81.飛行船視察(2)
飛行船の魔法陣は錬金術ギルドに登録されていた反重力の魔法陣に比べるとかなり複雑なものだった。
ある意味、錬金術ギルドの魔法陣は『反重力』の紹介の為の最小限の登録だったと言っても良いかも知れない。
面白いし研究すれば限りない可能性があるが、軍事利用出来るような詳細は含まれていなかった。
軍の飛行船はバッチリ軍事利用の為に最適化されている。
ある程度は秘密保持の為にか複雑化されていたが、異界言語理解のお陰で隆一には特に問題なく理解できた。
招かれ人にこれをあっさり見せて良いのかねと密かに心配になったぐらいである。
それらの術式を大雑把に書き写し、読み解いて覚書をメモしている隆一から思わず感嘆の声が零れた。
「凄いな、浮いているかどうかを察知できるのか」
「空を飛ぶ魔道具なんだ、着陸の度に地面に激突していてはどれ程頑丈な素材を使っても直ぐに使い物にならなくなる。
浮いているかどうかを認識できなければその方が問題じゃないのか?」
後ろから隆一の作業を覗き込んでいたアーシャが尋ねる。
「理想としては確かに地表からの距離とか空での高度を知るのは重要だが、それを行う為の術式はかなり複雑になる。
だからてっきり反重力でがっつり力を籠めて宙に浮いて、後は風魔法か何かで補助しているのかと思っていたんだが・・・ちゃんと飛び立とうとしているか着陸しようとしているかの指標に従って、地表に近いか否かを把握して反重力の術式へ流す魔力を制御しているんだ。
想像以上の精度だ」
とは言っても、高度計がある訳ではない。
『地表膜』の中にいるか外にいるかで浮いているか否かを認識しているようだ。
「術式効果の変わる高さの事を『地表膜』として定義出来ているのか・・・」
反重力の術式の一つの要素として、改めて定義を要することなく術式効果が強い部分を『地表膜』という言葉で表わせるらしい。
それとは反対に、反重力の力を及ぼす範囲を指定する指標はこの魔法陣の中で定義している。
(一種類ではなく複数の指標を定義付けできるな・・・それがどう活用出来るかはまだ思いつかないが)
そんな事を考えながら隆一は船体を簡易鑑定して、目の前の魔法陣で定義されている範囲指定の指標を探してみた。
最低でも指標の一つに魔法陣をリンクさせる必要があるようなのだが、軍の船であるこの飛行船は安全確保のためにか3か所程リンクしているのが鑑定で見て取れる。
「ちなみに、この魔法陣だとある程度の高さに浮いた後はそれ以上のことをしてくれないようだが、建物にぶつかったり丘に衝突したりしないようにどうしているんだ?
目視飛行だとしても、曇りや雨の中を飛んだらヤバいだろうし、夜に飛ぶ必要がある時も無いか?」
魔法陣を一通り見終わった隆一は、後ろから興味深げに彼が書き上げているメモを覗き込んでいたアーシャに尋ねた。
「レティアーナ殿は飛行船を発明した際に、地表からの垂直距離を認識する魔道具も開発してくださった。
どこを飛んでいるかは通信具の機能を応用した魔道具で大体把握できるので、それに地図を合わせて必要な高度を取るようにして飛ぶんだ。
だから飛行船を飛ばす時は現在地を把握して舵を取る役と必要高度を確認して上下挙動を調整する役とで最低でも2人は必要になる。
まあ、それだとぎりぎりになるので大抵は確認係と運転係と2人ずつで計4人で飛ばすことが多いが」
離着陸がほぼ自動で出力管理できるので飛ばすのはオートパイロットに近く楽かと思ったが、飛んでいる高度と緯度経度の把握、およびそれに対応して船体を動かすのは色々大変なようだ。
「・・・つまりそれって乗務員が怪我していて一人しか運転する人間がいないと、飛ばせないということになるのか?」
軍の飛行船としてはちょっと微妙な気がする。
まあ、安全対策として絶対に運転役を飛行船から出さないようにするのかも知れない。
というか、考えてみたらSEALとかCIAのブラックOpとかのドラマだと飛行機のパイロットは戦闘に参加はしていなかった。
うっかり全員出払っている間に飛行船を盗まれたりしたら大問題だから、乗務員が見張りを兼ねて残るのは当然か。
そんなどうでもいい事を考えながら反重力も魔道具を引き出しモドキの中に戻し、推進関係の魔道具を見るために運転席へと移動した。
空を飛ぶ魔道具は本当に面白い。
オリハルコンを使っている為にサイズを最小限に絞った今回の魔法陣でも1メートル四方ぐらいあるので、このままでは個人で空を飛ぶ道具を造るのは難しいが、アイディアをちょくちょく借りて何とかしてみたいものだ。
とは言え、最初はまず運搬用魔道具を何とかしないとあちこちからそれとなくせっつかれそうだが。
ジュラルミン合金を使ってこの魔法陣をほぼそのまま再現したらどうなるのか、実験してみても良いかも知れない。




