80.飛行船視察
「おはよう。
相変わらず時間通りで助かる。
こっちにあるから来てくれ」
デヴリンが取ると言っていた騎士団長からの許可に関しては問題は無かったらしく、朝食を食べに食堂に降りて行ったら『9時に来てくれ』といった旨の連絡がきていた。
ということで第2騎士団の副団長室に来たのだが・・・。
意外にも、執務室っぽい雰囲気だ。
本棚が壁の片側を埋めており、そこには色々と書類やら本が比較的整理された感じで陳列している。
机の上も書類がそれなりにたまっていたが、ちゃんと未決済箱と決済済みの箱に分かれており、朝早くだから殆どの書類は未決済箱に入っているとはいえ、一応1日で処理できそうな量だった。
デヴリンは意外と事務処理能力があるらしい。
・・・もしくは有能な副官がいるようだ。
部屋の中をじろじろと見ていた隆一にちょっと居心地悪そうな顔をしたデヴリンは、さっさと机の後ろから立ち上がって部屋を出る為に扉へ向かった。
どうやらデヴリンはデスクワーカーとしての自分はあまり人に知られたくないらしい。
(ダルディールにでもからかわれたのかな?)
そんなことを考えながら隆一がデヴリンの後をついていったら、空港の格納庫のようなガランとした倉庫のような場所に案内された。
「あれ、お久しぶり」
そこで飛行船の前に立っていたのはアーシャだった。
相変わらず仮面をつけている。
「ああ、急に見学者が決まるなんて誰かと思ったらリュウイチか」
どうやらアーシャも誰が来るのか聞かされていなかったらしい。
「あれ?
アーシャの事を知っているのか?」
二人の態度にデヴリンが驚いたように目を丸くした。
「以前、ちょっとした治験に付き合ってもらったんだ」
背中や首周りの傷が消えたことに関して騎士団にどう説明していたのか不明だったので、隆一は漠然とした答えを返しておいた。
「ふうん?
まあいいや。知り合いなら紹介の手間が省けた。
アーシャが今季の飛行船担当だから、何か質問があったら彼女に聞いてくれ。
アーシャ、知っているようだが招かれ人のリュウイチ殿だ。一応壊さなければ何でも見て良いという事になっている。質問にも答えてくれ。
上手くいけば運搬用の魔道具の新しい物を発明してもらえるかもしれないから、荷物運びや移動に関しての問題点とかもあったら言っておくと解決策を考えてくれるかも知れないぞ?」
何やら騎士団にとって都合のいい事をそそのかした後、デヴリンは慌ただしく手を振って姿を消してしまった。
あっけにとられたようにデヴリンが消えていった扉を見ていたアーシャだが、小さく肩を竦めると隆一の方を向いた。
「それじゃあ、取り敢えず実際の魔法陣があるところを見るかい?」
「ああ、よろしく頼む」
お互いの近況について雑談しながら二人で歩いて辿り着いたのは、2階構造になっている飛行船の上層部だった。
大繁殖が起きた時や山賊などの大規模な襲撃があった時の急襲船として使われるらしきこの船は、二階建てバスをもう少し横に押しつぶして一回り大きくしたような感じだった。
2階は前方に運転席があり、その後ろに安置された厳重な鋼のような合金で守られた観音開きの戸棚の中に魔法陣が刻まれた魔道具があった。
「あれ、飛行船なのにオリハルコンを使っているんだ?」
魔道具を軽く鑑定したところ、素材がオリハルコンと出てきたことに驚いて隆一が声を上げた。
元々、反重力の術式はオリハルコンを使うか、飛行船のような大きなサイズに拡大・分散して刻まなければ侵食して破損してしまうというのが馬車にすらそれが活用しにくい理由のはずだったのに、なぜにこれだけ大きな飛行船にオリハルコンを使うのか。
「この飛行船は急襲用の軍の運搬船だ。
攻撃を受けるのが前提条件だし、攻撃を受けて船体が一部破損しても墜落しないことが求められるんだ。
そうなると船体全体まで広げなければならない魔法陣なんて刻めるわけがないだろう?」
肩を竦めながらアーシャが答えた。
なるほど。
対空ミサイルとか機関銃は無いかも知れないが、魔法がある世界なのだ。
高位魔物の中にも魔術や斬撃を使うのもいるという話だし、確かに船体全体に刻まなければならない魔法陣なんて危険すぎるかも知れない。
「そう言えばそうだな。
ちょっと見させてもらうよ」
引き出しのような保護箱に入っている魔法陣を引っ張り出し、術式を確認する。
こんな場所に設置されているのだ。
確実に反重力の効果範囲を指定する定義づけがあるだろう。
他にもきっと色々実用的な工夫がなされているだろうから、楽しみだ。
何か良いアイディアを盗ませて貰ったら、次の運搬具の作成には軍の希望を聞くのも有りかも知れない。
世の中、持ちつ持たれつなのだ。
役に立つことをしてくれたらこちらも何かお返しをした方が、次回も頼みごとをしやすくなる。




