8.デヴリン・アシュレンの事情
探索者とは、社会の弱者が一攫千金を願って迷宮を探索する為の職業だが、腕に自信がある人間が柵のない環境で身を立てるために選ぶ職業でもある。
迷宮で高ランクな魔物、例えばドラゴンなどを倒せばその骨や爪、牙、肉その他諸々が高額で売れる為、とてつもない高収入を得ることが出来る。
下層部の宝箱からは更なる躍進が可能になるようなとてつもない威力の武具が出ることも、国々がオークションで競い合うような人の手では再現できない機能を持つ神具クラスのアーティファクトが出ることもある。
腕の立つ探索者の存在は魔物の大氾濫が起きた際に町の防衛の成功に不可欠であり、ドラゴンのような伝説級魔物が現れた場合には金ランク以上の探索者でなければ討伐はほぼ不可能であることから、国は上位探索者を国に誘致するのにいとまがない。
そして迷宮の最下層部まで行ってダンジョンマスターを倒せた場合には神に願いをかなえてもらうことすら可能と言われている。
とは言え、多くの探索者は自分の初期装備の費用を賄う為にギルドから借金をして、それを返すのに四苦八苦することが多い。
対魔物戦闘ではプロフェッショナルとして銀ランクあたりとなれば騎士団からも諸手をあげて歓迎されるが、大抵の探索者は宮仕えの気苦労が面倒な騎士団に入るのではなくそのまま迷宮を潜り続け、やがて怪我で引退するか人知れず下層部に潜ったまま帰らぬ身になることが多い。
デヴリンはソロで銀ランク、パーティで金ランクの超一流探索者だった。
デヴリンたちのパーティ『暁の輝き』は探索者としては珍しく斥候役のアズィール以外は貴族階級の人間が集まってできたグループだった。
お蔭でそれなりに計画性を持って行動が出来ていたし、酒に酔って変な騒ぎを起こしたりもしないし珍しいほど上手くいっているグループだと思っていたのだが・・・ゼルゲダール伯爵領の迷宮の下層部で『世界樹の白杖』が出たことで歯車が狂った。
『暁の輝き』では依頼報酬や魔物の買取から生じる収入の2割は装備や薬の為として共同口座に貯金し、宝箱から出た物は武器や装備品の場合はそれを使うのに一番適した人間が受取り、特に誰も使わないような物はオークションに出して収入を分配することになっていた。
繰り返し同じ人間が使うものが出た場合は前の物を売りに出して分配するか、当人がその分を買い取ることになっていたのだが、『世界樹の白杖』はヒーラー用の杖であったにも関わらず自分でも使えるということで魔術師のレディーナが欲したのだ。
『世界樹の白杖』が見つかったのがレディーナの生家であるゼルゲダール伯爵領だったこともあり、迷宮から出てきた後に実家でその発見を口にしたら、父であるゼルゲダール伯爵にそれを入手したら跡継ぎとして指名すると言われたらしい。
本来の跡継ぎであったレディーナの弟である長男が、貴族の子息が通う王都学院でスキャンダルを起こして頭を抱えていたところに伝説級アーティファクトである『世界樹の白杖』の話を聞いたのだ。伯爵はそれを王家に献上し、金ランクパーティの一員で超一流探究者として名前が売れていた長女に伯爵家を継がせることで問題の収拾を図ろうとした。
『家を継ぐための条件として父親に出された』と言えば恋人であるレディーナの頼みを聞いたであろう回復師のジャルスは、『魔術師である自分でも使えるからくれ』という言葉には頷かなかった為・・・レディーナはジャルスを殺して奪おうとしたのだ。
ジャルスが『暴漢に襲われて死んだ』となれば『世界樹の白杖』を使うことが出来、彼の恋人でもあったレディーナが杖を形見分けで受け取ることに残りのパーティメンバーも文句は言わなかっただろう。
彼女がジャルスを殺そうとする現場に『どうも恋人に捨てられるかもしれない』と悩みを聞いて前の晩から酒を付き合って泊まっていたデヴリンが居なければ。
父である伯爵が、男爵の妾腹の3男などという元恋人は邪魔だと娘に言ったのかも知れない。
単なる平民ならまだしも、貴族に縁がある金ランクパーティの探索者だ。
幾ら生まれが微妙とはいえ、一応王都学院にも通った元恋人は都合が悪いと伯爵か・・・本人が思ったのだろう。
どちらにせよ、寝ぼけ眼で起きていたところで仲間の後ろからナイフを突き立てようとしている女の姿を見て、とっさにデヴリンは蹴りを入れて・・・首を折ってしまったので真意の程は分からない。
何故仲間だったレディーナが突然恋人を殺そうとしたのかの真相は分からず、この時は『仲間割れ』ということで話は解決してしまった。
レディーナが何故あのような暴挙に出てしまったのか分からないまま、暫くしてから『暁の輝き』は新しく魔術師を仲間に迎え、気持ちを一新して今度は王都の迷宮にもぐったのだが・・・その新しい仲間の魔術師はゼルゲダール伯爵に買収されていた。
伯爵は『世界樹の白杖』を諦めていなかったのだ。
跡継ぎとなった長女が仲間から貰ったというのだったら不自然ではなかったが、既に娘が死んだ後だというのに『世界樹の白杖』が伯爵家の手に入ると言うのは不自然な話にならざるを得ないというのに、伯爵家の権力で話を捻じ曲げられると思ったのか、裏ギルドに手をまわして、迷宮の下層部からの帰りに中層部へ来たあたりで魔術師と組んで不意打ちをしてパーティ全員を殺そうとした。
が、伯爵にとっては不幸な事に彼らはソロでも銀ランクであるデヴリン達の強さを過小評価していた。
盾役のダルディールは左膝を砕かれ、斥候役のアズィールは片足の膝から下を失ったが、裏ギルドの人間を排除し、魔術師も術を行えないよう叩きのめして理由を聞きだした彼らはなんとか迷宮を出て、探索ギルドと王宮にゼルゲダール伯爵の暴挙を訴えた。
『暁の輝き』のメンバーが貴族に連なる人間が多かったこと、王国でも数少ない金ランクのパーティだったのにそれが解散に追い込まれたこと、各メンバーが銀ランクという高ランク探索者だったことなどから王宮も問題を重視し、ゼルゲダール伯爵家は子爵へ降格され、当主は隠居して王家から派遣されたお目付け役の下で10歳の次男が家を継ぐことになった。
だが。
それでも貴族の腕は長いと斥候役のアズィールは報復を恐れて別の国へ移った。
ダルディールは現役の探索者を引退して探索者ギルドで働くことになり、デヴリンは以前から誘われていた騎士団に入ることにした。
一人では流石に迷宮の下層部まで潜るのは難しいし、流石にあれこれあった後に新しいパーティを結成する気力もなかったのだ。
とは言え。
家庭の事情で今でも頻繁に迷宮には潜っている。
そんなデヴリンは春のとある日に、迷宮に入ろうと探索者ギルドに顔を出したらダルディールとスフィーナに声をかけられた。
これからそこそこ出てくる元探索者である騎士さんのバックグラウンドです。
説明が長いですがお付き合いください~。




