれている術式なのだ。
普通のA4紙にして10ページ相当ぐらいはあるプログラムなのでどうしてもざっと目を通すだけでは見落としが生じる。
実際に自分で作ろうとして、バックパックに使った単純な基本術式と比べることでもっと詳細に理解できるだろうと隆一は考えていた。
「ふうん。
ちなみに、その個人用の飛行魔道具でどこに行くことを想定しているんだ?
街中で飛び回るにしても貴族の屋敷の敷地内に入ったら面倒なことになるし、かといって王都の外を飛び回ると下手をすると魔物とかに行き当たる可能性もあるが」
デヴリンがバックパックにランチやその他の荷物を詰め直しながら聞いてきた。
「・・・あまり考えてなかったな。
適当な公園や牧場の上ででも飛べばいいかと思っていたが、やはり危険か?」
「王都の中で飛ぶ場合は余程しっかり周知しないと、下手をすると新型の飛行型魔物だと思われて攻撃魔法を食らう可能性がある」
ダルディールが口を挟んだ。
「騎士や衛士には周知出来ても、魔物が侵入したと誤解された場合に参戦してくる探索者にまで全部周知というのはかなり難しいぞ」
デヴリンが顎を掻きながら付け加えた。
新型の飛行型魔物が王都の上空を飛んでいるなんて住民がパニックし始めたら、通りすがりの魔導士や探索者が善意でそれを打ち落とそうとしかねない。
探索者は遠方から来たばかりだったり久しぶりに迷宮から出て来たばかりと言った周知を出来ていなかった人間の方が攻撃力が高かったりするので危険だ。
「う~ん。
保護結界を張ったまま飛び回るというのは魔力の消費が大きくなりすぎそうだが・・・。
どのくらい周知したら飛び回っても安全になる?」
デヴリンがため息をついて傍のベンチに座り込んだ。
「リュウイチ。
そろそろ確認したいんだが、お前さんはどのくらい自分の腕を磨きたいんだ?
迷宮に入って適当に護衛されながら魔物を倒して歩き回っていればそれなりに基礎能力や体力は上がる。
もう少し今の様な探索でも続けていれば飛んでいる時に攻撃を受けても初撃で死なない可能性も高くなるだろう。
でも、それは『初撃で死なない』という程度だ。
自分で攻撃を察知出来て避けられるようになるにはもっと訓練が必要だが・・・そこまでやる気はあるのか?」
戦闘用の訓練を受ける気があるのか。
非常に根本的な質問であり、今まで隆一が考慮する必要があるとすら考えていなかったポイントだった。
空飛んであちこちふらふら移動するとなると危険度ががっつり上がっちゃうので、それなりに腕を上げないと護衛付きの日々に後戻りかも?




