82.飛行船視察(3)
「『今期は飛行船担当』という話だが、アーシャも飛行船を飛ばす乗務員として乗るのか?」
運転席へ進みながら隆一はアーシャに尋ねた。
「いや、乗務員は騎士とは違うスキルが必要だからな。
国軍の飛行船乗務員は違う部署でまとめて雇用されて訓練を受け、各部署へ配置されるんだ。
だから私の担当しているのは格納庫の鍵と、消耗品の再補給だな。
こちらは何故か騎士で交代制なんだ」
アーシャが説明しながら保存食の入っているロッカーを開けて見せてくれた。
「まあ、いざという時に消耗品が無くって辛い思いをするのは騎士だからな。
内部で管理する方が、他の部署から派遣される人間に頼むよりも安心なんじゃないか?」
隆一は肩を竦めながら答えた。
乗務員がどの程度の頻度で配置換えになるのかは知らないが、めったに使わない消耗品の場合だったら自分が移動した後まで使われないことに賭けて粗悪品を買って差額を横領する人間が出るかも知れない。
もしくはそう言う不正が基本的に無いのだとしたら、騎士団の補給係を通して手配したほうが大量購入の割引が効くとか。
でもそれだったら態々戦闘職の騎士に担当させる必要は無いだろう。
そう考えると、飛行船の消耗品は物によっては使用頻度が少ない為に過去に横領が問題になった可能性が高そうだ。
「確かに保存食は古くなると本当に不味いからな。
自分が担当していると、古くなりかけた保存食を遠征に行く連中に使わせて新しいのを入荷すると言った工夫が出来るから、急襲の後の疲れ切った時に黴臭い保存食を食べる羽目になるのを避けられて私としては悪くない当番だと思っているよ」
そんなことを話しながら二人は運転席に到着した。
後部の壁一面が保護箱を収めた棚になっている。
「こちらが飛行を制御する魔道具のパネルだ。
船体のあちこちに設置されている風魔法の魔道具をまとめ上げてコントロールする機能を持つ」
左側の引き出しモドキな保護箱を引っ張りながらアーシャが言った。
「へぇ。
先ほどの反重力の魔道具よりも更に複雑だな」
魔法陣を見ながら隆一が呟く。
「ああ。
しかもこちらの魔道具ともつながっているから、修理が必要になったら半年ぐらいかかるほどに複雑で手に負えない」
ため息をつきながらアーシャが右側の保護箱を引っ張り出して見せた。
どうやら、右側は飛行船のバランサー機能を制御する魔道具のようだ。
左側はある意味もっと単純に上下左右に船を動かすために風魔法を起動させるのを制御する魔道具だが・・・どうやら右側のバランサーで制御しきれないほどの力がかかった時に船のバランスを復活させるためにこちらも使われる仕組みになっているせいで、やたらと複雑な構造になっている。
「これ、誰かが後付けで機能を足しただろ?」
バランサーは機能がデリケートなコントロールを必要とし、また飛行船内の重量の偏りや外部要因(主に自然環境)に対応する為に数多の条件付けがなされていて複雑な魔道具になっている。
だが、少なくともその魔法陣の構造そのものは非常に効率的で無駄は無いように見える。
推進制御の魔道具も大元の機能はごく単純な作りになっていたのに、その後にバランサーが出力不足な時にそれを補う機能を付け足そうとしてやたらめったら複雑な条件付けがされている。
どう考えてもバランサーと大元の推進制御を設計したのと同じ人間が造った様には見えない。
「元々の機能はレティアーナ殿が造ったと聞いている。
その後、山脈寄りの風が強い地域にも人が住むようになってそちらへ飛行船が行くことが増えてきて、騎士団の強い要望で錬金術ギルドがより強い風に対応できるように手を加えたらしい」
アーシャが肩を竦めながら答えた。
「で、修正をした際に想定しなかった何かが起きるたびに不具合が起きて、修理を加え、そのせいでどっか別のところで問題が起き、それを直したと思ったらまた想定しなかった条件が出てきた・・・という感じか?」
プログラムを行き当たりばったりに修正・更新している間に収拾がつかなくなったスパゲッティプログラムに起きがちな問題だ。
どうせなら全部をもう一度最初から作り直した方が効率的だしメンテナンスもしやすくなるのに、初期投資が大きすぎると上がケチるせいで細かい出費がひたすら続くケースだ。
大抵そういうシステムだと穴がありまくりで、ホワイトハッカーの依頼を受けた時は指摘事項が多すぎて報告書が呆れる程分厚くなったものである。
「・・・まあ、最近の飛行船は昔に比べると大分デリケートになったと古株の連中は言っているな」
強風にも立ち向かえてより多くの状況で使えるように手を加えたはずなのに船体がデリケートになってしまうなんて本末転倒な気がするが、隆一の知ったことではない。
取り敢えず、このバランサー機能をもっと単純な形で拝借できないか研究してみよう。
(と言うか、自分で飛ぶだけだったらスノーボードみたいな感じにして推進機構だけをつけて、バランスを取るのは自分の体を動かして何とかすると言うのもありか?)
ふと、そんな考えが隆一の頭に浮かんだ。
隆一は日本では大学時代にスキーをやっていたが、アメリカに留学した際に友人の勧めでスノボーに乗り換え、それなりに使いこなせる様になった。
隆一でも問題なく滑るのを楽しめたのだ。
あれだったら極端にスピードを出したり出来ない様にすれば、軍人や探索者と言った戦闘派な肉体労働者が使うのには問題ないだろう。
とは言え、スノボーでボードから転がり落ちてもすぐ側の雪の上に倒れるだけだが、空を飛んでいるボードから落ちたら高さによっては致命的になる。
また、ボードがひっくり返った場合に姿勢を元に戻せるかという問題もありそうだ。
でもまあ、自分の遊び道具だったら安全装置を付ければバランサー機能は無しでも良いかも知れない。
隆一は空飛ぶ魔道具を自分のお遊び用と思っているので色々割り切っちゃって考えてます。
運搬具は一般用に売り出す為なのでもっと色々安全対策とかがっつり考える予定。




